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<side Mr. Yasutaka Nakata>


学園祭二日前。放課後。
オレは当日流すトラックのマスタリングを終えて、一息ついていた。

今年の学園祭の準備楽しかったなぁ。
あの三人とゆっくり話せたのも楽しかった。彼女たちの若さと勢いは強烈だ。
それから作詞にゆっくり取り組めた事。
気持ち込めただけに照れくさくて全英詞にした。聞いて欲しかっただけだからそれはそれでいい。

急に眠くなってきて、俺はコーヒーを一気飲みした。
ふと気になってケータイをチェックする。新着メール一件。

樫野有香           

おっ、樫野か。なんだ?
「今日は8時くらいまで練習してから帰ります。」
あんま内容無いな。なんでだろう。ガッカリしてないか?俺。
樫野からのメールに期待してた俺の存在に気づいた。
ここ最近の放課後はずっと樫野と話してたからなぁ。妹みたいな感じに思ってたのかもな。

癖で軽く首をまわした。小気味よい音をたてて首の骨が入る。
ちょっと疲れてるかな。最近ずっとパソコンの画面と格闘してたし当然か。
今日は早めに帰宅しようか。明後日は本番だし、睡眠は取っておきたい。



残業を片付けるともう8時を回っていた。結局早く帰れなかった。
そういえばあいつら練習終わってちゃんと消灯したんだろうか?
後で言われるのは担任の俺だ。気になって教室に向かった。

教室の前の廊下に立つと、まだ光が漏れていた。
あいつら案の定電気消してなかったか。確認しに来てよかった。
教室のドアを開けようとドアノブに手をかける。
誰かの声がした。

ん?あいつらまだ残ってたのか。随分頑張ってたんだな。
西脇と樫野の会話のようだ。でも二人とも蚊の鳴くような声。
誰もいない静かな学校でさえも響かない。それほどに細くて砕けそうな声。

「いいんだよ、そんなこと帳消しになるくらいゆかちゃんとの時間は中身が濃かったから。」

西脇の声がいつになく優しかった。きっと二人にとっての大切な時間なんだろう。
これ以上話を聞くのも野暮だなと思い、俺はその場を離れようとした。

ただ、見てしまった。

ドアの上部についた小さな窓。見ようと思った訳じゃないし、本当に偶然だった。
教室の後ろでしゃがみこんでキスする二人の姿。二人とも泣いてるのか?
お互いを慈しむようで、まるでそこだけが天国になったみたいで、芸術品のように美しかった。

でも、俺の思考回路はそんな事をすべてすっとばした。
一番最初に感じた感情。どうしようもない程に強い嫉妬心。
俺の中で何かが外れてしまったんだ。ただ一つウソじゃない気持ち。

俺は、樫野の事が好きだ。

今確信になった。俺はこしじま先生に対してその感情を持っているんだろうと思っていた。
でも違った。話しかけられなくなって寂しいのは樫野で、メールが来なくて辛いのも樫野だった。
生徒だ。そんな感情を抱いちゃいけない。でもこの数週間の俺は何かが違うんだ。
これまでに無いくらい生きてる事が楽しい。
まるで初めて感情を知ったコンピューターみたいな気分だ。

この想いを伝える事は絶対にないけれど、せめて卒業するまではちょうどいい距離で見ていたい。
一緒にいられる最後の時まで彼女を守れるように。

よくわからないけど自分の中の何かに決着がついた気がした。
俺はきっと明後日何かを知る。その何かに期待して俺は足早に学校を出た。







最終更新:2008年10月11日 01:15