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泣き顔より、笑顔が好き。



        :: ビター・ビター (2)




(…ゆかちゃんが泣いてた。)

何だかかしゆかが酷く辛そうだったから思わずあとを追った。心配した。しかし、そこはのっちが踏み込んではいけない世界だった。かしゆかは、ときどき物思いにふけていた。のっちはそれに気がついてはいたが、その理由をかしゆかに問うことはなかった。だけど今日はそんなかしゆかがいつもより増して辛そうで、のっちはそれを見て見ぬフリをすることなんて出来なかった。だから追いかけたのに気の利いた言葉一つ言えず、それどころか突き放されるような言葉を浴びた。非常階段でのあのやり取りの最中、かしゆかは一度も振り向いてはくれなかった。のっちはかしゆかを救えなかった。

俯いて先ほど来た道を戻っていると、前からぱたぱたと足音がした。その足音にゆっくり顔をあげた。

「のっち、どこいっとったん。」

前からやってきたのは、あ〜ちゃんだった。小走りしてきたあ〜ちゃんの足はのっちの前でぱたりと止まる。

「…ちょっと散歩? あ〜ちゃんこそどしたん?」
「のっちがおらんなったけえ、迎えに来ただけよ。」
「え?」
「あれ、かっしーは?」

あ〜ちゃんは、のっちを探しに来てくれたんだ。
そのことがひどく嬉しくてのっちの頭の中で、3人のちっこいのっちが踊り出していた。表情はもしかしたらにやけているのかもしれない。あ〜ちゃんには悟られたくない。ずっと隠してきた、

「のっち、かっしーこっちこんかったん?」
「あー…ゆかちゃん?」

あ〜ちゃんの二度目の問いかけにのっちは我に返った。脳裏にゆかちゃんのすすり泣く声が響いた。なんでだろう、のっちはこのことをあ〜ちゃんに伝えてはならないような気がした。咄嗟に、嘘を、吐いた。

「ゆかちゃんね、何か電話してたよ。ともだち、かな?」
「ほうなんじゃ、かっしーもうすぐ撮影じゃのに。」
「ゆかちゃんもわかっとるよ、ほら、楽屋戻ろう。」

のっちは優しく片手であ〜ちゃんの肩を抱く。そして楽屋へとふたり寄り添って向かう。自分で触れておきながらのっちは、この触れた部分からあ〜ちゃんへの気持ち、友達同士の好きじゃない、でもそれを恋と呼んでいいものか、ここ数ヶ月ずっと悩み続けていた想いが伝わってしまうのではないかと思った。はっきりとは確率してない、けれど消すに消しきれない想い、これはもう肯定しかない想い、まだあ〜ちゃんに伝えるべきことではない。もしかすると、一生伝えなくてもいいのかもしれない。

「ねえ、のっち、さっきから近いけえ。」
「ええっ、あ、ごめ…。」
「別にええけどおー。」

横を向いたあ〜ちゃんの顔が近すぎて、思わず顔だけ背けた。ひどい顔をしていたかもしれない。けれど、そんな間近なあ〜ちゃんの笑顔は眩しすぎて見とれてしまいそうだった。得意げなそのかおも、無邪気なえがおも、全部全部眩しい。あ〜ちゃんが傍にいてくれるだけでいい、そう思えた。


廊下を歩いているときも、のっちはあ〜ちゃんの肩をずっと抱いていた。頬を朱に染めて微笑んで、それはそれは幸せそうに笑っていた。楽屋に入るまで、振り向くことなく。かしゆかが泣いていたことも、のっちの頭には消えていた。





最終更新:2009年10月22日 18:10