のっちが夜遊びを再開して2週間が経とうとしている。
一緒に部屋にいる時間がザックリと減った。
目が合う回数がザックリと減った。
笑い合う回数がザックリと減った。
ほら、今日も夜な夜な出て行っちゃうんだ。
「今日も、出掛けるん?」
「んー」
あたしなんか目もくれず、普段使わない携帯をカチカチいじっちゃったりしてさ。
「ゆかちゃんにお笑いのDVD借りたんだけど、一緒に見ない?」
あたしはのっちを引きとめようと必死。
「んー、あとで見る」
「今から一緒に見ようよー」
「・・・そういう事誰にでも言ってるんでしょ?あいつと一緒に見ればいいじゃん」
「はぁ?」
「じゃね」
バタン。
何、今の?
『そういう事誰にでも言ってるんでしょ?』って、どういう事?
なんであんなに一方的に不機嫌なの?
あいつって、もしかして山ちゃんの事?
なんで山ちゃんが出てくるのよ。
そう言えば、あたしが山ちゃんと喋ってるとのっちは不機嫌になる。
どうして?わけわからんよ。
のっちの事がわかったと思ったら、途端にわからなくなる。
わかりたいのに、わからない。
一緒にいたいのに、どこかにいってしまう。
そんな事をグルグルと正解の出ない問題を考えていたら、夜中の3時すぎになっていた。
ガチャと、玄関のノブが回る音がした。
のっちが帰ってきた。
「おかえり」
あたしが声を掛けるとのっちは体をビクっとさせて驚いた様子。
そりゃ、夜中の3時に起きてるなんて思ってもいないよね。
「・・・まだ、起きてたんだ」
「うん・・・」
のっちはいつもの様に煙草と香水の臭いを連れて帰ってきた。
今回はおまけに首筋に赤い痕のお土産付だ。
そんなお土産付けてこないでよ・・・。
それ付けたの誰なんよ・・・。
あたしののっちに何付けてんのよ。
相手がわかったら、ボコボコにしてやる。
ってのは、嘘。
逆にボコボコになったのは、あたし。
のっちに触れられないくせに、文句だけは一丁前。
こんなのただの負け犬と遠吠えと一緒。
一言、「好き」って言えないヘタレなあたしは、のっちに痕を付けた相手を責める権利なんて1ミリもない。
そんな事を考えてたら泣けてきた。
あー、ほんと最近泣きすぎ。
涙腺の栓が壊れちゃった。
誰か修理してよ。
てか、これはのっちにしか直せないよ。
のっち、早く直してよ。
「なんで、泣いてんの?」
「・・・さっき見たドラマを思い出したら泣けてきた」
泣いているあたしの顔を覗き込むのっち。
あたしは、ドラマのせいで泣いたなんて嘘を、悟られたくなくて俯く。
流れていく涙の筋をのっちの人さし指がなぞる。
あたしは無意識にのっちの首筋にある赤い痕をなぞる。
電気がついてない薄暗い部屋。
カーテンの隙間からかろうじて、外の電灯の光が入ってくる。
のっちが近い。
それは物理的にも精神的にも。
こんなに近くでのっちと見つめ合ったのは初めて。
のっちの瞳の中にあたしがいる。
薄暗くてもはっきりわかる。
少しでも動けば、たちまち二人はひとつになる雰囲気。
のっちの指が涙の筋を通ってあたしの唇をなぞる。
心臓がうるさいけど、不思議と頭は冷静。
雰囲気にのまれる!!と覚悟を決めた瞬間。
♪〜。
マヌケな着信音が聞こえた。
鳴ったのはあたしの携帯。
鳴らしたのは山ちゃんからのメール。
この音で雰囲気はぶち壊された。
のっちはハッとしてあたしの唇を触れてた指を引っ込めた。
そしてまた外に出かけてしまった。
携帯の着信ひとつで邪魔されて、我に返るあたしたちの関係ってなに?
てか、邪魔されなかったらあのまま雰囲気に流されてたの?
それからのっちは3日間帰ってこなかった。
帰ってきた時は何事もなかったようにケロっとしていた。
首筋の赤い痕は消えていた。
3日前のあの出来事も消えてしまったような気がした。
最終更新:2009年09月03日 19:57