どうやら全部終わったらしい。
とんだ誕生日になったな。そう思った。
見つけられなくて当然だった。
全部事が済んでしまえば、事実ってのは驚く程単純だよね。
決め付けてかからないで、始めっからこうすれば良かったんだな。
でも違う。あたしが見たかったのはこんなんじゃない。
5月7日
「ねえ、小悪魔ってなに?」
「……小さい悪魔?」
「じゃあかしゆかってなに?」
「樫野さんちのゆかちゃん。ねぇ凄い濡れてる」
「じゃあのっちは?」
「大本さんちのあやのちゃんだよ。ね、きもちいい?」
「全然。じゃああ〜ちゃんってなに?」
「以下同文だよ。ねぇホントに? ビチャビチャになってるよ」
「幸せってなに?」
「あたしも知らない。ねぇなにが気に入らないの?」
「ぜんぶ」
「そっか。じゃあこれは?」
「んっ……きもちいい」
「そっか」
8月13日
13日。金曜日。不吉。
待ち人来ず。関係ない。待っちゃいない、捜してるんだ。
「あぁこの子なら、郊外で見たよ」
「ホントですか?」
「あぁ、ふわふわの髪の毛でね。子供が好きで保育所に居たんだ。笑うと顔がくしゃっとなってね、明るい良い子だったな」
間違いない、彼女だ。
あたしは早速携帯で電話をする。
『もしもぉし』
「あ、ゆかちゃん? 目撃情報だよ。保育所に居たんだって。町行くおじいさんに聞いちゃった。ロープレみたいじゃない?」
『へぇ〜、凄いじゃん。あんたホントあ〜ちゃんの事となるとフットワーク軽いね』
「まぁね」
『ごめんねぇ〜。あたしも一緒に捜したいんだけどさ……』
「いいよ、気にしなくて。仕方無いことだから」
『で、保育所とやらの場所は聞いたの?』
「あ、そっか! あの!」
……あれ?
おじいさんがいない……
こんな塀に囲まれた一本道で、どこ行った?
辺りを見回すと、黒い猫と目が合った。不吉。
「ねぇ、おじいさん居なくなっちゃった」
『ジャアヤリナオシテクダサイ』
7月2日
「お医者さんいて良かったねぇ」
「うん……なんかさ、おかしくない?」
「なにが?」
「めっちゃぶっ壊れてるとこと、めっちゃ綺麗に残ってるとこあるじゃん」
「きれ〜に残ってて良かったじゃん」
「不自然だよ。ゲームみたい」
「じゃ、いいよゲームで。そういうことにしときましょ」
「なんかなぁ〜」
「テレビだってやってんじゃん。なんか公式発表によるとあれは流星群らしいよ」
「あぁ……それは、うん。そうかも。頷ける」
「何座流星群かなぁ?」
「そこ?」
「流星群で世界が終わるとかならさ、ロマンチックじゃない?」
「思考回路までひん曲がったか」
「あら、ロマンがわからん人じゃね」
「今はロマンより水が欲しいよ」
8月8日
ゆらゆら揺れるアスファルトの上、ひらひら揺れる薄いピンクのワンピース。
ふわふわのパーマ。間違いない。見つけた。やっとこの目で見ることができた。
「お〜い! あ〜ちゃ〜ん!」
あれ、聞こえねぇか?
「あ〜ちゃ〜ん! にっしわきあ〜やかさ〜ん!」
あぁ、ダメだクソ。行っちゃう……
暑い。暑い暑い暑い。
なんだって夏ってのはこんなにも暑いんだろう。
クーラーガンガンの部屋で力一杯冷たいジュースイッキ飲みしたい! 贅沢言わない、この際タダの水でもいいや。
大体さ、追い掛けたいのに道渡れないじゃん。
なによこのでっかい鉄の塊。なんかオレンジというか赤いというか……
こんな色した巨大な鉄、間違いなく東京タワーでしょコレ。
なに潰れて寝っころがってんだよ、電波塔のくせに。
あたしは携帯を取り出し、電話をかけた。
『もしもぉし』
「あ、ゆかちゃん? 見つけたよ! あ〜ちゃん!」『ホントに? 凄いじゃんのっち』
「でも見失っちゃった」
『は? なんじゃそら?』
「だって東京タワー寝てるんだもん」
『どっちに行ったかは分かるじゃろ?』
「うん」
『じゃあ追い掛けんさい。あ〜ちゃんもきっとうちらのこと捜しとるよ』
「うん」
『心配症じゃけ、はよ見付けてやらんと』
9月19日
「血が足りない」
「マジ? あたしの血一杯あげたじゃん」
「でも足りないらしい、ごめんありがとう」
「なんで足りないの? 外にいきゃ一杯……」
「ヤダよそんなの。衛生上ヤダし、あたしはのっちとあ〜ちゃんの血しかいらない」
「あ、じゃああ〜ちゃんも連れてくるわ。のっちのもう抜けないらしいし」
「それなら欲しい」
「おっけ。じゃあちょっとだけ待ってて。あとちょっとなんだよ」
「あんま待てないかも。なんか視界がぼんやりしてるんだよね」
「は? なにそれなに言ってんの?」
「じじつです」
「あたしが帰ってくるまでシャンとしてて。でなきゃ犯すよ?」
「いやぁ〜どうだろう」
「今襲おうか?」
「眠いから寝るね」
「……ゆかちゃん?」
7月3日
「ねぇ、今なに考えてる?」
「多分一緒」
「だよね。それしかないし」
「じゃあいっといでよ。一緒には行けないし」
「言われなくても行くよ。雨が止んだら」
「うわ。雨が止んだらとか」
「だってもうなんもないんだもん」
「あ〜ちゃんならきっと持ってるよ。あの子はあたし達の救世主だから」
「だよね。水とか食べる物とか一杯だよきっと」
「それは楽しみだ。ゆかアイス食べたい」
「それは無理だろ」
8月31日
保育所。そこにいたのは、子供ではなく大人が沢山。
雨風が凌げる貴重な建物。
ジャングルジムには洗濯物が干され、ブランコは取り壊されてチェーンの部分が建物の入り口で物騒に辺りからの侵入者を拒んでいる。
あたしは外で洗濯物を取り込んでいる女性に声を掛けた。
「あら、この子なら少し前までここに居たわよ」
「やっぱり……どこ行っちゃったか知ってます?」
「地元に帰るって言ってたわよ」
「地元?」
「広島だって言ってたかしら」
どうやって?
乗り物もなければ、道を歩くだけで大変なのに。
あたしは携帯を取り出し、電話をかけた。
『もしもぉし』
「あ、ゆかちゃん? 広島に帰ったとか聞いちゃったんだけど」
『帰れんじゃろ、こんな状況じゃ』
「だよね」
『辺りを捜してみんさいや』
「辺りっつったってな……」
あれ?
なんであのビルだけ倒れてないんだろう……
なんのビルだっけなアレ。なんか見覚えあるな……
「あ……」
『どしたん?』
「いたよあ〜ちゃん」
『やったじゃん』
「ビルの屋上に立ってる」
『ビルなんてあったん?』
「うん。あ、行っちゃう」
『はよ追い掛けんと!』
「うん」
6月17日
あ、おんなじだ。
あ〜ちゃんのここ、のっちのと全然変わんないや。
「ねぇきもちいい?」
「……うん」
「だろうね、めっちゃ濡れてるもん」
「言わんでええよ」
「あたしのもこんな感じになるけど、やっぱそん時は感じてるもんなぁ〜」
あんま綺麗じゃないけど。
でもまぁ、みんなおんなじ訳だし。
「じゃあのっちにもしてあげる」
「そう? ちゃんとイってからでいいよ?」
「さっきから何度もイっちゃってるんですけど……」
「あ、ホント?」
「あんたのせいで、イキ癖ついたんよ。すぐよ、すぐ」
「あらテクニシャン」
「だから、ホラ」
「あっ……んん。んじゃ、お手柔らかに」
7月1日
なんだか空が赤い日。
真っ昼間なのに、燃える様な色。
「わ、ちょ〜キレイ」
そうかな?
「凄い凄い! なんか降って来たよ!」
本当だね。あれはなんだろう……
「光ってるよ」
なんか速くね?
「わ、一杯降って来たよ」
なんかデカくね?
「あぁ〜、ぶつかる」
けたたましい轟音と共に、空から降ってきた“ナニカ”が目の前の高層ビルに直撃した。
爆風と飛び散る破片、巻き上がる砂塵。間髪入れずにその“ナニカ”は一瞬のうちに世界中に降り注いだ。
赤い空から沢山“ナニカ”が降ってきた日。
世界が一瞬でめちゃくちゃになった日。
「ゆかちゃん……ゆかちゃん?」
ケホケホ聞こえる咳。あぁ、可愛い声だな。咳まで可愛いな。
「ゆかちゃん、大丈夫?」
「う〜ん、大丈夫っぽい」
「ビックリしたね」
「にしては意外と落ち着いてるね」
段々と視界がひらけてくる。
高々と聳え立っていた高層ビルは、軒並みタダの石と鉄になったみたい。
「アハハ、なにそれ?」
「なにが?」
ゆかちゃんの周りは、一面が真っ赤に染まっていた。
「器用な事するね」
「だからなにがよ」
「足だよ足」
「あし?」
「うん。アハハ、なにそれ。どっちに曲げてんの?」
9月20日
ゆかちゃんの奴め。
根性足らない奴だ。
あたしの誕生日だってのに、祝う気もなかったな。
あたしは初めて掲示板に目を通す。
「けー……けー……けー……あ、あった。かしのゆか」
血液型、誕生日、間違いない。
意外と迅速かつ的確な情報じゃん。
都内だけで一千万人超えか。
「えぬ……えぬ……えぬ……あれ? あった」
にしわきあやか。血液型も誕生日も一緒だ。
あれ? いつだっけな、最後に見たの。
先月の最後?
ああ、あれこのビルか。
日時が……
「……7月1日?」
あの日じゃん。
赤い空のあの日じゃん。
なんだ。そっか。まぁそりゃそうか。
……あれ?
なんかおかしくない?
写真、みんなこの子知ってるって言ってたよね……
てかあたしも見たし。
……アレ?
ジャアアタシダレヲオイカケテタンダ?
あぁ、ダメだ。
頭働かねぇ……
糖分足んねぇのかも。
疲れた。頑張ったよ、あたし。
取り敢えず寝よう。もうする事ないし。なんか視界がぼやけてきたし。
あ、コレか。ぼやけるわ、確かに。
「あ〜……アイス食いてぇ〜……すっごい甘くてめっちゃ冷たいヤツ。食いてぇ〜……」
…………アレ?
「……のっち?」
〜end〜
最終更新:2009年10月22日 17:46