するり、とスカートを脱がしたと思ったら、すぐに太腿に滑らかな感触が降ってきた。
指先、と唇。
ゆっくりと静かだったけど、その動きは確かに熱を帯びている事を伝えてきて。
前を開かされたシャツの間から見える、自分の肌色の向こうの綺麗な黒髪の持ち主の舌の動きが、少し体を起こした状態の私からはよく見えた。
舌先で肌の表面を移動しながら、時々ちゅっと、音が鳴る。
指先はずっと太腿の外側辺りを柔く擦っていた。
「…ゆか、ちゃん」
無意識、に近く、声が出た。
それは自分でもわかるくらい上擦っていて、熱くて。
重たい前髪に隠れていた瞳が私を見上げて光った。
何、と言われているようで。何となく、射抜かれた気分に、なる。
もう一度名前を呼んで、そっと手を伸ばして頭に触れた。それから頬に移動してそこを撫でていると、今度は唇で指を、含んで。
「っ!?…っぁ…」
ぴり、っとした痛み。
指先が少しじんとしたと思ったら、その次の瞬間にはまた吸うように舐められていた。
「…いたい?」
静かに、聞かれて。
「…ううん」
素直に、応えた。
それに満足したのか微かに笑って見せた後、また唇は太腿に吸い付いていって、今度は動物の甘咬みのように薄く歯を立て始めた。
また時々、ちゅ、っと音を立てて吸って。
その光景を息を詰めながら見つめていたら、ふと思いついた事を私の唇がするりと伝えていた。
「ねぇ…」
「ん?」
「…残してもいいよ?」
「……」
何も応えず、けど、光った瞳。
でもそれはすぐに下に下がっていって。
「…怒られるからいい」
さっきの私の声よりももっと小さい声が、応えた。
「誰に?」
「決まっとるじゃろ」
商売道具なんよ、のっちの脚は。
…そういうクセに、唇の動きは止まない。
「別にいいのに」
蚊に刺されたとか言い訳すれば。
「蚊かどうかの判別くらいできるじゃろ」
じゃけぇ、いいんよ。
そう言って、体を起こして。
また、笑った。
ぼぅっとその表情を見ていたら、いつの間にか私の視界は天井にひっくり返っていた。
彼女は、痕をつけずに口付けるのがうまい。
いつもギリギリの加減で肌に吸い付いて、私に痕が残ったような感覚を感じさせてくれる。
だけど終わった後のカラダにはやっぱり、何も残っていないから。
どんなに自分の胸元や脚や首筋を探しても、そこには白い肌しか広がっていないから。
痕のないカラダには、後には冷えて消えていく火照りしかいつも残らない。
ねぇ。
…たまには、欲しいんだよ。
胸元やお腹に唇を落としながら、彼女の指先は少しずつ私の中心へと下りていく。
は、っと短くなる呼吸。
うっすらと涙で滲んでぼやけてきた視界の中で、彼女がまた私の太腿に口付けているのが見えた。
横側の筋っぽいところをつぅ、っと長く、舌先で舐めながら。
ゆっくり、ぬるりとした感触の中に、指が進んできた。
「っ!…ん、ぅっ…」
ひく、っと腰が動くのを必死で止める。でも脚にある舌や唇がなぞる行為だけで私の力を抜いていくから。
「はっ…ぁっ……」
上がる水音と共に、自分じゃないみたいな声が溢れ始めて。
「…かっ……ちゃ……」
またお腹に上がってきた彼女の頭を両手で捕まえて引き上げると、その勢いにつられて彼女の顔が真ん前まで来た。
「…いい顔」
「ぅる、さぃっ…」
言い合いながらも重なった唇。
それは最初から深くて、最初から私の意識を奪おうとするように激しかった。
「ふ、ぅっ…んぅっ…!」
突き上げる刺激と徐々に薄くなる空気で頭が真っ白になっていく。
「ふぁっ…っ!……んっ……!!」
大きく膨れ上がって広がっていく何かに押し出されるように。
私の意識は、宙へと飛んでいった。
目を覚ました私に聞こえてきたのはシャワーの音だった。
薄暗い部屋の中に、シャワールームの灯りがこぼれる。それは私の肌まで伸びていて、肌に何かが残されていないかを探すことが容易にできそうな明るさだった。
…でもきっと、ないのだろうな。
それは彼女も宣言しているし、絶対に守られていることだろうから。
「…ばーか」
唯一咬まれた指先を見ながら、思わず呟く。
それはどう見たって傷と呼ぶには浅くて、明日のうちにはささくれと変わらないものになっているんだろう。
こんなんじゃ、所有印になんかならないじゃないか。
痕の一つも、くれないなんて、さ。
「…たまには、つけてよ」
指先をそっと、唇に乗せてため息を吐く。
…さて、どうしよう?
髪をわしゃわしゃ、ってして、ベッドから下ろした足はそのままシャワールームに向かっていた。
肌にまとったままのシャツを脱ぎ捨てながら、いかにして彼女に同じ事をねだり、そして付けてやろうかと、考えながら。
END
最終更新:2009年09月03日 19:22