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《過去》


サイドN


伸ばした腕は、いとも簡単につかまえた。
細くて筋肉質で決して柔らかい体じゃないのに、あったかくて優しい。
もっとふわふわしてる子を抱き締めていたはずなのに、、。


『やっぱ、、だめだ、、。やめよう、ゆかちゃん。』
だってやっぱりのっちの頭の中はあ〜ちゃんばかりだよ。


『じゃあ、今すぐ離してくれればいいよ。』
そうなんだ。抱き締めてるのは間違いなくのっちの腕なんだ。
この腕を離せばいいだけ。ただそれだけのことなんだ。
だってほら。かしゆかは抱き締め返してはくれない。


『・・・・・いいの?』
口から出たのはなんとも情けない言葉。
矛盾している感情が、見事に言葉になって外へ出た。


『なに、のっち?とめてほしいの?』
優しい口調で話す。いつものことながら、また言ってる言葉は優しくない。


『そうじゃ、、ない、けど、、、』
口ではそんなことを言いながら、抱き締める腕の力は強くなる一方だ。


『ねぇ、のっち?』
頬に手が触れた。今日初めてかしゆかがのっちに触った。
八の字になってるであろうのっちの顔を優しく見つめて、かしゆかは言った。
『のっちがね?とめてほしいなら、やめたくないって思ってくれるなら、ゆか全力でとめるよ?
でもね?ゆか、もう二番目飽きた。だから選んでくれないなら、もうやめよ?
今すぐ離して、なかったことにしてくれていいよ。』


なんでそんな優しい目をするんだよ。ゆかちゃん、なんで?
『・・・・・』
何も言えないのっちの頭を、その大きくて優しい手の平で何度も撫でてくれた。
『ふふwでものっち、決めらんないでしょ?w』
うん。そう。だってのっち、そんな決定権いらないんだもん。
その小さな含み笑い。それ、最高に好きだよ。





『じゃあ、ゆかが決めてあげよっか?w』


小さな含み笑い。それ最高に好き。
長い黒髪。最高に好き。
大きくて優しい手。最高に好き。
笑うと細くなる右目も、よくチロッて顔出す赤い舌も、
口角が上がった触れると柔らかい唇も、最高に好き。
優しいところも、冷静なところも、甘えん坊なところも、大人っぽいところも、どれも全部最高に好き。
やっぱのっちやめらんない。
だってこんなに“好き”が溢れちゃってる。


『・・・・・うん。』


もう戻れない。だって、託してしまったから。
でもさ、逆に、なんでこんなに好きなのに離れなきゃいけないんだよ。
いっそ考えないように、、せめて二人でいる時は考えないようにして、うまくやっていけないの?
ねぇ、ゆかちゃん。
もう戻れないところまできちゃったよ。辿り着いたのはここだったよ。
でも、あ〜ちゃんにはなんて言ったらい、、、


『あ〜ちゃんとこ戻りな。』


いいんだろう、、ね?


えっ?


『ずっとずっと好きだった。』


何で?
ゆかちゃん?
今、、なんて?


『多分ずっとずっと愛してる。』


うん。だからさ?
のっち達これからちゃんと、、、


『バイバイ、のっち。』


えっ?
なん、、で、、、?


頬に触れたその手は、皮肉にも“これでもか!”って程にぬくもりを残してく。
細い体は簡単にのっちの腕から逃げだして、音もなく玄関のドアを開けて、閉めた。
そのわずか数秒のうちに何か出来る程、のっちの頭は賢くできてない。


最後までゆかちゃん優しかった。
最後までゆかちゃん可愛かった。
これで最後まであの含み笑いが見れたら完璧だったけど、、。
でも、、ゆかちゃん泣いてた。
のっちのこと振っておいて、泣いてた。


違う。
ゆかちゃんずっと、泣いてたんだ。



《現在》


サイドN


—ピンポーン—


『あっ!あぁ、わざわざ来てくれたの?』
『なん、それ?くるよ、普通!熱は?』
『あー、、はかってないや。』
『やっぱりw』


あ〜ちゃん、元気ですか?
だらしないのっちは本格的に風邪をひいてしまいました。あの頃から変わらず、好きな人には情けないところを見られてばかりです。


『なんか食べるー?』
『んー、、食べる。』
『食欲はあるんだ?w』
『・・・うんw』


あ〜ちゃんの親友は元気です。あの頃から変わらずのっちには優しくて優しくてしょうがないです。だから甘え方ばかり覚えてしまいました。


“ベタだけど、、”って言って作ってくれたお粥をベッドの上で食べる。
すぐ脇にあるソファに体育座り。かしゆかは座った。ちょこんって。


『結局こうなるんだからさぁー』
『熱っ!ん?』
ゆっくり食べなよ。取らないから。ってかしゆかは笑った。あの、いつものやつ。
『・・・で、なに?』
『ん?あぁ、やっぱいいや。』
こうやって一回はぐらかすのが、どうやら好きみたい。
でもなぜか、のっちもはぐらかされるのが好きになったよ。
『なんだよ。』
『ふふwあててみて?』
この余裕の含み笑い。もう貫禄さえ感じるよ。
ねぇ、あ〜ちゃん。あ〜ちゃんもきっと幸せだよね?
のっち、進んでいいのかな?
あの時のまま、あ〜ちゃんのこと完結できてないし、解決できてないのに。
のっち、次に進んでいいのかな?
のっちだけ進むのは、今でもちょっと気がひけるんだよ。あの時ずれた歩幅はもう合わないけど、次に進む時のスタートラインは一緒がいいな。
ねぇ、あ〜ちゃんもきっと幸せだよね?


『一緒に暮らす?』
『ふふwあったりーw』
のっちは幸せなんだ。怖いくらいにさ。
あんなに、あ〜ちゃんあ〜ちゃん言ってた自分が嘘みたいに。今はこの人といるこの空間が凄く大切に思うのね。
元々うちらは似てるから、価値観のズレが少ないんだよ。考え方が似てるってゆうかさ。
『だから、のっち?そろそろちゃんとしなきゃ、ね?』
『ん?』


『あ〜ちゃん』


ほらね。同じこと考えてる。
なんでもお見通しなところも変わってないし、相変わらず優しいんだ。





最終更新:2009年08月22日 22:10