まだ9月が始まったばかりだというのに、日が暮れた21時は少し肌寒かった。久しぶりのオフは好きなことをしよう、と以前から心に決めていたのっちは朝からゲームに熱中していた。そのせいか気がつけば日はすっかり暮れていて、つまんでいた菓子類も底をついた。最後のお菓子だと気付かず食し、次に伸ばした手の元には何もなくてのっちはむっとした。それと共に、なんだか自分が情けなくなった。それでもお腹が空いたので、ちゃんとした“ご飯”を買いに行こうと部屋を出る瞬間、ずっと机の上に置きっぱなしだった映画の前売り券が目に付いた、のを、のっちは気付かないフリをした。
気だるそうに靴を履いて財布と携帯電話だけ持って外に出る。寂しげな街灯の点いた暗い夜道を歩くのにも、すっかり慣れた。
本当は、今日、大好きなゲームをずっとしていたかったわけではなかった。じゃなければ、ずっと前からこの日の為に、と映画の前売り券なんて買ったりしない。
「…のっちの、意気地なし。」
ぼそりと呟いた細々とした声が夜空に消えた。
ずっと誘いたかった大好きなひとの予定さえも聞けなかった。いつもそう、肝心な時にのっちは頼りない。ヤケクソになってゲームをしてもいい成績なんて出ないし、つまんだお菓子だってちっとも美味しくない。どうせ使わないならゆかちゃんにでもあげればよかったのに、出来なかったのは、どこかしら希望があったから、なのか。
暗い夜道を歩いていると煌々と眩しいくらいの光を放つ、コンビニ着いた。だるそうな店員の声も、今ののっちより全然逞しい。
一通り店内をうろついておにぎりとお茶だけ手に持ってレジに向かう、すると普段から鳴ることの少ない携帯電話が鳴り出した。両手に抱えた食料を煩わしそうにポケットから携帯電話を取り出すと、液晶画面に映し出された文字にどくん、と大きく心臓が揺れた。
「も、もしもし…?」
「のっち今なんしよん。」
突っ放すようなキツい口調で言われて、少しむっとし眉を顰めた。
「今コンビニでご飯買いよる。」
「今すぐ、あ〜ちゃんとこ、来なさいや。」
急に呼び出しをくらってのっちは意味がわからないのと、嬉しいのとで、心がいっぱいになっていた。急いで抱えていた商品を元の棚に戻して駆け足でコンビニを出た。店員の目なんて気にしない、のっちは、あ〜ちゃんに会いたい。
指定された公園は暗くて、何か出そうなくらい不気味だった。ここにあ〜ちゃんがいるのか、と思うとそんな怖さも吹っ飛んだが、こんなところにひとりでのっちを待っているあ〜ちゃんが心配になった。公園への入口から奥に進むと、ブランコに腰かけるふわふわした髪の毛が見えた。一目であ〜ちゃんだ、と思った。
「おまたせ。」
そう告げるとあ〜ちゃんは下げていた顔をばっと上げて、少し驚いた表情を見せたが「遅いんよ。」と悪態をついた。
「何か、のっちに用やったん?」
「用がないと呼んだらいかんの。」
ぶっきら棒に答える、少し怒ったあ〜ちゃんをのっちはただ眉を垂らして見つめることしか、出来なかった。のっちには、あ〜ちゃんが何で怒っているのかがわからない。
「…あ〜ちゃんね、のっちは調子いいけえ、すぐ人のこと可愛いとか言うし、あ〜ちゃんものっちに可愛いって思われとるんや、と思って嬉しかったんよ。けどね、のっちはモテるし結局最後はあ〜ちゃんから離れていくんやな、って思ったんじゃ。」
「……。」
「そう思ったら急にのっちに会いたくなった。」
「……。」
「あ〜ちゃん、変じゃね、」
ひとりで喋り続けるあ〜ちゃんをのっちは愛おしくてほっとけなくて抱き寄せた。あ〜ちゃんの、大きくてはっきりとした二重の目が見開く。抱き寄せておいて、言葉が見つからないのっちの背中にあ〜ちゃんが腕を回した。肌寒い夜空に合わさる影。
「…ごめん、なんか、」
我を忘れかけていたのっちが慌ててあ〜ちゃんから身体を離そうとすると、背中でしっかりと結ばれたあ〜ちゃんの腕によって体制は変わらぬままだ。
「…このままで、おって。」
「え…?」
「もう、訳がわからんけえ…、あ〜ちゃん知らん間にのっちが好きみたいじゃ、ごめん…。」
謝ることなんかないよ、のっちもあ〜ちゃんのことずっと前から好きだったんよ、あ〜ちゃんが観たいっていよった映画の前売り券買ったんよ、あ〜ちゃんの喜ぶ顔が見たくてあ〜ちゃんの笑顔が見たくてあ〜ちゃんはのっちの、太陽だから。
言いたいことはたくさんあるのに、言えなくてこの計りきれない想いだけはどうしても今伝えておきたくて、それを込めた口付けだけ、夜空の下。
最終更新:2009年09月03日 21:04