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起きたのはお昼近かった。

ベッドからゆるゆると這い出たあたしたちは、バスタブを泡だらけにしながらお互いの頭を洗いあったり
ママが送りつけてきたやたら辛いレトルトカレーを、辛い辛いと文句を言いながら食べたり、
プリキュア5を見逃したことに気が付いてショックを受けたあ~ちゃんを必死でなだめたり、
即興で歌を一緒に作って二人で歌ったりした。


大地讃頌のハモりが綺麗に成功して、床に倒れながら大笑いしたとき、
窓の外にオレンジ色した夕日がとろけて落ちていくのが見えた。
「あ~ちゃん見て!めっちゃすっごい夕日!写メ…」
携帯に手を伸ばそうとした瞬間、あたしは言ったことを後悔する。
もうすぐこの時間が終わることに気付いてしまった。
いやだ。外へ行かないで。ずっとここにいて。ねえ。ねえ。
おとぎ話の中の眠り姫みたいに、いばらに囲まれたこの城で時を止めていて。

「…もう、帰る時間じゃ、ね。」
化粧ポーチを手に取り、あ~ちゃんは困ったような笑顔で切り出した。

いつだってあたしはその顔を見たら何も言えなくなる。


先に身支度の終わったあたしはベッドに腰掛けて、
あ~ちゃんが化粧するのをPSPをするふりをして見ていた。
あたしはあ~ちゃんが化粧する時にいろんな表情をするのが可愛くて好きだった。
頬をぷっと膨らませた顔。おでこを出した顔。寄り目。しかめっ面。口を尖らせた顔。

「今、見てたじゃろ」
最後にキメ顔をしたあ~ちゃんと鏡越しに目が合って、
ニヤニヤしながら「あー、見てた見てた」と、素直に答えた。
「実にちゅーしたくなる顔だぜ」
「もう、グロスまでばっちり塗ったけぇ、だめじゃもん」
「じゃあ、のっち史上最高のキッスは次に会う時までとっとくわ」
と、あたしはわざとおどけて立ち上がった。

あたしは、いばらみたいにあたしたちの世界を守ってくれたドアチェーンを外す。

「のっち。」
あ~ちゃんはあたしのコートの背中を軽く引っ張った。
「ホントは、ちゅーしても落ちないグロス、つけたけぇ…」



あたしは最後の長い長いキスで魔法をかける。
キスされたお姫様は、ちょっと意地悪で、あたしにだけそっけない女の子に姿を変えられる。
ばいばい、あたしだけが知ってるお姫様。また会おうね。

「さあ、駅まで送ってくよ。」
あたしは親友にそう話しかけると家のドアを開けた。






最終更新:2008年10月09日 23:58