それはそれは、とても久しぶりの社長からの呼び出し。
えぇ、、、のっち、なんもしてないはずだけどなぁ・・・
「失礼します」
「あ、あやの、やっと来た。適当に座って」
「・・・あやのって、、仕事では、社長と社員なんでしょ?」
「二人の時にまで、そんなの面倒でしょ。てか文句あんの?」
「いや、別にないけど・・」
社長ってか、実は母親。こんなのっちでも、クビにならんのは、ある意味、このおかげなのかもね。
「それに・・
「ん?」
「今日は、半分、母親として、呼び出したところもあるし」
どういうこと?
真意が汲み取れないまま、とりあえず、ソファに腰掛ける。
「で、今日はなんなんですか?」
「・・・」
のっちを見つめたまま、言葉を発しない社長。
「ん?えっ?」
「あぁ、、いや、、、彼女の調子はどう?」
「えっ、、ま、悪くないと思いますけど?」
「そうね、、最初は心配だったけど、、、ある意味、期待通りだったわね」
「はい?」
「・・・・単刀直入に言うわ」
一呼吸、間をとった後に続いた言葉。
「中田くんが、来月、戻ってくるの」
「あ、、そうなんですか、、、じゃ、のっちは交代?」
「んーん、今のとこ、そのつもりはないの」
「あ、そう・・あ、、ま、、そりゃ、そうか・・」
やっべぇ・・・頭がうまく働かない。。いつも以上に、働いてくれない。
「じゃぁ、、なに?」
「彼女に、どう伝えるべきか、あなたの意見を聞きたくって」
「・・・」
「あなたも、彼とのこと、全く知らないわけではないでしょ?」
「そりゃ、、、まぁ・・・」
物心ついたころから、出入りしていた事務所だ。ゆかちゃんのことだって、、、出会う前から、知ってるよ。
「あのぉ、、、彼は、なんて?」
「…できれば、音楽面で支えたいって」
「・・で、事務所的には?」
「悪い話じゃないって思ってる」
「・・・ですよ、ねぇ」
確か音楽の勉強するために海外に行ってたんだっけ…?
「あの、、さぁ・・中田さんが、外されたのって、、、ゆかちゃんとの関係の、、せいだよね?」
「音楽に力を入れたいっていう彼の意思よ・・・もちろん、彼女とのことも無関係とはもちろん言わないけれど」
「・・・」
あぁもう、なんなんだよ、もう!・・・今さら、なんなんよもう・・
「あやの?」
「…?」
「事務所としては、できるだけ、彼女にダメージを与えたくないの」
「うん・・」
「私としては、あなたにも・・・」
「うん・・・」
「…あなたから言うのが一番だと思うんだけど?」
わかんないよ、、、きっと、一番、のっちがどうしたらいいのかわかんない。…どうしたいのか、わからない。
けど、、社長が言うように、のっちから、彼女に伝えるべきなんだ、、きっと。
「…わかりました。彼女には、あたしから」
「・・大丈夫?」
「…はい、大丈夫、、、です」
◇◇◇◇㊖◇◇◇◇㊖◇◇◇◇㊖
失礼します。社長室を出ようとした瞬間。社長に、呼び止められる。
「私はもちろん、かしゆかが大切だけど、、、あなたのことも大切だから。
思うようにしなさい。あなたの直感は意外とアテになるんだから。やればできる子だしね」
そう、母でもあるその人は、呟いた。
中田さんが、帰ってくるんだ・・・
ゆかちゃんの、最初のマネージャー。
なかなかブレイクできない、彼女をずっとずっと傍で支え続けた人。
親元を離れて、頼る人のいなかった彼女が唯一、頼りにしていた人、、だっただろう。
何度か見かけたことあるよ、二人の姿。
今、この仕事に就いたのっちにとって、それは、理想のソレだった。
彼のおかげで、ゆかちゃんはブレイクできた。彼女の魅力を信じきっていた彼のおかげで。
そりゃ、トクベツになるよ。彼は、彼女のトクベツになった。
でも、マネージャーとアイドルの恋愛ごっこなんて、認められるわけなく。
ようやく、軌道に乗り始めた彼女の未来を、事務所が“守る”って形で、二人を引き裂いた。
中田さんの真意は、わかんない。音楽に専念したかったってのも、あながち嘘ではなかったのだろう。
けど、、、ゆかちゃんは・・・・
ほんと、偶然だった。ふらっと立ち寄った事務所。大学、就職のこともあり“母親”に会おうと向かった社長室。
ドアを開けようとした瞬間。
「お願いしますっ!」
彼女の声が耳に飛び込んできた。そっと、開く扉の向こう。頭を下げる、彼女の姿。
「中田さんを辞めさないでください。ゆか、もっとがんばるから!わがまま言わないから!」
「もう決まったことなの。それに、音楽を勉強したいってのは、彼の意思でもあるから」
上げた視線。涙いっぱいの真っ赤に潤んだ瞳。
今にも泣き出しそうなその表情。ぎゅっと、胸を締め付け、ココロん奥に染み込んだ。
「ぉ、、ねが、、ぃしま、、、す・・・」
消え入りそうな声。・・・・あ、堪えきれなくなった涙が、そのキレイな瞳から零れた。
もしかしたら、、、んーん、、堕ちてしまったのはこの瞬間。
ココロに刻まれた泣き顔。切に望んだ、笑顔。・・・だって、、、だってさ、笑顔は、最高なんだもん。
そっか、中田さん、、、、帰ってくるんだ。
先ほど送り届けた、彼女に電話をかける。
「もしもし?」
「もしもし、ゆかちゃん?」
「どうしたの?」
「今から、そっち行っていいかな?」
「え。。。
「話、、、あるんだ」
「…わかった」
「じゃ、半時間くらいで着くと思うから」
受話器越し、彼女の戸惑いが手に取るように伝わった。
そりゃそうだ・・・あたしから、「部屋にいくね」、そう言ったのはこれが、初めてなんだから。
彼女の部屋に、車を走らせる。
でも、のっちはどこに向かってんだろ?
どこに向かいたいの?
ねぇ、、、どうしたいんだろ?
わかんないよ。。。なにが一番、なのか・・・・二人にとって、さ。
最終更新:2009年09月03日 19:26