もう限界だった。
のっちがあたし以外の人に触れる事が、触れられる事が。
って、恋人じゃないんだから、のっちに止めてなんて言えない。
から、余計に苦しい。

あっ、明日誕生日だ。
ふと、携帯の日付を見て思い出す自分の誕生日。
明日って言ってもあと1時間したら今日になっちゃうね。

誕生日プレゼント何が欲しい?って訊かれたら、迷わず「のっち」って答える。
って、誰もそんな事訊いてくれないけど。

「ただいま」
「んー」
ゆかちゃんと遊んで帰ってくるとまだのっちはいる。
あたしが帰ってくると入れ替わりの様に出て行く。
「おかえり」の代わりにいつも鼻で返事する。
そしてのっちはいつもの様に、いそいそと出かける準備に取り掛かる。

もう限界だった。
「今日も・・・遊びにいくん?」
「んー」
めんどくさそうに鼻で返事しないでよ。

「どうしてなん?」
「ん?」
だから、鼻で返事しないでよ。

「なんで、毎日毎日遊びいくん?」
「・・・」
黙らないでよ。

もう限界だった。
何か外れた。

「いかなんでよ・・・」
「・・・」

「遊びいかんでよ・・・ここにおってよ」
「・・・」

「のっちが、あ〜ちゃん以外の子に触れるのが嫌なんよ・・・」
「・・・」

「知らない女の子を抱くなら、あ〜ちゃんの事抱いてよ」
目から涙が溢れ出てきた。
まだのっちに直してもらってないから、涙腺が壊れたままだからだ。



「好きなんよ・・・のっちの事が。もうずっと好きだったんよ」
とうとう言っちゃった。
告白しちゃった。
意外にも簡単に口から出た。
あぁ、もうなんか外れちゃったからか・・・。

「なんで・・・なんで、言っちゃうの・・・」
のっちの口からは予想とは全然違う言葉だった。

「ずっと、ずっと、誤魔化してきたのに・・・」
いきなり腕を掴まれて、抱き締められた。

「そんな事言われたら、抱きたくなるじゃん」
「抱けばええんよ」

ベッドに押し倒された。
キスの雨が降る。
あたしはキスの雨で濡れる。
濡れて溺れる。
溺れたところにのっちの長い腕が伸びてきて助けてくれる。
それを何度も何度でも繰り返す。

気付いたらのっちの腕の中。
あぁ、とうとうのっちと・・・。
目線を上げると、優しい顔ののっちが目の前にいる。
あたしの前髪をサラサラと触ってる。
目覚まし時計を覗くと、12時を回っていた。

「あっ」
「なに?」
「今日でひとつ年取っちゃった」
「えっ、今日、誕生日なの?」
「うん。19歳になったんよ」
「おめでと〜。何が欲しい?」
「のっちが欲しい」
「のっちは物じゃなから、あげれませんw」
「ケチ」
「ケチで結構っすw」
「じゃあ、傍におって。ずっと、あ〜ちゃんの傍におって」
ふふって、ハノ字眉で笑うのっち。



「あ〜ちゃんがあたしにお願いするのって初めてだね?」
「そう?」
「うん。そうだよ」
「じゃあ、お願いきいてくれる?」
「いいよ。だからキスしていい?」
「うん」
またキスの雨。

のっちは「好き」とか「愛してる」とか言わない。
けど、このキスから伝わる。
「あ〜ちゃん、好きだよ」とか「あ〜ちゃん、愛してるよ」って。
指先から伝わる。
体温から伝わる。
のっちの全身から伝わる。
口下手な彼女らしい愛情表現。
あたしはそんな彼女の腕の中で眠りにつく。
この時のあたしはまだ幸せの夢の中。

起きたら悪夢だった。
悪夢なら覚めてほしかった。

ベッドにはもう彼女の姿はなかった。
荷物もなかった。
あったのはあの時ふたりで一緒に撮った一枚の写真と、一切れのメモ。

『ごめんね』
って、意味がわからない。

やっと、やっと・・・つかめたと思ったのに。






最終更新:2009年10月22日 16:46