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<side nocchi>

2月14日。いよいよ学園祭当日。
昨日の前夜祭が終わった後、あたしたちは一度だけ中田先生と合わせをした。
その時の感じだと好感触。きっとお客さんを巻き込んで楽しめるだろう。
おとといあたしが帰ってからゆかちゃんとあ~ちゃんに何があったのかは分からない。
だけど、明らかに変わっていた。うまく説明できないけど、凄くいい感じに仕上がっていた。

「のっち、おはよっ!」
いつものことながら晴れやかな笑顔のゆかちゃん。今日もさわやかだねぇ。
いつもよりも歩いてる姿から軽やかな感じを受けた。
日差しを受けたゆかちゃんのサラサラな長い髪の毛がキラキラしてる。眩しい。

後ろから走って来たあ~ちゃん。
「おはよー!」
あたしの前でピタリと止まる。ふわりと甘い香りがした。
いつも以上にはつらつとした表情を見せるあ~ちゃん。楽しみにしてたんだね。
「ほら!早く行かにゃあもうすぐ開店時関よ!」
しまった!模擬店のオープン時間が迫ってる。
歌の出番は午後イチだけどそれまではウェイトレスをやらなきゃいけない。
あ~ちゃんはあたしとゆかちゃんの手をぎゅっと握ると猛ダッシュした。

足が速いあ~ちゃんにはついていくのでも精一杯。必死で後についていかなきゃ行けない。
でも、あたしはそれをイヤだと思う事は無いし、むしろ あたし今青春してる! とか思う。
その瞬間があたしにとっての最高で、そのまま時間を止めたくなってしまう。
だけど、時間は確実に流れていくから、あたしはその瞬間を網膜に、脳に、強く焼き付ける。



「大本、西脇、樫野!遅い!!」
いきなり中田先生のお叱り。
教室に飛び込むと、雰囲気はすでに立派なディスコ。
あたしがお茶を吹いたあの暗幕もバッチリ貼ってあった。
飲み物などのセッティングももうすべて終わっていて、後は中田先生とあたしたちの頑張り次第。
ターンテーブルもセットされていて、そこには緊張でガチガチの中田先生の姿があった。

「あ~ちゃん、のっち、これ着けて。」
ゆかちゃんにエプロンを差し出されて急いで着けた。若干丈が短かったけど、まぁ我慢。
「午前中はあんまり気張らんと頑張ろう!」
「おー!」
あ~ちゃんのかけ声であたしたちはそれぞれの持ち場についた。
時間がやって来た。2日間だけディスコへと変貌する教室。ギラギラの照明のスイッチが入る。

開店時間が来ると同時にドアが開いた。中田先生が挑発的なビートを刻み始める。
待っていたお客さん達がなだれ込む。結構忙しそう。これはガンバらにゃいけんね。
お客さんは自由に踊りまくっていた。飲み物のオーダーも多かった。
午後は踊るのに、午前中だけでへとへとになりそうなくらい動いた。
中田先生は、ワケわかんないおっきいサングラスかけて、すごい怪しかった。
でも、いつものなんだか頼りない感じが無くて、カッコ良く、上手くやっていた。

そして、午前の部が終了。昼休みは生徒の昼食時間があるので、一時的にBGMだけの時間になる。
あたしたちの向かいの教室では、バレンタインに絡めてカフェなんかもやっていた。
チョコを大々的に売ってる。そういえば今年も二人にはチョコあげたいなぁ。
あたしはそのカフェに入って散々悩んだあげく、ゆかちゃんには苦みが強めのビターを、
あ~ちゃんにはミルク多めのスイートを買った。
午後のあたしたちのパフォーマンスが終わったらプレゼントしよう。

約束の時間。あたしたちはそれぞれ昼食をとって、教室に集まった。
3人それぞれお互いに制服を整えた。
ゆかちゃんは髪の毛を後ろで結って、あ~ちゃんは髪にお気に入りのコサージュをつけていた。
最高の姿をお客さんに見せるためだ。あんなに遅くまで毎日練習した。
いじめかと思うような水野先生の気合いの入った指導にも頑張ってついていった。
高校生活の最後に最高のステージを三人で作りたい。それだけだ。
二人もきっと同じ気持ちだと思う。
「緊張する。」
ゆかちゃんがポツリと呟いた。あ~ちゃんが笑う。
「じゃ、気合い入れよう。 いい?大丈夫、こんなに頑張ったんじゃけぇ。頑張るぞっ!」
「おぅ!」
あたしとゆかちゃんはテンション高く返事した。なんか大丈夫そう。不思議な安心感に包まれた。


「準備いいか?」
中田先生がこっちに来た。先生はすっかり慣れて来たみたいでさっきの緊張は消えたようだ。
「はい。」
先生はあたしたち一人づつの目をゆっくりと見た。
「うん。お前らが頑張ってたのはわかってるし、もし本番でミスしても俺はなにも文句無い。
 変な頼みを引き受けてくれてありがとう。感謝してる。」
中田先生が笑った。同士を見るような目暖かくて優しい目。
あたしたちは手をつなぐと、目を閉じてステージに立った。
ギラギラの照明に目が眩むけど、確かにステージを強く踏みしめた。
目をゆっくりと開ける。そこにはずっと想像の中だけにあったお客さん達の顔があった。


<side kashiyuka>

目の前に広がるお客さん達の笑顔。期待に満ちた表情の小さい子供もいてあたしは嬉しくなった。
あ~ちゃんが繋いだ手をほどくと、マイクのスイッチを入れた。深呼吸が聞こえた。
「みなさん、こんにちはー!早速ですが自己紹介します。西脇綾香、あ~ちゃんです!」
あ~ちゃんが笑ってこっちを見る。あたしの番だ。目線のバトンを受け取った。
「樫野有香、かしゆかです!」
今度はあたしがのっちにバトンを渡す。のっちは変な顔で笑った。
「大本彩乃、の... のっちです!」
うわ、噛んだ。お客さんから笑いが起きる。まぁのっちらしいしOKか。
そして、あ~ちゃんがびしっと締める。
「短い時間ではありますがよろしくお願いします!」

あたしは中田先生の方を見た。
目が合った気がした。サングラスで目が見えないから分からないけど、たしかにニッと笑った。
先生に対する絶対的な信頼があったから、こんな提案を受け入れて、今ここに立っている。
あたしは先生をいじり続けたから伝わってるか分からないけど、本気で感謝してる。
大好きで、大切で、他の何にも変えられない二人と一緒に最後の学園祭をやらせてくれたこと。
この日のために何日も寝ないでパソコンに向かってくれた事。
最高の先生、お願いしますよ。

あ~ちゃんは、何事かを話し続けていた。お客さんの反応も上々。
ミニライブのMCのような物だから、あ~ちゃんにはうってつけの仕事のように思う。
あ~ちゃんがあたしとのっちに目配せする。中田先生はもうゴーサインを出していた。
「では聞いてください。チョコレイト・ディスコ」

キラキラしたイントロが流れ始める。多幸感に溢れたメロディー。
あたしたちの高校生活もすごくキラキラしてたんだろうなぁ。この曲に何か近い物を感じた。
そして、歌が入る。二人とも楽しそうな表情。
サビの振り付けが可愛い。手をくるくる動かしてピョンピョン跳ねる。
一番が終わった頃から、隣のカフェからカップル客が入ってくるようになった。
この曲の歌詞の内容がバレンタインだから反応するのもまぁ当たり前かな。
終盤に差し掛かると、あ~ちゃんがお客さんを煽り始めた。
「みんな、一緒におどってくださーい!」
あ~ちゃんの呼びかけに答えるようにお客さんが手を動かしだす。
♪~チョコレイト・ディスコ
教室中にいる人たちでサビを大合唱。みんな踊りながら歌ってる。嬉しそうに。
お客さんの表情が鮮明に分かるほど強い照明。お客さんの笑顔が輝いてる。サイコー。
曲が終わっても、あたし達がはけても、まだ会場は盛り上がっていた。

最高のステージで、最高のメンバーで、最高のパフォーマンスを見せた事。
間違いなくあたしの高校生活で一番最高の思い出になった。
ステージを降りたあたしたちは一昨日と同じように言葉も無く寄り添った。

「写真撮ろう。」
あたしが何故急にそんなことを言ったのかは自分でもよくわからない。
でも、その時間をただそのまま流してしまうのがもったいなくて、
その瞬間を切り取ってずっと心の奥深くにしまっておきたいと思ったんだ。
その時の写真の中のあたし達の笑顔はこの3年間が凝縮されて詰まっていた。
最高の一枚。二人とも、ありがとう。






最終更新:2008年10月11日 01:32