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この世界の何処を探しても、2人を見つけることはできないのかな。
誰もいない世界。
1人きりの世界。


「置いていかないでよ…」


いつだって不意に言いたくなる。
3人が当たり前だった頃。
人が沢山いて当たり前だったあの頃。
思い出しては、誰もいない景色を見て現実を知るんだ。
なんでこんな事になっちゃったんだろう…。
1人になんてなりたくなかった。
2人が消えちゃうなら、一緒に消えてしまいたかった。


あの日から、私はずっと彷徨い続けてる。
2人がきっとどこかにいると、そう信じ続けながら。
静かな世界。
車も、電車も、飛行機も、何も動いていない。
信号機が壊れてぶら下っている道路。
チカチカと点滅してるお店の看板。
賑わいの無くなった街が、これほどまでに寂しさと不安を感じさせるなんて思わなかった。
2人はどこに行ってしまったの?


ずっと信じたくなくて、どこかに誰かいるはずだって、思ってた…。
あれからどれくらい経ったんだろう。
2人と、それから世界中の人々が姿を消してしまってから。
私はずっと一人ぼっち。
悲しいという感情が麻痺してわからなくなるくらい、ずっと一人ぼっち。
朝目が覚めて、気がついたら涙が流れてる。
それが私の当たり前の日常になった。


「なんでのっちだけ…残っちゃったんだろう…」


あの日、確かに3人で笑ってた。
あ〜ちゃんも、ゆかちゃんも、のっちの隣で笑ってたんだ。
手を伸ばせば届く距離で、優しい笑顔を向けてくれていた。
それなのに、なんで…。
私だけ、残ってしまったんだろう。


ある時、新しいウィルスが発生した。
それは静かに、しかし確実に、世界に広がって、地球全体に恐怖をもたらした。
そのウィルスに罹ると、静かに眠るように死を迎え、体の細胞を溶かし、跡形も無く消してしまう。
そんなウィルスを誰も止める事はできなかった。
確実に増えていく患者。
静かに死を迎えていく人々。
人口の激減。
どうすればよかったんだろう。



あの日、あ〜ちゃんの様子が変だった。
ゆかちゃんと2人で心配してたの覚えてる。
だって、ウィルスが蔓延していたのを知ってたし、あ〜ちゃんの様子があのウィルスに罹った時の初期症状と酷似していたから。
怖かった。
ただただ怖かった。
治療法の無いウィルスだってずっとテレビで言ってたし。


「大丈夫よ〜」


そう、あ〜ちゃんは笑ってた。
でもその笑顔は全然大丈夫じゃなくて、私達は泣いてしまった。


「あ〜ちゃんは絶対大丈夫!何があっても2人と離れたりせんけぇ」


笑いながら言い切って、ドン!と胸を叩いたあ〜ちゃんが今でも印象に残ってる。
かっこよかったけど、泣きそうに笑ってた。
ゆかちゃんと泣きながら、『大丈夫、あ〜ちゃんは大丈夫だよ』ってお互いを励ました。
それを見て、『困った子達じゃね〜』って抱きしめてくれたあ〜ちゃん。
あの時、あ〜ちゃんはどんな気持ちでいたんだろう…。


翌日、あ〜ちゃんは私の知らない場所に行ってしまった。
信じられずにいる私とゆかちゃんを残して、さよならも言わずに。


あ〜ちゃんを見なくなってから数日。
今度はゆかちゃんの様子がおかしくなった。
ゆかちゃんも、あの時のあ〜ちゃんと同じ様に笑って言った。


「ゆかは大丈夫!」


『あ〜ちゃんも同じこと言ってたよ』
そう言ったら、困ったような顔して、そして泣きそうな顔して笑った。


「ごめんね…のっち…、心配かけちゃった。でも、ゆかは大丈夫だよ」


そう言って、やっぱり笑ってた。
あの時のあ〜ちゃんも、今のゆかちゃんも、本当はすごく怖かったんだよね。
なのに…死の恐怖を感じながらも、私の事を考えてくれてた。
それなのに…泣きながら行かないでって、信じないって…私は本当に最低だ。
本当はずっと一緒にいて笑い合いたかった。
たとえ最後まで側にいることができなかったとしても、可能な限り、側にいて笑っていようと必死になればよかった。
今更だよね…。


2人の最後の姿は泣きそうな笑顔だった。
大好きだった2人は、最後まで私に優しかったのに…。
ゴメンね。
2人からみた私は泣きそうじゃなくて、泣いてたよね。
不安だったのは私よりも、2人の方だったのに…。
今更言ってもしょうがないけど。



私はどうしてかウィルスに罹らなかった。
2人のいない世界で1人でいるくらいなら、さっさと罹ってしまいたかったのに。
世界からどんどん人が消えていくのを眺めながら、私は一人ぼっちの悲しさに泣いていた。
2人がいない世界が寂しくて。
私以外の人がいなくなる世界が怖くて。


それからまもなくして、街で人を見る事はなくなった。


2人が生きているのか死んでいるのか、正直分からない。
死んだって証拠がないんだから。
ただ2人を見なくなっただけ。
2人と会えなくなっただけ。
もしかしたら、遠い場所で治療してるのかもしれない。
2人がいなくなって、泣き疲れていた私は、次第にそう考えるようになっていた。


そして…、私は2人を探す旅に出ることにした。
ウィルスに罹ったら、その人の体、細胞を消してしまうって知ってたけど、2人を信じていたかった。
あ〜ちゃんも、ゆかちゃんも、のっちに言った。
『大丈夫』
その言葉が、今の私の生きる希望。
だから今も歩き続けてる。


2人がいればそれでよかった。
2人と一緒にいられればそれだけで幸せになれた。
2人が笑ってくれれば嬉しかった。
2人の温もりを感じられるだけで安心した。


だから、私は2人を探し続ける。
絶対に、この世界のどこかに2人はいるはずだから。
どこか遠くにいて、のっちを待ってるはずだから。
この歩みを止める事はできない。


早く…2人に会いたい。
会ってまた、笑い合いたい。



『…っち…』
『の…ち』


声が聞こえて、歩みが止まった。


『…のっち…』


私を呼ぶ声が聞こえる。


『のっち、はよこっちきんさいや』
『のんのん!おっそーい♪』
「あ〜ちゃん?ゆかちゃん?」


慌てて周りを見渡しても、誰の姿も見当たらない。


「空耳?」
『のーっち!どこ見よるんよ〜』
『ほんまによ。ゆか達を見つけられんて重症じゃ!』


再度、周りを見渡してみる。
真っ直ぐ続く道。
乗り捨てられた車。
左右には高いビル。


「あっ!!」


真っ直ぐ続いている道の先に人影が見えた。


『のっち!』
『ようやく見つけてくれた』
「あ〜ちゃん!!ゆかちゃん!!!」



何かに引っ張られるように走り出した体。
疲れていたはずなのに、なんだかとても足が軽い。
2人が私に手を振っている。
その顔は笑顔で、私も笑顔。


「2人とも、帰ってきたの?」
『ううん、あ〜ちゃん達は帰ってきたんじゃないんよ』
『のっちを迎えに来たんよ』
「迎えに?」
『うん』
『のっち…これからはずっと一緒だよ』


2人はそう言って、優しく私の手をとった。


『ずっと…一緒?』
『ほうじゃ、ずーーーっと一緒じゃよ』
『やっぱりゆか達は、3人じゃないといかんのよ。わかった?』
『…うん!!』


私に優しく話してくれる2人。
前と同じ優しい空気。
これをずっと望んでいた。
ずっと探してた。


『それじゃ、行こっか』
『行くってどこに?』
『ゆか達がずっと3人でおれる場所よ』
そう言って、ゆっくりと歩き出した。


誰もいなくなった世界に、眠るように横たわる人。
その顔は、とても穏やかに微笑んでいた。
幸せそうな彼女を照らす夕日。


『あ〜ちゃん、ゆかちゃん、ずっと一緒だよね!』




そして、彼女を見送った世界は、静かに終わりを迎えた。


〜end〜






最終更新:2009年08月22日 20:32