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白濁した意識と涙で歪んだ視界がゆっくり戻ってくる。
目の前にはのっちの顔。
おっきな目を少し細くして、甘く優しく笑う。ゆかの大好きな、ゆかしか知らない笑顔。

髪をなぞる手とあたたかく触れる唇。
…しあわせって、多分きっとこういうことじゃ。
目を閉じて、強くつよく思う。

そんな満たされた時間の余韻に浸ってると、のっちがゆかの髪で遊び始めた。
くるくる指に巻き付けてみたり、ぱらぱらーって落としてみたり。
せわしない子じゃねって、
気の利いた言葉の一つも言えんのかって。
言ってやろうにも、のっちがこんなにも穏やかに笑うから。
少し、せつなくなる。


「‥ゆかちゃん?泣いとるん?」

「え…」


言われて気付く。のっちの眉が下がっとる。
なにしとん、ゆかは。
早く、何か言わなくちゃ。


「‥っち、」

「ゆかちゃん?」

「どこにも行っちゃ、嫌じゃ…」


口をついで出たのは、思ってても絶対言わん言葉。
違う。こんなのいつものかしゆかじゃない。
かしゆかは急に泣いてのっちを困らせんし、
泣きながら抱き着いたり、
こんな無理な我が儘なんて絶対に言わん。
……でも、ゆかは。ゆかの気持ち、は。


こんなにもいとおしい時間も、大事な温もりも、いつか離れていくのじゃろ?
ゆかは、あとどれくらいのっちといれる?
不安ともちょっと違う。ただ、せつないんよ。


「おるよ、ずっと傍に」


少し体を離して、のっちはそのでっかい瞳でゆかを見た。


「難しいことはようわからんけぇ、聞かんでよ?
でも、今この瞬間、のっちはゆかちゃんのことが大好きで…」

--昨日までののっちも、ゆかちゃんのこと、ぶち好いとうよ。
…そんで、明日ののっちは、今よりもっとゆかちゃんのこと、好きになっとるけん。
じゃけぇ、のっちはゆかちゃんからずっと離れないよ--


きっと、幸せとせつなさは1セット。
あたたかい気持ちも、苦しい気持ちも、全部ぜんぶきみがくれたもの。
光に比例して広がる影も、魔法の一言で救われる。
胸がつまって窒息しそうなゆかの手を、いつもそっと握ってくれる。

…根拠なんて無くてもいいのかもしれんね。
だって、まぶたに落ちるキスがこんなにもくすぐったい。
計算も論理も持ち合わせとらんけど、この王子様なら、もしかしたら‥。

目を閉じる間際に感じたのは、大切な人の体温と、穏やかな心音。
明日の朝、目を開けて最初に感じるのもこの心地だと思うと、ゆかは安心して眠りに落ちていった。


end.






最終更新:2008年10月11日 01:53