彼女にいくら『可愛い』と言えても、『好き』なんて言えない。
言ってしまえばどうなるか。そんなこと、のっちでもわかる。
三人の関係が壊れるのを一番恐れているのは彼女。
だから、言えない。
それでも振り向いて欲しいって思うのが恋する乙女ってやつで。
最低で最悪な手段を使った。
「まーた彼氏とメールしとるん?」
「ん?…うん」
楽屋で携帯を弄るゆかちゃんに彼女は話しかける。
そして、のっちにも。
「ちょっと、のっちも?」
「うへへー」
わざと照れたように笑ってみせれば、彼女は寂しそうな顔をする。
のっちはその顔が好きだった。
少しでものっちのことを気にしてくれてるって思えて、嬉しかった。
「二人してなんなんよ、もー…
あ〜ちゃん話相手おらんけぇ、もっさんとこ行く。」
嬉しいと言っても、彼女が傍から離れてしまう寂しさに比べたら小さいものなのに。
何やってんだろ。
そう思いながら、適当にメールの返事を作る。
必然的にゆかちゃんと二人きりになった楽屋で、
携帯のボタンを押す音だけがするのはある意味異様な光景。
最近ゆかちゃんも彼氏が出来たと言っていたけど、正直のっちはそのことに違和感を感じていた。
なんか違う。どうものっちと同じ匂いがする。
こういう勘って鋭いんだよね、自分。
「ゆかちゃん」
「何?」
「彼氏なんて居ないでしょ」
「何言ってんの…?」
ゆかちゃんの携帯のボタンを押すリズムが狂った。
勘が当たったと確信するには十分だ。
「違うの?のっちは居ないよ、ホントは。」
「…」
「恋人ごっこしてるだけ。いや、してもらってるのかな。」
のっちが本当のことを話せば、ゆかちゃんはごまかせなくなる。
ゆかちゃんはフェアだから。
「…何でわかったん?」
ようやく携帯を閉じて、のっちの顔を見てくれた。
「あ、当たってた?いやぁー…やっぱりうちら、似てるわ」
「どういうこと?」
「ゆかちゃんとさ、結構趣味とか感性とか似てるじゃん。
自分がそうだから、ゆかちゃんもそうなのかなって思って。」
これも本当のこと。
彼女とは違って、ゆかちゃんとは相通じる所が多い。
自分でそう言っといて、少しだけドキッとした。
のっちと同じことをしてるってことは、もしかして…。
「ふふっ、凄いね。でも、のっちはなんでそんなことしてんの?」
「きっとゆかちゃんと同じだよ」
思い切ってカマをかけた。
「え…」
「あ〜ちゃんに振り向いて欲しいから。…違う?」
ゆかちゃんがのっちから視線をずらした。
もしかして、そんなところも似てるの?
前に深刻な顔して溜め息をついていたのは、このこと?
ゆかちゃんの気持ちが知りたくて、家に来るように誘った。
「で…話聞かせてよ。何か悩み事?…あ〜ちゃんが関係してんのかな。振り向いて欲しいってことは。」
自分と同じ気持ちであって欲しくないと願いながら、優しく聞いた。
「コンプレックスなんよ。」
「コンプレックス…?」
ゆかちゃんの口から出た言葉は、のっちの予想するものではなかった。
ゆかちゃんの話を聞きながら、どこかで安心している自分がいた。
「うーん…その気持ちわからなくはないよ。」
そんな自分を擁護するみたいに、ゆかちゃんの気持ちに合わせる。
「のっちは辛くないの?」
ゆかちゃんがこれだけ正直に話してくれたんだもん。
のっちも正直に話さないと。
「んー…のっちはあ〜ちゃんのそこに惹かれたんだけどね。」
「やっぱり、のっちってあ〜ちゃんのこと好きだったんだ。」
「『やっぱり』って…気づいてたの?」
「気づくも何も…」
呆れた顔をするゆかちゃん。
いいよ、いくらでも呆れてくれて。
「…でもゆかちゃんのことだって羨ましく感じる時あるよ。」
ついさっきまでゆかちゃんにライバル心燃やしそうになってたお馬鹿なのっちなんて、呆れてくれて当然。
一安心したら、ほら。言葉がスラスラ口から出ていく。
「ありがと…」
「ん、いやいや…」
別に感謝なんてしなくていい。
もしゆかちゃんがのっちと同じ気持ちだったら、
きっとこんな言葉かけてあげられなかっただろうから。
心狭いなぁ。
また彼女と対照的。
つづく
最終更新:2009年08月01日 20:47