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学園祭まで後二日。迫ってくるその日に向けて踊りと歌の練習にも熱が入る。
本番では中田先生が後ろでDJをやってくれる。リアルタイムで声にエフェクトをかけてもらう。
息が切れるとエフェクトのノイズがヒドくなるから、一曲しか歌えない。
だからこそその一曲を全力でやりたいし、最高のパフォーマンスでお客さんを楽しませたい。
あたしたちは今日の放課後も教室で練習する事にした。

「かっしー、今のとこ足曲がっとるよ。」
「のっちもそこの手のフリ遅れとる。」
「あ~ちゃん今の ディスコ ってとこちょっと遅れた。」
あたしたちはお互いの欠点を指摘し合って少しずつ完成度を上げてきていた。
なんといってもダンスが難しい。いじめかと思うくらいに水野先生のフリは細かかった。

のっちは持ち前の柔軟性で難なくダンスをこなしていた。楽しそうな表情。
普段ののっちからは想像もできない。これでもっとモテモテになったらどうするんじゃ。

ゆかちゃんはあたふたしながらも常に笑顔。ゆかちゃんにはお客さんの姿が見えてる。
少し傾いた首の角度。頭の中のお客さんの事を見てるその目。すごく綺麗。

窓から差し込む夕日があたしたちを照らす。あたしはしゃがみこんで二人を見上げた。
眩しい。
直視できないけど、二人の目は深いオレンジ色に染まってこの世の物とは思えない輝きを放つ。

やっぱりあたしはこの二人の事が大好きなんだ。
のっちが好きとか、ゆかちゃんが好きとかじゃなくて、三人の距離が、この状態が好き。
本当は二人に引っ張られて、助けられて、いっぱいいっぱいの時も支えられて。
そんな風にしてやってきたんだよね。あたしも二人に寄り添って過ごした日々。
あと一ヶ月もすれば卒業だという事に今更気がついた。あたしたちの時間は確かに進んでる。
でも、止まったままの様でもあって、不思議と嫌じゃなかった。


「あ~ちゃん?どーしたの?」
ゆかちゃんの綺麗なオレンジ色の目があたしの目の前にあった。
「うん、ちょっと疲れただけ。休憩にしよっか。」
のっちがくるっとこっちを向く。
「やったー!休憩~♪」
はしゃぐその姿もそろそろ見納めかねぇ。
ゆかちゃんのその穏やかな声も毎日聞いていられなくなる。
学園祭が始まるのが急にイヤになった。
始まれば終わる事は十分に分かってるから。

あたしたちはその後3時間歌い踊り続けた。
汗びっしょりで喉もからから。疲労の限界が来て、あたしたちは教室の床にばたっと倒れた。
笑いがこみ上げる。あたしたちは上体を起こすと、背中をぴったりくっつけるようにして座る。
「明後日かぁ。」
ゆかちゃんがしみじみと言うから、なんかおばあちゃんみたいで笑ってしまう。
「明後日だよ。」
のっちも少し寂しそうだ。みんな考えてる事は同じ。
終わるってことを自覚したくなくて、あえて深く突っ込んだ話はしなかった。
ただ二人の体温を感じてるだけでいい。幸せだった。



「あ、ごめん!今日お母さんの用事あるからあたし行くわ!」
のっちが急にぴょんと立ち上がってそそくさと荷物をしまうと行ってしまった。
「じゃあ、明日また頑張ろね!」
変な走り方。ゆかちゃんもちょっと笑ってた。

「ねぇ、あ~ちゃん。大学の第一志望違うんよね?」
急に切り出されたから少し驚いた。ゆかちゃんの声が少しだけかすれた。
「...うん。先生と話し合ったんだけど、やっぱり第一志望変えない事にした。」
「そうだよね。あ~ちゃんによく合ってると思う。すごいいい大学みたいだし。」
ゆかちゃん泣いてる?背中合わせで顔は見えないけど、触れた指先がかすかに震えていた。
「ありがと。ゆかちゃんに毎日会えないんだよね。なんか変な感じだわぁ~。」
「毎日メールするよ。電話でもいい。会えなくても多分大丈夫。」
ゆかちゃんの声は揺らぎながらも、確信に似たものを含んでいた。
「何が大丈夫なんよ?」
「あたしらの繋がりはきっと切れないよ。そうだ、学園祭の時にこしじま先生が歌う曲の歌詞。
 英語なんだけどさ、あ~ちゃんならすぐ分かると思うから。よく聞いてみて。」
なんだろ?すごく気になるけど、後になって分かる事もあるから今はいいや。
「うん。」

会話が途切れたとき、背中からすすり泣きが聞こえた。夜中の静かすぎる教室に優しく響く。
あたしはそっと体を離してゆかちゃんの前に回った。
目を真っ赤にして、音も無く涙を流すゆかちゃんの表情。きっと一生忘れない。
これまでに見た事も無い、神聖な物を見たような気分。
なんか込み上げてあたしはそっとゆかちゃんを抱きしめた。

あたしも泣きそうだった。バレるのが嫌で、一層強く力を込めた。
「泣かなくてもいいのに。まだ終わってないんだから。」
「なんかさぁ、こんなに二人と一緒に行事に入れたの初めてでさ、もっとやっとけば良かったって
 今更になって思うの。悔しいよね。生徒会とかもっと投げ出しても良かったのかも。」
そっかぁ、あたしからすればゆかちゃんは生活の中に当たり前にいて、いつも一緒にいたつもり
だったから、ちょっと意外。でもそう思ってくれたんだ。
普段感情がなかなか表に出てこないゆかちゃんがこんなにはっきり言ってくれた事が嬉しかった。

「いいんだよ、そんなこと帳消しになるくらいゆかちゃんとの時間は中身が濃かったから。」
涙が止まらなくなったゆかちゃん。どうしようもなく愛おしくなった。
わなわなと震えて言葉がうまく出てこなくなったその唇にそっとあたしの唇を重ねた。
ゆかちゃんの震えが止まっていくのが分かった。
しばらくしてそっと唇を離すと、ゆかちゃんはニッコリ微笑んだ。
「ホントにあ~ちゃんは優しいねぇ。最後くらい文句言われても怒らんよ?」
そんなものない。ゆかちゃんには感謝しても感謝しても足りないくらいだから。
こうやって、この先も、少しずつ地道に恩返しできたらなって思うよ。
でも、このタイミングでちゃんと本音聞けてよかった。

「そろそろ帰ろう。」
ついつい遅くまで残ってしまった。名残惜しいけどそろそろ帰らなきゃね。
帰り道あたしとゆかちゃんはなんとなく手をつないだ。
お互いの一部を共有してるみたいで、その感覚が大好きだった。
ゆかちゃんの家の前で別れるまでその手はほどける事は無かった。

「じゃあ、また明日。」
その笑顔はいつものゆかちゃんに戻ってた。
「うん、明日ね。」
あたしは角を曲がるまでずっと手をふり続けた。
残りの日々を大切に過ごせるように神様に祈りながら。







最終更新:2008年10月11日 01:08