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ゆかちゃんが以前のゆかちゃんに戻り始めたのは、あの日からだ。
ゆかちゃんがあたしを求めることは苦痛ではなく、むしろ安心を与えるものだった。
行為の度に必ず付けるあの痕も、あたしにとっては愛おしい。
さっきの撮影の時、のっちに気付かれたのは焦ったけど。
下手な嘘ついてごまかしたのは、なんとなくのっちにはバレちゃいけない気がしたから。
だけど撮影が終わった後から、のっちの様子が少しおかしいからきっとバレちゃってるんだと思う。


「のっち!のっち!!」
「あ…何?」
「どしたんよ、ボーッとして」
「そんなにボーッとしてた?」
「しとったよ!もう…また夜中までゲームしとったんじゃろ」
「まぁ…そうかな」


ボーッとしてる理由がそんなことじゃないってわかってるよ。
のっちは逃げ道を知らないから、あたしが逃げ道を教えてあげたの。
あたしにとっても、逃げ道だし。
あまり深くこの痕について考えさせたくないから。
のっちとの関係にまで、軋みを生じさせたくない。


「のっち、顔洗ってきたら?」


ゆかちゃんが読んでいた雑誌から目を離し、のっちに提案する。


「でもメイク…」
「次、違う雑誌じゃけぇ、どうせメイク一旦とるじゃろ」
「あ、そっか」
「あと楽屋出るついでにお菓子買ってきてよ」
「えー?それどこがついでなんよ…まぁいいけど」


適当にパーカーを羽織って帽子を被り、のっちはふらふらと控室を出ていった。



扉が閉まると同時にゆかちゃんは雑誌を閉じて、頬杖をつきながらあたしを笑顔で見つめる。


「あ〜ちゃん、のっちに何か言ったん?」
「何も言っとらんよ。ただ…気付かれただけ。これに。」


あたしが首筋を指差すと、ゆかちゃんは納得したように頷きながら自分の席を立ち、あたしに近づいてきた。


「ん、ちょっと見せて?」


あたしの後ろに回って、その痕の辺りを指で撫でるゆかちゃん。


「ふふっ、まだ紅いね。」
「ひゃっ、ちょっと!」


首筋にヌメヌメとした感触。
ゆかちゃんの舌、だ。
腕を引っ張り上げられ、そのまま身体ごと壁に押し付けられる。


「ゆかちゃん…ここ、控室だよ?」
「わかってるよ」
「それなら」
「ゆかのこと、いつでも受け止めてくれるんじゃろ?」
「それはそうだけど…」
「だったら、良いでしょ?」


そう言われると何も言えなくなる。
ゆかちゃんはあたしの耳を甘噛みしながら、身体中を弄り始めた。


ゆかちゃんの頭越しに見えた机の上。
乱雑に置かれた写真や取材資料の中に山が出来ていた。
その山の間からチラリと見えた物に、あたしは心臓が止まりそうになった。
見えたのは、のっちの財布と携帯。


「ゆ、かちゃんっ!のっちすぐに帰って、くる、ぁっ」
「…帰ってこないよ。コンビニまで結構あるもん」
「違っ、のっち、の」
「今はゆかのことだけ考えててよ」


ゆかちゃんはあたしの口を塞ぐようにキスをしてきた。
左手は脇腹辺りを撫で、右手はワンピースの中に下から入ってくる。


何度か身体を重ねるうちに要領を得たゆかちゃんは、
確実にあたしの敏感なところを責めてくる。
いつの間にかあたしも目を閉じて、ゆかちゃんの舌に自分のを絡ませていた。


「ん、はぁっ、」
「っ、あ〜ちゃん、入れるね」


その言葉と同時に、ゆかちゃんの長い指があたしの中に入ってきた。
再び口を塞がれて酸素が足りない中、あたしの意識が一瞬飛んだ。





「のっちがさ、ゆか達の関係知ったらどうなるだろうね」


ティッシュでさっきの行為の形跡を拭き去りながら、あたしに問う。


「…驚くんじゃない?」
「ゆかは驚くどころじゃないと思うよ。二人でこんなことしてるって知ったら。」


ゆかちゃんはあたしにそのティッシュを見せつける。


「のっちって意外とこういうことに抵抗感じてるんよね。イノセンス…って言うやつ?」
「そうなん…」
「特にあ〜ちゃんがしてるって知ったら、死んじゃうぐらいショックかも。」
「なんで『特に』なんよ。ゆかちゃんだって一緒じゃろ?」
「違うよ。ゆかとあ〜ちゃんじゃあ。」


ゆかちゃんはごみ箱にそれを捨てて、
鞄からハンカチを取り出した。


「だって、のっちはあ〜ちゃんのこと好きだから。」


そう言ってゆかちゃんは出て行き、あたしは一人控室に残された。


気付いてなかった訳ではない。
それとなく察してはいた。
じゃあ、なんで?


突然、のっちの携帯が震える。
あたしはその携帯の画面を見た。


このメールの送信主は、のっちの彼なんでしょ?
あたしのこと好きなのに、なんで付き合ってんの?


あたしの知らないのっちがいることを、初めて知った。








つづく





最終更新:2009年08月22日 22:15