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最初は鼻歌だったその歌を、歌詞の断片を覚えてるだけ口ずさんだ。
目の前には青い空。
を遮る、手摺と胸元くらいまでの白い壁。
空は高くて。
太陽は白くて。
「…ろーおーでーかためーたー…」
そんなものなんて持ってないのに、私は体ごと溶かされているような気分でいた。
「りょーてにもってー…」
右手には、指でつまんだストラップ。
その先には、今使っている携帯。
空は高くて。
太陽は白くて。
「ゆーきー、ひとつーを…」






私には、勇気なんてない。
雲より高く、まだ遠く。
この星からも遠い存在であるものに想い焦がれながらも、…側に、いながらも。
何一つ、できない私は。






手摺のところにトン、っと体が当たった気がして。それを合図に私の右腕は上がっていった。
ストラップをつまんだままで持っている携帯が、ゆっくりと手摺を越えていく。
無造作に揺れる携帯のライトが点滅しているのが見えた。
…でもきっと、私が望んだ人からのものじゃないから。






空は高くて。
太陽は白くて。
ここは、海ではないけれど。
私の…代わりに。






「…それ落としたら、のっちも突き落とすけぇね」






…え?






ひゅう、っと風が吹いた。
瞬間、背中から、彼女独特の香りがして。
…気がついたら、私の右手は携帯ごと手摺の向こうからこっち側に戻ってきていた。



「…あ、の…」
「何」
「……」
明らかに怒っているような強い口調に続きを紡げないでいると、彼女は私の携帯を開き何かを確認して、ため息を吐いた。
「…最初は接着剤だったよね。アロンアルファ」
「……」
「それから今度はシャーペン辺り?」
多分、次はペンケース丸ごとで。
今度は香水。
「…そうじゃろ?」
「……」
「何でこんなことしよるんよっ」
「ったっ…」
こつん、と、私の額を彼女の指が少し強めにこついた。
でも、優しい声で。
いつも投げやりで、私の事なんかどうでも良いような態度でいるくせに…こんな時だけ、そんな優しくして。






「もう、何でそんなに物なくすん?もっと大事にしんさいや」






「…もっと、大事にしんさいよ」
「……」
「この前も同じ事言われたばっかりじゃろ?」
「…ん」
ただ、頷く。
彼女の言葉が熱くなっている私の頭に入っていって、どろどろに溶けていた思考をちょっとずつ固めてくれているようだった。





空は、高くて。
太陽は、白い。
そこには、どんなに高く飛んでいったって、届かなくて。
どんなに近くにいようとしても、自分だけが熱くなって、焦がれて溶けていく。
堕ちていく。
…それは。
それは、とても。






「…つら、い」
「ん?…うん」
不意に出た言葉に、彼女が頷く。
また響いたその優しい声に、唇が解かれて。
「辛い、んよ」
「うん」
「…つら、くてっ…」
「……」
「とも、だち、が」






ともだちで、いるのが、つらくて。




「…のっち」
「っ…くっ…」
海に堕ちたわけじゃないのに。
気がついたら私の視界は水の中のように滲んでいた。
息が、辛くて。
思わず俯いたら、瞳に映った彼女の服の色。






…ああ、そうか。
彼女が、海、だから。
私の何もかもを知ってくれて、受け止めてくれた彼女の前、だから。






「ほんまに不器用じゃね、のっちは」
大人しくゆかのものになっときゃ良いのに。
そう、でも、冗談っぽく笑って。






空は相変わらず高くて。
私を包み込む青色の彼女は、私の涙を海の一部だったように隠そうと、一波ずつ優しく撫でるようにさらって、飲み込んでいく。
太陽も白くて、眩しくて。
こんなに遠くにいても、強く私を焦がしていく。
不器用な私は、後何回命を失えば太陽に辿り着く事を許されるんだろう。
…彼女の体温を感じながらも、私はそんな事を想っていた。






END






最終更新:2009年10月22日 16:25