これは、4年前の「あの日」のお話。
side-K
今朝の予報は一日いっぱい晴れ。
晴れの門出の前日というのにふさわしい天気 になるはずだった。
同じ日の午後3時。
わたしたち3人は予報はずれの雨のために、1つの傘にムリヤリ3人で入っていた。
「あー!もうこの天気マジないわぁ・・・」
「アホ!わかっとる!でもそんなこと言ったら余計テンション下がるじゃろ!」
「だってぇ・・・ いたぃっ!」
あ〜ちゃんがのっちの頭を叩いたみたい。
のっちもあ〜ちゃんも愚痴ってるわりには楽しそうな顔をしてた。
こんなふうに3人でふざけあえるのは多分今日が最後。
明日の今頃あ〜ちゃんはこの国にはいないし、のっちもこの町にはいない。
わたしは、のっちのことが好き。
もちろんあ〜ちゃんのことだって好きだけど、それとは違う好き。
今だって、ぎゅうぎゅうな傘の中で腕が密着してるだけで顔が熱くなってしまう。重症だ。
旅立つ前に気持ちを伝えたって、これからはこんなふうに気軽に会えるわけじゃない。
もしわたしの気持ちを受け入れてくれたところで、先が見えない恋愛になるのは間違いないんだ。
考えれば考えるほど泥沼にハマってく思考を止める事が出来ない。
そんなわたしの頭の中を知る由もない二人は楽しそうに話をしている。
「でもさ、旅立つ日の前日としてはホント嫌な天気だよね。」
「だよね〜。でも明日晴れた方が飛行機使う人にはいいんじゃないの?」
「気持ち的な問題じゃ。二日とも晴れるにこしたことはない。」
「そりゃそーだね。」
「そーいえばさぁ、ゆかちゃん明日どうする?」
「・・・ えっ?? あっと・・・ ごめん!聞いてなかった。」
「うわぁ!珍しー。ゆかちゃんが人の話聞いてないなんて今日は雪でも降るんかね。」
「ゆかちゃん明日どーすんの?って話。あたしはあ〜ちゃんの見送りしてから行くけど。」
「あぁ、明日は一日なんもないから、あ〜ちゃんものっちもちゃんと見送りするよ!」
「さすがゆかちゃんじゃね。ありがとう。」
「それぐらい当然よ。大事な親友の見送り行かないなんてありえんじゃろ」
なんていいながら、内心はそれどころじゃない。見送りなんて行ったらきっと号泣しちゃう。
ホントは笑顔で見送りたいって思ってるのに、体はそうしてはくれないんだろーな。
傘からはみ出した肩が濡れて、ひんやりとした冷たさがそこから全身に広がっていく。
「しっかし、この傘も危なっかしいね!さっきから何回も骨がひっくり返りそうになっとる。」
「でもよくがんばってくれてるほうじゃない?3人を雨から守ってるんだからさ。」
「そーいえばさ・・・・」
「「ん?」」
「傘さす時にいっつも思うんだけどさぁ、傘って漢字は人が4人入れることになってるじゃん。
うちら3人でもこんなギリギリってか、もうゆかちゃんとのっち若干濡れちゃってるじゃろ?
だからうちとしては傘って漢字からは二人出てかなきゃいけんと思うんよ。
んでその二人がもう一本傘つかえばいいと思うわけ。」
「う〜ん・・・ なるほど?」
のっちもゆかも微妙な反応。
「だからね、今あ〜ちゃんはこの傘出て行くから。」
「「はい?」」
「二人でなかよ〜く、この傘使いんさい。」
「「へっ?」」
「じゃ、明日ね〜♪」
そういってあ〜ちゃんはわたしたちにウィンクをして、踊るようにさっさとどこかへ消えてしまった。
side-N
ちょ、、、あ〜ちゃん・・・
この状況どうしろと!?
わたしがゆかちゃんを好きだってあ〜ちゃんには言ったのに・・・
こんなビミョーな空気を残していって、のっちにどうしろというのですか!?
残された二人の間によくわからない、気まずい沈黙が流れる。
二人があ〜ちゃんに引き合わせられて間もない頃、二人きりにされた時と同じ空気だ。
歩き出す事も出来ずに、なんとか沈黙を破ろうとする。
「ゆかちゃ・・」「のっ・・・」
二人同時に話しだして、同時に止まった。
そして同時に笑い出す。
なんでゆかちゃんってこんなに楽しそうに笑うんだろう。
カワイイなぁ・・・ やっぱのっちゆかちゃんのこと好きだわ。
そう思ったらなんかもう止まんなくなってた。
「ふふっ、のっちからどーぞ。」
「ありがと。あのさぁ・・・ゆかちゃんのこと好きだ。ずっと前から。友達としての好きじゃな い好き。」
「えっ?」
「だからぁ、ゆかちゃんに恋してるってゆーかさ、とにかく好き。」
ゆかちゃんの顔がみるみる真っ赤になっていく。
ふと我に返って、もとのビビリな自分があたふたしだす。
「いや、別にさ・・・行く前にちゃんと伝えときたかっただけで、どうこうしたいとかじゃないから・・・ そんな 期待はしてな・・
「じゃあゆかものっちを好きだって言ったらどうこうしてくれるんだ?」
「へっ!?」
「ゆかものっちのこと好き。ずっと前から。」
「ゆかちゃ・・・・
「あ、雪!」
「おぉ!!」
見上げると、開きっぱなしになってたピンクの傘に今年初めての雪がついていた。
「ホントに降った・・・・」
「さすがあ〜ちゃんじゃ。天使の言う事はホントになるもんなんだぁ。」
♪〜
二人同時にケータイがなる。
メールの送り主はあ〜ちゃん。
『ありゃりゃ、ホントに降っちゃったね♪
ゆかちゃんがぼーっとするってゆーのはすごいことなんだね!
ちなみにぼーっとしてた原因は解決できたかな?
のっち、アンタもじゃよ!ちゃんと解決させてから行きんさい。
ついでに、傘はわたしから二人へのプレゼント。返さなくていいよ♪ あ〜ちゃん』
さすがとしかいいようがない・・・
全部あ〜ちゃんの計画通りってことなのか。って感心していると、ゆかちゃんがケータイを閉じて、こっちを向いた。
「のっち。」
「ん?」
「帰ろ。」
傘を持つわたしの左手にゆかちゃんのあったかい右手がそっと重なる。
お互い何も言わずに、初雪が舞う中を一緒に歩き出す。
明日からは一緒にいられない。けど、何年かたったら、二人で一緒に歩んでいけるように。
わたしはこのときそんな事を願ったんだ。キミの体温を感じながら。
side-K(現在)
あの時わたしの指先に滑り落ちて来た雪の冷たさとは正反対に心はすごく温かかった。
私の気持ちなんかとっくに見抜いてて、最後にアシストをしてくれたあ〜ちゃんを想って。
私のことを好きだって言ってくれたのっちを想って。
あの日の次の日、わたしは二人を笑顔で送り出す事が出来た。
のっちとは、ごらんの通り、再会して二人で暮らしてる。
でもあ〜ちゃんとはそれ以来会えてない。きっと留学先で元気にやってるんだろう。
時々電話はする。だけど、あ〜ちゃんは忙しくてなかなか帰ってこられなくて、顔は見てない。
電話だってもう1年くらいしてないんじゃない?
なんかちょっと緊張する。
「のっちー。あ〜ちゃんに電話するよー!」
「おうっ!」
ちょっと震える指先であ〜ちゃんの番号を押す。
プルルルルルル・・・
「はい!西脇です。」
「あ、もしもし!あ〜ちゃん? ゆかだよ! あのさぁ・・・
4.Wednesday おしまい。
最終更新:2009年08月01日 21:58