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がたんがたん、と電車の揺れは不規則を規則的に繰り返す。そんな表現をしたら、のっちは得意げに「ゆかちゃん、それ矛盾だ」なんてどや顔してみせたっけ。
矛盾、なんて得意げに使う大学生って、どうなのよ。そういえば小学生の時に「矛盾」の語源を勉強して、クラスの男子は矛盾、矛盾なんてうるさかったなあ。
一方のっちはじわじわと迫りきて、大人の間でまことしやかに囁かれる地球温暖化だとか、戦争だとかそういうものに子供なりに心を痛めていたはずなのに。
時の流れは恐ろしい。幼い日の純粋な少女を、小学生の男子にさせてしまった。
(でもねえのっち…世の中そんな矛盾ばっかなんよ。たぶんね)
朝焼けに焦がされてしまいそうで、人に会えば泣いてしまいそうで、それよりもこの想いをこらえられそうになくて、ゆかは帰宅の手段に地下鉄を選んだ。
朝帰り、なんてしてしまえば聞こえはチープだ。

頭の中で、昨夜のできごとを反芻する。して、しまう。なんてひどい感情の吐露だったろう、のっちの呆けた顔が忘れられそうにない。
『ゆかが、三人居るみたいなんよ』
我ながらちょっと間抜けというか、伝わりづらいというか、とにかく適切な表現ではないと今なら自覚できる。
けれど、昨日の夜のゆかにはこの表現が一番的確で、唯一だったようにも思う。
ゆか。自分を見張るゆか。のっちに見られているゆか。
(昨日と今日でこうも感じ方が違うなんて、ゆか一人見ても、矛盾だらけでしょ)
昨日はあんなに会いたくてたまらなかった。恥ずかしかった。走るなんてそんなことしなかったけど、でも足首がひりひりするほどには急いだんだと思うよ。
そういうところはまだ子供なんだなって、みっともない姿に適当な理由つけて、冷えはじめた空気の中を切った。帽子も眼鏡も忘れたくせに、化粧だけはしっかりして行ったんだ。
不躾にのっちの家に侵入した。あの時のっちが寝転がりながら読んでたマンガのタイトルまで思い出せる。
あんなに意識を尖らせて、変な集中力発揮して、恥ずかしい感情の吐露をした。昨日はあんなに会いたくてたまらなかった、のに。
ゆかは今、電車に乗ってる。間抜けな寝顔を置いてけぼりにして、メールも書置きも残さないで。



「ふふ、」
自宅まであと2駅。思わず思い出し笑いをしてしまう。やっと家に帰れる、っていう安心感が体に満ちてきて、気を抜いてしまったせいだ。
だって、ねえ。

『ゆかが、三人居るみたいなんよ』
『…それって、ゆかちゃんだけでPerfume出来るっつーこと?』

そりゃないわ。

それでも今日から、ゆかがのっちの名前を呼ぶ理由が変わる。
今日から、のっちがゆかに触れる理由が変わる。
ゆかの日常は強かな幸福に呑み込まれ、多少の不安を孕んで降下していく。



きっとあれは夜間飛行。星空を越えて、ゆか、着陸する場所を見つけた。




end






最終更新:2009年10月22日 18:08