彼女の舌が唇からするすると肌を伝って降りていく。
彼女の手は腰をなぜている。
大きな手のひらと細い指はどう動けばいいか知った風に、緩やかな動きのくせして的確な快感を与えてくる。
舌でぬらぬらと舐めほぐし歯で刺激を与えられることに意識を集中していると
不意に動く手の、そのイレギュラーな動きにピクリピクリと体が反応して奥がきゅっとなる。
「っ……」
唇を噛んで声を抑える。するとゆかちゃんが顔をあげた。
「のっちってあんまし声出さんよね」
「?」
「そういうのっていいと思う」
「どしたん?」
「んーふと思った。急じゃね」
軽く笑うと妖艶だった顔があどけなく崩れてドキリとする。
「あ、そだ、この前抱いた子がね、いいとかイキそうとかすごい言いよる子じゃったけ。そんで……」
自分以外の人の話なんて、それも最中に、聞きたくなんかないよ。
「のっち……? あ、妬いてるん? かわいい」
目を閉じた顔が近づいて耳の辺りに吸い付いた。
かわいい、なんて彼女からしたらたいして意味もないんだけど、そうわかってても嬉しくて、馬鹿みたい。
彼女の舌がまた肌を伝う。
じわりと滲んだ汗を舐める。
「っ、いやらし……」
「んふふ。顔を崩さんようにって耐えるのがそそるけぇ」
それまで舐めていた舌がつんつんと首周辺のいたるところをつついて、つついたと思ったら
「……ぃ!」
今までにない感覚。ゆかちゃんが噛みついた。
とはいえあまり痛くもなく彼女のにやにやといやらしい顔に内心少し嬉しい自分がいる。
噛みつかれてもそれでも愛しいだなんて
でもそんなことはばらす気がないから形だけでも眉をしかめる。
「ん、コワ、でも、かわいいよ。痛いのもたまにはいいでしょ?」
彼女の顔が更にいやらしく歪む。
「のっちはうるさく言わんよね。八の字眉も好きだよ」
急に太ももの内側が撫で上げられて体が大きく反応する。んふふ、と彼女が笑った。
「たまに気に入って、何回か会うと勘違いして、束縛してくる子がいるけど、そういうのって困るし」
そういいながら今度は手で人のアゴを勝手に引いて裏を噛んだ。
「その上噛むと慌てるし、怒るし。気持ちよくしてるんだからちょっとくらい許してほしいって」
何か確かめるように彼女は喉に指を這わせる。
「そりゃいきなりされたら怒るっしょ」



「のっちは怒らんでしょ?」
それは、それは……
「違う……から」
「え? 何が?」
……気持ちが、なんて。
「なんでもな」
「気持ちが?」
「ぇ、あ」
「だってのっちはゆかが好きでしょ?」
そういって喉のところをこりこりと刺激する。
心臓が高く脈を打って何も言えない。
「違うの? ゆかはのっち好きだよ?」
言えるわけない。
ちゅ、と音をたてて彼女は喉にキスをした。
「他の子を抱くのはまぁ、暇潰しだけど、のっちは違うよ。のっちが求めてくるとしたくなる」
喉元に当たる彼女の吐息が熱い。
「ゅ、」
「ねぇ、歯形、つくかも。つけてい?」
視線だけずらすとあのあどけない笑顔でこっちに期待の視線を向けていて
あぁそっか、って思ったけどそれでも一度焚き付けられた欲の焦燥は止まらない。
「ぃい、よっはぁ……早く……」
それだけいうのが精一杯だった。


その後のことはあんまり覚えてない。
胸がきりきりと痛くて、喉よりそっちのがかなり深刻で。
いつも以上に声が出ないのは喉が苦しいからなのか胸が苦しいからなのかわからない。
ただ、呼吸さえ苦しくて、喉が渇いて仕方なかった。


「ふぁ……」
目が覚めると部屋は真っ暗だった。
ゆかちゃんは帰ったのかな?
外からざあざあと雨の音が聞こえる。
とりあえず顔を洗おうと立ち上がると小窓から見えた外も真っ暗でガラスに強く雨が降りつけている。
かなり降っているみたいだ。
そういえば初めて抱かれたときもこんな夜だったっけ。
のっちの家に遊びに来たけれど傘も意味がないくらい酷く雨が降るものだから帰りたくても帰れなくて。
それを見て「遣らずの雨だね」なんて彼女はいってた。
そのなんともいえない表情に初めて強く自分の気持ちを意識したんだ。

蛇口を捻ると溢れだす水。冷たくて熱を覚ますには心地がいい。

——ちょっと痛いくらいがイイんよ。

——ほら、こんな濡れてる。

覚えてないはずの記憶がフラッシュバックする。
「よく降ってるね、雨」
「あ、ゆかちゃん……」
「のっち、のっち」
顔を向けると彼女がくすりと笑って首を指差した。
鏡を見ると首の周りには綺麗な朱に痕。
「首輪みたい」
「……」
「今日も遣らずの雨だね」

おわり。





最終更新:2009年08月22日 21:02