Side.N
雑誌の取材と、テレビ番組の収録。今日の仕事はとりあえずそれだけ。
順調に行けば、そんなに遅くまではかからないだろうから、仕事終わったらあ〜ちゃんをまた家に誘ってみよう。
今朝は普通に接してくれたもん。だから今日は、きっと話してくれるよね?あ〜ちゃん。
ああ、もう。じれったいなぁ。
仕事、早く終われば良いのに。
まるで、時計が意地悪してるんじゃないか、ってくらい、今日はのろのろと時間が流れた。
「はい、お疲れ様でしたー。」
ようやく終わった。途端に私の目はあ〜ちゃんを探す。
……いない。
先に控室に戻っちゃったのかな…なんて思って、スタッフさん達への挨拶もそこそこに、スタジオを出た。
スタジオから少し離れた、廊下の隅っこ…
————
あ〜ちゃんは、いた。
いたけど、……いたんだけど、
あんなの、見たくなかった。
私の足は、勝手に回れ右をして、あ〜ちゃんがいた方向と正反対に走っていった。
人気のない、階段の踊場まで来ると、急に足の力が抜けて、そのままへたりこんだ。
あ〜ちゃん、笑ってた。
すっごく楽しそうだった。
……でも、
どうして、その笑顔の向かう先が、恋人ののっちじゃなくて、
その、男の人なの……?
Side.A
のっちが、私を見つけて、ショックを受けて、走り去っていく姿は、目の前にいる男の人の肩越しに、ちゃんと視界に入った。
その時の、のっちの表情。
悲しさと、悔しさと、怒りが、ごちゃまぜになったような表情は、私をぞくぞくさせた。
目の前にいる男の人は、番組のスタッフさん。
前からしつこく、私に声をかけてきてた。邪魔というか、うっとうしくて、その度上手くあしらったり話を流したりしてたけど、今日はそれを利用させてもらった。
……のっちの、あの表情を見るために。
のっちの無防備な笑顔は、危険なの。
余裕のある、無邪気な表情は、すぐに誰かを引き寄せてしまう。
だから、そんなものは、あ〜ちゃんが奪ってあげる。
そのために、のっちがすぐに見つけるだろう所で、わざとこの人と喋ってたの。
のっちは今、何を思ってるんだろう?
早く控室に戻りたい。
そのためには、やっぱり目の前の男の人は、邪魔でしかなかった。
最終更新:2009年10月22日 16:35