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《過去》


サイドN


『ごめん。いきなり来ちゃった、、。』
ドアを開けてくれたあ〜ちゃんは、のっちの顔を見て驚いた。
『あっ、、のっち、、、。』って。


なに?
のっちだよ。
誰だと思ってドア開けたの?


『めずらしいね』って言って廊下を進むあ〜ちゃんの後ろ姿。なんだ。こんなにちっぽけだ。
何を怖がっていたんだろう。天使か何かと勘違いしてたかな。
あ〜ちゃんは、あ〜ちゃんだ。上でもなければ下でもない。
だけど正面でもない。なんかズレてるもん。
空圧が身にしみる。目にもしみて、涙出そうになる。


『悔しいな、、。とられちゃった、、、。』


口から出たのは、ドアが開いてからの数秒で感じとった質感の違い。
“わけわかんない”って顔で振り返ったあ〜ちゃん。
本当はわかってるでしょ?演技しなくていいよ。下手なんだから。


『誰だっけ、あいつ?名前も出てこない。』


悔しいな。名前も知らないやつにとられちゃったよ。
腑甲斐ないな。そんなことすら、そいつ経由で気付いたよ。
情けないな。せめてあ〜ちゃんとの間で気付きたかったよ。




あ〜ちゃんは演技をやめた。
下手くそなんだ。最初からしなけりゃよかったんだ。
あ〜ちゃんは泣いた。
知ってんだ。強くなんかないんだから、最初から泣けばよかったんだ。
かしゆかとの関係に気付いた時から、泣き叫んで、怒って、殴ってくれればよかった。
『全部許す』
なんて。
こんな仕打ちを受けるくらいなら殴り殺された方がよかった。


柔らかい手の平が頬にむかって伸びてきた。
でも、のっちの体は無意識にそれから逃げた。
あ〜ちゃんは泣いた。
わかってるよ。これでおあいこだ。のっちだって強くない。こんな時は泣けばいいんだ。
でも、涙の出し方、忘れちゃった。


『ねぇ、のっちはどうすればいいの?』


あ〜ちゃんに答えを求めるのはずるい?のっちは優しさのつもりだけど。
ただ、自分の口から辛い言葉を言いたくないだけかもな。


もういいよ。あ〜ちゃんの好きにしなよ。行きたいなら行きなよ。
でもさ、タイミング悪すぎ。のっち戻るとこ、もうないんだよ。こうなるなら無理にでも繋ぎとめてた。
なんて。ずるい?でも、ずるいけど本心。
それだけ本気で想ってた。






『・・・・・許して、、。』


ねぇ、あ〜ちゃん。おかしいよね?のっち達。
それでも一緒にいたいって思うんだね。
これってなんなのかな?やっぱり愛なのかな。


『・・・うん。しょうがない、よ、、。』


もう一度伸びてきた手の平から今度は逃げなかった。
ちゃんと受け止めようと思うから。ちゃんと許そうとも思うから。
だって、あ〜ちゃんなしじゃいられない。
お互い一人じゃいられないよ。そのくらいは、ちゃんとわかってる。


あ〜ちゃんを許そうと思った。
あ〜ちゃんが許してくれたのと同じように。
あ〜ちゃんだけを愛そうと誓った。
あ〜ちゃんが想ってくれるのと同じように。
運命なはずだ。とびっきりの恋のはずだ。
切なくなるはずじゃない。切なくなるわけじゃない。
運命の赤い糸でお互いの体を縛り付けて、がんじがらめにすればいいんだ。
誰にも邪魔されないように。
他のどこにも行けないように。



《現在》


サイドA


運命の赤い糸だとか、とびっきりの恋だとか。
私とのっちの恋の話って、どれも空想で、まるでお伽話。だったね。
現実だと思いたくないことには目をつむって、嘘だと思いこんだ。
その嘘さえも、“私のため”だと思いこんで“愛”だと勘違いした。
間違いじゃなかった。けど、正しくもなかった。


ねぇ、のっち?


『・・・・・』


なんでかな。言葉にならない。
よくわかんないんだけどね?まぶたが熱くなったよ。胸がチクッてしたよ。
言葉にならない想いが溢れだしそうだったから、こぼれ落ちないように、上向いたんだ。
そしたらいつか見た満天の星空がそこにあって。だけど隣にいた人はもういなくて。
それなのに星空は相変わらず綺麗で眩しくて。思わず眉間にしわ寄せたら、涙が吹き出したよ。


私、あの時、笑ったのかな、、、。


あの時の自分のこと、全然思い出せなくて。
だけど、あの時の生温い春の風と、のっちの言葉。忘れられなくて今でもずっと、頭の中で繰り返してる。


なんでだろ?
忘れたいことばかり覚えてる。


なんでかな?
涙、止まんないや。





最終更新:2009年08月22日 22:40