用事を思い出したのなんのって言い出して、突然帰ってしまったゆかちゃん。
カバンを取ろうと屈んだ時のパンチラを、食い入るように絶好のポジションから眺めてたら、帰り際に思いっきり尻尾を踏まれた。


尻尾の先ってホントに痛いんだってば・・・!

ゆかちゃんってば、絶対分かっててやってるよね。
それでいて、最高の甘い笑顔なんて見せちゃうんだから、やっぱり小悪魔は恐ろしい。。


っていうか、さっきまでの甘やかしモードはいったいどこへ??
今日はスパッツ穿いてなかったから、怒ったのかな。。

でもさ、目の前に広がる夢から目を逸らすなんて、そんなことは・・・。
そう、パンチラとは漢の夢なのれす!!・・・って、のっち、一応女の子だけど。


って、そんなことより!!
今、あ〜ちゃんと二人っきりにしないでよぉぉ!!


同じくポカーンと呆気に取られてるあ〜ちゃんと目が合ったけど、すぐに逸らされてしまった。


やっぱり怒ってるよね?
え、でも全然思い当たることがないんだけど。。

だけど、怒らせちゃってるなら、ちゃんと謝らないと・・・!


「あ・・あ〜ちゃん?」
「なん?」


うぅ。。
だから、視線が冷たいってば。。


「ごご、ごめんなはい!!」


うわぁ、、噛んだ上に声裏返ったよ。
なんか勢いでジャンピング土下座までしちゃったし。


「なんで謝るん?」
「だ、だって、あ〜ちゃん怒ってるみたいだから。のっちまたなんかやらかしちゃったかなぁって・・・」

「・・・別に怒っとらん」
「じゃあなんで、元気ないん?」
「別にいいじゃろ・・・のっちには関係な」「なくない」


あ〜ちゃんの言葉を遮って、視線を逸らし続けるあ〜ちゃんの肩を掴む。


「ヤダ。のっちはあ〜ちゃんが元気ないまま、ほっとけん。それに、あ〜ちゃんに嫌われたままなんて絶対に嫌じゃ」


やっと、合わさった視線。
あ〜ちゃんの瞳から一筋、涙が零れた。




  • side A-


言えるわけない。。


のっちが女の子にモテてるのが心配で仕方ない、なんて。
のっちが誰かにとられちゃうみたいで嫌だ、なんて。

まさか、ゆかちゃんにまでヤキモチ妬いてた、なんて。


「ごめんね。ごめんね」
「だから、、なんで謝るんよ・・・」
「だって、のっち泣かせちゃったし」
「のっちのせいじゃないけぇ」


そう、あ〜ちゃんが勝手に、嫉妬して、不安になって。
だけど、そんな醜い感情なんて知られたくなくて。。


「嫌いになんて、なれん。なれんから・・・」


ああ、そっか、、
あ〜ちゃん、のっちのこと・・・。。


ああ、どうしよう。
自覚してしまった途端に、また涙が溢れだした。


そうか、そうだったんだ。
あ〜ちゃんはのっちのことが好きだったんだ。

目の前で私の涙にオロオロして情けなく耳を垂れさせてる、こののっちが好きなんだ。。


「あ〜ちゃん、泣かないで」

ペロっと、のっちが頬を伝う涙を舐め取った。


「ちょ、っ、」
「大丈夫、のっち、犬だから」

「ばか・・・」


意味分かんないよ。
のっちはのっちだよ。

犬耳と尻尾が生えてても、もしもまた完全に犬になっちゃったとしても。
のっちはのっちだよ。


そっと、のっちの背中に腕を回して、抱きついた。
一瞬だけ驚いたように身体が跳ね上がったけど、チラリと見えた尻尾ははち切れんばかりに振られていた。




「ばかのっち」
「はい、」

「ばか犬」
「はい、もうその通りで」

「ばか」
「ごめん」

「すき」
「ごめ・・・——っ?!?!」


のっちの頬に軽く触れるだけのキスを。


「——!!!!」


そっと、顔を上げたらのっちの顔が真っ赤になって。
目をぱちくりさせながら、急に慌てだした。


「あ、あ、あ〜ちゃ、、今、なんて・・・・?」
「・・・・何度も、、言わせんでよ。。」


きっと、あ〜ちゃんだって真っ赤になってるのに。


「でも、のっち、、こんなん、だよ?」
「・・・・どんな姿でも、、のっちなら、いいよ」


本当は、寂しかった。
ずっと寂しかったの。


犬ののっちと一緒に暮らしてた数日間がまるで夢みたいに感じられて。
1人で眠る部屋はバカみたいに広く、寂しく思えて。


のっちには、帰る場所があること。
のっちには、のっちの生活があること。

そんな当たり前のことが、寂しくて、切なくて。


「のっちじゃなきゃ、、嫌だよ」


どこにも行かないで。
誰のそばでもない、あ〜ちゃんのそばにいてよ。


「ねぇ、あ〜ちゃん?」


ぎゅぅっとのっちにしがみつくと、それよりももっともっと強い力でのっちが抱きしめ返してくれた。


「あのね、のっちの居場所は、あ〜ちゃんなんよ」


そんな、全部見透かされてるようなセリフ。
そんなん、のっちのくせに生意気じゃ。


「あ〜ちゃん、だいすき!」


だけど、そのキラキラな笑顔も、ふさふさな耳も、たまに下がりすぎる眉も、正直すぎる尻尾も。
ぜんぶ、ムカつくくらい、だいすき。


ねぇ、
もうその尻尾を振って、あ〜ちゃん以外の誰かの後について行っちゃ、ダメだからね?



おわり。







最終更新:2009年10月22日 18:48