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「のっち!早く!!」
そう言って伸ばしてきた君の掌を掴んだ。
見上げたそこには、空をバックに笑う君の笑顔が眩しかった。
「まっ、待ってよー」
「時間は待ってはくれんのよ〜」
繋がった場所から感じる君の体温に鼓動が早くなっていく。
どうしてこんなに苦しいんだろう。
「急がんと日が暮れてしまうじゃろ!」
楽しそうな声が耳に心地良い。
いつまでも聞いていたい君の声。
「あ〜ちゃんみたいに…走れんのよー」
困らせるつもりなんてない。
ただ、君に甘えてるだけなんだ。
「がんばって!ほら、努力の後にはしあわせが待っとんのよ〜」
キラキラって言葉がこんなに似合う人がいるんだろうか?
見惚れてしまう。
そんな笑顔で笑いかけないで、私の心が壊れちゃうから。
「眉がハの字になっとる〜w」
今日の君はいつもより輝いている。
いとも容易く、私の全てを包んで攫ってしまう。
そんな事も気がつかないで、世界で一番美しい笑顔を私に向けてくれる。
「うおりゃぁぁーーー!!」
「のっちっ!?」
私の心を助けてくれるのは私だけ。
このまま君に見つめられていると壊れちゃいそうで、だから…体に残る力を奮い起こして全力疾走。
動け!動け!私の両足!!
空高く届くくらいの声を出して、前に体を進める。
繋がった君の掌は放さないままに。
「ちょ…ちょっと!」
君の戸惑う声が聞こえてる。
戸惑わせているのが私だと思うとなんだか嬉しくなってくる。
おかしいのかな?
ドキドキしてる心の中に、小さな温かさが顔を出す。
「あ〜ちゃん!のっち、このままジャンプしたら飛べそうな気がする!!」
「…はぁ?なん言いよるんよ〜!」
「あ〜ちゃんとならなんだって出来る気がするー!!」
楽しくなってきて、おもわず口から出た言葉に私自身がビックリした。
さっきまでの浮かれた気分が見る間に小さくなって、いつもの弱気な私に元通り。
それと同時に軽かった足が重くなってスピードが落ちていく。
後ろを走ってた君と肩が並んで、また私は後ろになる。
私が君を連れて走れるなんて、やっぱり無理なんだよね。
「あほのっち」
私を追い抜く瞬間に君は小さく呟いた。
その声に自然と視線が君に向く。
「あっ…」
揺れる髪の隙間から見えた、君の耳は赤く色付いていた。
「あ〜ちゃんを困らせるんは10年早いんじゃ!」
「えっ、あ…」
君はまた私の手を引いて走りだす。
前を行く君の背中が輝いて見えた気がした。
揺れる肩、揺れる髪、全てが愛おしくて苦しい。
こんなにも誰かを想って心が締め付けられる日がくるなんて思わなかった。



「さっきの勢いはどこにいったんよ。急がんとゆかちゃんに怒られるじゃろ!!」
さっきみたいに後ろを振り返ってはくれない。
今日はもうあの笑顔に逢えないんだろうか。
残念な気持ちと自分の不甲斐なさに悲しくなってきた。
「もう走れん…」
甘えん坊な私はいつだって君を困らせるばかり。
「仕方ない子じゃね。しっかり掴まっとるんよ〜!」
「うわぁっ!!ちょ、あ〜ちゃん!のっち、もう走れんって!!」
「走れるじゃろ!走れとるじゃろ!!」
君に引っ張られながら、もつれそうになる足を必死に動かして走る。
どうしてそんなに優しいんだろう。
誰にだって優しいのは知ってる。
私に向ける優しさもその中の一つなのかな?
「余計な事考えとらん?」
ボーっと君の背中を見つめて思考の海に溺れていたら、怪訝な顔した君が振り返る。
「やっぱり…」
「えっ?」
スピードを落として私の横に並んだ君。
動かなくなった2人を隠すように、空がだんだんと暗くなっていく。
「のっち?考えるのはええことよ。どんどん考えんさい」
「う、うん」
「でも疑ったりしたらいけん。それは誰も幸せにはしてくれんのよ」
「えっ…」
「あ〜ちゃんは、のっちが思ってるほどお人好しじゃない。のっちじゃなかったらこんな手のかかる子の面倒をみたりせんよ」
「のっちだから…あ〜ちゃんは…強くなれるんよ」
そう言って真剣な眼差しで私を見つめ続けている。
私が何も言えずにいると、その瞳に小さな不安が揺れ始めた。
「…のっち、何か言いんさいや」
「…あ〜ちゃん」
「なに?」
「やっぱり、あ〜ちゃんはのっちの太陽じゃと思う」
「はぁ!?」
唐突に言ったから、君は大きく目を見開いて呆れてる。
「だって、暗闇で迷ってるのっちを今みたいに救い出してくれるんだもん」
「だ、だからって、太陽とか、そんなん…ありえんわ」
私じゃないけど、眉を下げてオロオロしてる。
あっ、かわいいw
繋いだ掌に力を込めて引っ張る。
簡単に私の腕の中に納まった君。
「なっ、何するんよ!!」
「あ〜ちゃんをギュってしたくて…ダメ?」
「!!」
「ねぇ、ダメ?」
「ダメ…じゃない…けど、のっちの後ろの人が許してくれるじゃろか?」
「ふぇ?」
恐る恐る後ろに振り返ると、そこには完璧な笑顔で立っているゆかちゃんがいた。
「ゆかを待たせてるって知っててイチャコラするってええ度胸じゃね〜のっち」
「ひぃぃ!!ごめんなさい!!!!!」
君を抱きしめていた手を離して走り出す。
ずっと繋いでいた掌が放れた瞬間に君が寂しそうな顔をしたよう気がしたけど、確かめる事すらできずに走る。
「待てー!!」
後ろから怒鳴る声。
あー、やっぱり慣れない事はするもんじゃない。
でも、こんな関係が私には丁度いいんだよね。


あ〜ちゃんに照らされて、ゆかちゃんに導かれて、ようやく私は前に進めるんだ。


〜end〜





最終更新:2009年10月22日 17:32