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「のっち、唐揚げいる?」
「ん…いいわ」
「あっそう…てか、最近お弁当残し過ぎじゃない?」
「あー…食欲無くて。」
「夏バテ?」
「さぁ?」
「体力つけるためにちゃんと食べんさいよ。ツアー近いんじゃけぇ…」


休憩中にお弁当を食べながら、ゆかちゃんとのっちの会話を聞く。
確かに見るからにのっちは痩せていってるし、元気がない。


『あ〜ちゃん、また蚊にかまれたの?』


『嘘だよ。』


あたしはあの日ののっちの言葉がずっと引っかかっていた。
絶対あれは、何かをわかっていて言ったとしか思えない。
まさかゆかちゃんとの行為を見られた?


『のっちって意外とこういうことに抵抗感じてるんよね。イノセンス…って言うやつ?
特にあ〜ちゃんがしてるって知ったら、死んじゃうぐらいショックかも。』


ゆかちゃんの言葉があたしに妙な確信を抱かせる。
のっちが痩せてきたのもそれが原因だと考えたら、何もかもつじつまが合う気がしたからだ。


のっちがあたしとゆかちゃんの関係を知ったら。
いや、もう知っているのなら。
少しずつあたし達三人の関係に軋みが生じているのは間違いなかった。





日に日にツアー開始日が近づいてくる。
大学や通常の仕事にダンスの練習が加わり、本格的に忙しくなってきた。
今までなら難無くこなせていたことも、だんだん疲れが目立つようになり身体が思うように動かない。
のっちに関しては、それが顕著に現れていた。


「のっち、あんた大丈夫なん?」
「大丈夫大丈夫」


2時間のダンスレッスンの後、セットを使ったリハがすぐに入っている。
ゆかちゃんとあたしは着替えを済ませている中、のっちはソファーに座って動こうともしない。


「あ〜ちゃん、そろそろ行かんと」
「うん。のっち、行くよ」
「あ、うん…」


立ち上がろうとした途端足元がふらつき、ソファーに再び座り込むのっち。


「あれ…なんか大丈夫じゃ、ないかも…」


のっちの様子に異常を感じて、ゆかちゃんはあたしの顔を見る。


「ゆか、もっさんとこ行ってくるわ」
「ごめん、お願い。」


ゆかちゃんが走って楽屋を出て行った後、あたしはのっちの方へ向かった。
のっちは冷たいペットボトルを頭に当てて、ゆっくりと深呼吸をしている。


「だからゆかちゃん言ってたじゃろ…ちゃんと食べんさいって」


誰が見たってこのスケジュールをこなすのは不可能だと思うぐらい、のっちの身体は細かった。


「お説教みたいになるのは嫌だけど、のっちのこと心配じゃけぇ言うとるんよ。」


あたしがそう言うと、のっちはペットボトルを下ろしてあたしの顔を見上げた。




「のっちのこと、心配してくれるんだ」
「…そりゃそうじゃろ」
「ゆかちゃんのことしか考えてないんだと思ってたけど、違うんだね。」
「な、急に何なん…」
「あ〜ちゃんは、ゆかちゃんのこと好きなんじゃろ?
好きだから、あんなことしてたんじゃろ?」


のっちの言葉を一瞬理解できなかった。
だけど、すぐに自分の不安とリンクして答えが導き出された。


「のっち…やっぱり見てたん?」


あたしの言葉を遮るように、のっちは話し続ける。


「あ〜ちゃんは好きでもない人とあんなこと出来る人間じゃないじゃろ?
誰かの気を引くために、好きでもない人と付き合える人間じゃないじゃろ?」
「それって…」
「のっちのことだよ…ほんとのっち、馬鹿だよね。
そんなことしてもあ〜ちゃんは振り向いてくれんのに…。」


もう別れちゃったけど、と付け足してのっちは大きな溜め息をつく。
あたしはのっちが彼と付き合った理由がまさか自分にあるとは信じられなくて驚いていた。
以前から微妙に感づいていたのっちの気持ちを改めて知って、
ゆかちゃん同様愛おしく感じる自分もいた。


「あ〜ちゃんは…あ〜ちゃんは、寂しかったよ。のっちに彼氏が出来た時。」
「ゆかちゃんの時もじゃろ?」
「それはそうじゃけど…でも、ゆかちゃんものっちも同じくらい大切で、
同じくらい大好きじゃけぇ寂しかったんよ。」
「ふーん…だったらさ。」
「っ…のっち…!?」


いきなりのっちがあたしの手を思い切り引っ張った。
そのまま座ってるのっちの膝に跨がるような体勢になる。
のっちはあたしの手を掴んでいない方の手で、頬を包み込んだ。


「のっちにも、抱かせてくれるの?」


「…のっち。」


強気な言葉とは裏腹に。


「手、震えてるよ?」


のっちの震える手に自分の手を重ねる。
するとのっちの眉が急にハの字になった。


「当たり前じゃろ。あ〜ちゃんのこと、好きなんだから。」


「好きな人を、自分の手で汚すなんて…怖いんよ」


そう言うと、さらにハの字眉になった。
余計に愛おしく感じるあたしは、やっぱりおかしいのかもしれない。


「…怖がらんでよ。」
「…」
「のっちは、あ〜ちゃんのこと好いてくれとるんじゃろ?
その気持ちは汚いもんでも何でもないけぇ。」


のっちはゆかちゃんみたいに、自分の気持ちのやり場を失ってるだけ。
しかも失わせた原因はあたし。


「のっちの気持ちなら、あ〜ちゃん受け止める。だから、怖がらんで。」


だったら。
その気持ちのやり場をあたしに向ければ良い。
ゆかちゃんの時と同じように、すればいいだけ。


そんな風に簡単に考えたあたしが甘かった。





「そうじゃ、のっち。怖がることないけぇ。」


いきなり聞こえたゆかちゃんの声。
自分達の今の体勢も忘れて、声のする方に顔を向ける。
そこには白々しいまでの笑顔のゆかちゃんが立っていた。
後ろ手でドアに鍵をかけて、あたし達に近づいてくる。


「もっさんが1時間休憩入れてくれたけど…丁度良かったみたいじゃね。体調戻ったみたいだし。」
「…ゆかちゃん、いつからそこにおったん?」
「んー…あ〜ちゃんのこと好きってのっちが言ったぐらいかな?」


そう言いながらのっちの隣に座ると、小首を傾げながらあたしとのっちの顔を伺う。


「大丈夫よ、のっち。ゆかと違ってあ〜ちゃんは寛大じゃけぇ、何でも受け止めてくれるよ。」


「ゆかのことだって、受け止めてくれたんよ。ね、あ〜ちゃん?」


あたしに不敵な笑みを向けながら、のっちの耳元に顔を近づけていく。
そしてあたしにも聞こえるくらいのはっきりとした声でゆかちゃんはのっちに話しかける。


「…だからのっちも受け止めてもらいんさい。
…そうだ。ゆかも今、受け止めてもらおうかな」


そう言って意地悪に微笑んだかと思えば、ゆかちゃんの手があたしの太股をそっと撫でた。


「無理じゃないよね、あ〜ちゃん?」


ほら。
あたしの考えは甘かった。
ゆかちゃんとのっちが、ただただあたしの顔を見つめている。
三人の関係が軋み始めた今、あたしは何が出来る?
そんなことを悩むよりも先に、勝手に口が動いた。




「…二人とも、受け止めてあげる。」




意識せずとも覚悟はもう決まっていた。
たぶん正解はこれしかないってことも、なんとなくわかっていた。
だってあたしは。
どんな状況であっても二人にとって、あ〜ちゃんは。




あ〜ちゃんはコントローラー、だから。









おわり







最終更新:2009年09月03日 19:36