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なんでこんなにも胸が痛むんだろ。今まで好きでもない相手とセックスするなんて何の抵抗も無かったのに。男は単純で分かりやすい生き物で、恋愛イコール付き合うイコールセックス、みたいな方程式が出来上がっちゃってるに違いないから。だからゆかもその掟とやらに便乗しなきゃいけないような気がして、当たり前みたいにセックスはした。期待には全てプライドだけで答えてあげてた。


「かしゆか、もう寝た?」
「…起きてるよ」

結局のっちは泊まってく事になった。明日は学校が午後からで暇らしく、ゆかも偶然にも午後からしか学校はなかったし。夜はまたバイトがあるけど、朝がゆっくり出来る事は何より嬉しかった。
ソファーで寝ているのっちは、ゆかのTシャツとジャージを履いてる。結構普通に似合ってて面白かった。

「さっきの事、ちょっと言い過ぎたかも…ごめんね」
「ううん良いんよ、事実だし」
「かしゆかは女の子だから、仕方ないよね」
「何ソレ、のっちも女の子じゃん」
「のっちは変な女の子だもん」

確かに変だね、って笑うとのっちも笑った気がした。
そもそも人を好きになるって感情が良く分からない。キスをしたい抱き合いたいセックスしたいって思うイコール好きなんだったら、ゆかはまだこの人だ!って人には残念ながら今まで巡り合えてないだろう。一緒に居たいだとか守ってあげたいっていう感情もまだ未知だ。彼氏と二人で過ごすのはちょっぴり苦痛。
恋愛なんて言っても結局は子孫繁栄の為の入口でしかない訳じゃん。ゴールは結婚なんだとして、この人と一生添い遂げたいとか最初は思っても結局離婚しちゃう人とかいるんだもんね。人の人生に他人が関わるから面倒な事になるんだよ。恋愛をしなきゃ生きていけない体質でないゆかは、周りに流されて今まで彼氏という物は作ってきたけど、結局は自分のプライドを保持する為の道具でしか無かったんだよね。
そしてこれから長い人生の中で運命の人なんて現れる気配すらしないし、現れたところでどんな顔して向き合えば良いのかも分からない。そもそも運命の出会いって、ドラマチック過ぎる。きっとそんなの無いに決まってる、みんな特別な人には独自のフィルターが働くってもんだ。


「かしゆかは、結婚願望ある?」
「…無い、かなぁ」
「あ、のっちと一緒だ」
「のっち無いんだ」
「最近の若者ってみんな結婚願望とかあんま無いと思ってたんだけど、のっちの周りは結婚したいって子が多くてさ」
「ゆかの周りもほとんどそうだよ」
「凄いよねーなんか尊敬するわ、早く結婚して早く子供産みたいとか、早く母親になりたくて仕方ないんだろうね、まだ子供なのにさ」

それはきっとみんな子供だからなんだよ。早く大人になりたいって考えた時に一番分かりやすくて単純な方法が母親になるって事なんじゃないのかな。ゆかにはその子達の真意は分かんないし、そもそも自分なんかが母親になっても育児ちゃんと出来んのかなとか、むしろ怖くて産めないんじゃないとかマイナスな事ばかり考えてばかりで、全然前向きになれないけど。
社会に貢献したくない訳ではないけれど、つまらない大人にはなりたくない。平凡な主婦になんてなりたくない。毎日仕事ばかりの同じ日々をすごしたくもない。ゾッとするくらい自分は子供だ。


「好きだから結婚したいって思うのは、なんか違う気はするけどね」



ゆかがそう言うとのっちは「うんうん」って言ってた。やっぱりどこまでも気が合うのかな、ゆか達は。もしくは考えてる事が一緒なのかも。


「多分ね、かしゆかとのっちの考えは違うと思うけど」
「考えって?」
「のっちは今まで男の子と恋人同士とかになった事ないから」
「どういうこと?」
「女の子としか付き合った事ないの」

今でもはっきりと覚えてる、この時なんか分かんないけどすっごいドキッとした。なんとなくそんな気はしていたけど、それでもこんなにも真っ直ぐに言われるとか思ってなかったから。

「引いた?キモいでしょ」
「ううん…格好良いと思う」


この時に気が付いたのかもしれない。ゆかにはフィルターがかかっていたんだ。のっちが好きだから、何を言ったって何をしたって格好良いっていう。のっちの前では女らしくいられるのも、きっと好きだからなんだって。
のっちが女の子とキスしてる姿は簡単に想像がついた。だけどすぐに胸が苦しくなる。このモヤモヤは嫉妬なのかもしれない。ゆかはのっちと仲良くなりたかった、最初はそうやって近づいたはずなのに仲良くなるのが怖くなった。
のっちはゆかの知らない事をたくさん知っていて、凄くたくさん色んな事を知りすぎているから今の世界や人生に絶望してるのか何なのか。よく分からないけれど、今の若い女の子と違った部分にとても悩んでいるのは確かで、それはきっとゆかも同じなんだ。


そう言った弱い部分が魅力的だったのかも。この人と解りあえたら他人と関わるのも悪くないかなと思えた。この人だったら、守ってあげたいって。
でもそれとのっちが同性愛者なのとは話が別か。ゆかが男が好きじゃないのと、のっちが同性にしか興味がないのは意味が違う。

「ゆかは多分、バイなのかも」
「ふーん、じゃあ女もイケるんだ」
「多分…だけど」
「のっちは完全に、女の子しかダメなんだよなぁ」
「なんで?」
「女の子の方が綺麗じゃん」


理由はなんとものっちらしかった。だけど、のっちはゆかに言わなかったけど理由はもっとたくさん、もっと深い所にあるんだろうとは簡単に想像がついた。弱さを見せない様に強がって、余りにも不器用で子供っぽいけど、ゆかには格好良い女に見えた。


「ゆか…、もっとのっちを知りたい」
「のっちは、知って欲しくないかな」


それ以上何も言わずに、ゆかは静かに目を閉じた。「おやすみ」って小さな声が聞こえた。「おやすみ」って心の中で呟いた。


朝目が覚めるとのっちの姿は無くて、代わりにテーブルに小さなメモ用紙が置かれていた。あの予約カードと同じ文字で、「お世話になりました。明日ライブするんで良かったら遊びに来てね。」って、そこにはチケットが添えられていた。
出演バンドのどれがのっちのバンドかは分からなかったけど、ゆかは場所を確認してとりあえず財布にしまった。


「バンドとか…、かっけー」


朝日は妙に目にしみる。
やっぱり東京は異国みたいな土地で、ゆかはそんな異国で独りぼっち、右も左も未来も分かんないけど、とりあえず明日したい事は見つかった。



◇0C:終◇





最終更新:2009年10月22日 16:31