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—あの時—


『もう、だめ、だね・・・』
季節は春だというのに、吹きすさぶ風はやけに冷たくて、涙がつたうあ〜ちゃんの頬をカサカサにしていった。


『・・・な、にが、、、?』
気付かないフリをするのが精一杯なんだけど、本当はもう何もかもわかってるんだ。
辛い言葉、のっちの口から言えないだけなんだ。
それを言った時のあ〜ちゃんの悲しそうな顔といったらないから。
そんなふうに思ってたら、
『本当によくないよ。意気地がないってゆうか、はっきりしないところ』
それを察するかのように言ってくるけど、それは何に対して言ってんのかな?


『・・・な、にが、、、?』
気付かないフリすら出来なくて強がってみたけれど、聞かなきゃよかった。
あ〜ちゃんに辛い顔、させたくなかった。
あ〜ちゃんに辛い言葉、言わせたくなかった。


『許せないのはのっちじゃん!』
そうだよ?悪いかよ。そんな強くないんだよ。


『好きなら好きって言えばいいじゃん!!』
あぁ、、、最悪だ。こんなはずじゃなかった。
こんな展開、望んでなかった。


“あ〜ちゃん、ごめんね。本当にごめん。
でものっちはあ〜ちゃんが好きだよ。
だから許して?これからも一緒にいて!
幸せにするよ!!”


本当は今頃そう言ってたはずなのに。
はっきりしないのがよくないなんて、言われなくてもわかってるけど。
やっぱりいざ言われるとグッとくるよ。情けない。でも治らない。


『・・・な、にが、、、?』
三度目の“なにが?”
それしか言葉を知らない子供みたい。逃げる言葉ばかり選んでる。
でも、三度目は、本当に言わなきゃよかった。
だって『好きなら好きって言えばいいじゃん!!』その言葉の相手があ〜ちゃんじゃないことは明確だし、二人ともわかってるのに。わざわざ名前だしたくなかった。





あ〜ちゃんの涙は春の風に吹かれてカサカサしてる。
本当は今すぐ、その頬を撫でてあげたいけれど、その役目はもう自分じゃないし、それをする相手もあ〜ちゃんじゃない。


一瞬怒ったような顔をして、それでもそれを耐えながら困った顔であ〜ちゃんは泣いた。


『ゆかちゃんはいいなぁ、、こんなにのっちに想われて、、、』


違う。違うよ、あ〜ちゃん。
のっち、ちゃんとあ〜ちゃんのこと想ってたよ。
嘘じゃないよ。本当だよ。
何で届かなかったんだろう?
何で伝わらなかったんだろう?


『のっち、あ〜ちゃんのこと、、、
『言わんで!』


また、だ。


『言ったところで“本当”に思えない、、。』


あ、そっか。もう続きは違うのか。
本当に、“終わり”なんだ、、。





季節は春だというのに、見事なまでに別れの季節になっちゃった。
最初から終わることを考えて一緒にいたわけじゃないのに。
ううん。むしろ、一生傍で笑い合ってると思ってた。
ごめん、あ〜ちゃん。全部のっちがぶち壊したんだね。


だったら、、
だったら、最後に一言だけ言わせて?
本当に伝えたかった言葉とはちょっと違うけど。


ねぇ、あ〜ちゃん。


『幸せになってね』



春の風がやんだ。
だからあ〜ちゃんは泣くのをやめた。
春の風がやんだ。
だからあ〜ちゃんは頬をぬぐった。
春の風がやんだ。
だからあ〜ちゃんは無理して笑った。


『さよなら』


『さよなら』


最後に二人で言い合って、
冷たい風は生温い春の陽気に変わって、
二人の物語は終演を迎えた。


春の風がやんで、あ〜ちゃんは背をむけて歩きだした。
だから変わりにのっちが泣いた。


違う、、。


泣いてない、、。


泣いてない、、。


泣いてないよ!


風がやまなければよかった。
『さよなら』なんて、風が消してくれたらよかった。


季節は春だというのに、つたう涙が切なすぎて、薄手のパーカーの袖でぬぐった頬がカサカサした。
世界で一番愛しかった後ろ姿が見えなくなる頃、それは心にヒリヒリを残した。


ねぇ、あ〜ちゃん。のっちね?


この痛み。
多分一生忘れない。




END






最終更新:2009年08月22日 22:44