「着いた!」
さほど遠くに来た訳じゃないのに、吹き抜ける風は驚くほど涼しく感じた。
高台にある木々に囲まれた白壁の二階建て。
小学生の時は両親と毎年来ていた。
親戚の叔父さんと叔母さんも一緒に…。
久々に来たその場所は、新鮮でもあり、懐かしくもあった。
大きなトランクケースを二つと小さなボストンバックを抱えたのっちが鍵を開ける。
ミーンミーン
セミの声も此処では心地良くすら思えた。
「管理人さんが綺麗に掃除しておいてくれたようですね」
砂一粒落ちてない玄関。
ワックスでキラキラ光っている廊下。
広いリビングダイニングの、大きな窓を開けると、広いコテージ。
コテージのガーデンテーブルでよくお母さんが紅茶を飲んでいたのを思い出した。
コテージからは海も見渡せる。
「バカンスに来たみたい。」
まぁ、バカンスに来たんだけど。
「のっち!海行こ!海!」
小学生のようにハシャいで、階段を上る。
「着いたばかりですよ?少しお休みになられたほうが…」
実家の自室よりは狭いけど、それでも一人部屋としては充分すぎる寝室。
のっちはトランクケースに詰めこまれた洋服をクローゼットに仕舞いながら呆れたように言った。
「ぶぅ〜…つまんなーい」
「明日にしましょ?時間はたっぷりありますから」
「…少し散歩してくる」
冷静なその言葉に少しシュンとする。
ドキドキ、ワクワクしてるのは自分だけみたい。
◆◇◆◇◆⊿
カンカン照りの太陽は、木々に阻まれここには涼しい風が吹くだけ。
緑地を抜けると地元の民家が見えてくる。
アスファルトの照り返しに目を細めて、誰も居ない道路を少し行くと曲がり角に駄菓子屋が見えてた。
懐かしい。
小さい頃、海からの帰り、このお店でアイスキャンディを買うのが習慣になっていた。
そのアイスはどんな高級なデザートより美味しく感じた。
「まだ売ってるんだ」
店先に置かれたアイスクーラー。
一つ、買ってみた。
「ゆかお嬢様!」
「あっのっち」
日傘片手にこっちに向かって走ってるのっち。
「おーい、のっちぃぃ」
大袈裟に手を振る。
日傘持ってるならさしてくれば良いのに…。
「探しましたよ…」
広げられた日傘の下、迎えに来てくれたのが嬉しくて、そっと寄り添ってみる。
「ゆかお嬢様?」
「のっち、アイス食べよ」
「いえ!ゆかお嬢様の分ですよね?」
「ふふっ、侮るな〜」
アイスの袋を開け、中身を取り出す。
「お!」
双眼鏡のような形のアイスに棒が二本付いている。
「これね?半分に割って…」
パキッン
「2人で食べるんだよ」
片方をのっちに渡す。
「初めて見ました!」
新しい玩具でもって買ってもらった子供みたいw
「つめた〜」
「染みる〜」
「のっち、おっさん臭い」
「良いんです。夏だから」
「何それw」
「夏のせいにして…」
「ん?」
「…何でもありません///」
「あっ!絶対今やらしいこと考えとった!」
「違います」
「顔赤いですよ〜」
「夏だからです!暑いからです!」
「ウソ、ウソ〜」
のっちが広げてくれている日傘の下。
のっちとアイス食べながら、歩くこの時間が心地よくて、今年の夏は楽しくなると確信した。
避暑地、無事初日終了。
最終更新:2009年08月01日 21:38