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のっち……のっち……
誰かがあたしを呼ぶ声が聞こえる。聞き覚えのある声だ。
あたしは薄く瞼を開く。そうだ。恋人だ。あたしの天使だ。あたしを起こそうとしている。
のっち……のっち……
声は止まない。なんで起こすの? もう少し寝てたいよ。なんか約束してたっけな?
のっち……もうっ……
諦めた様子。良かった……もう少し寝てられる。
せっかく起こしてくれた恋人を悲しませないように、あと5分だけ寝たら起きて驚かしてやろう。そうしよう…………









「わ、のっち起きたん?」
「まぁね。あたしだっていつまでも寝坊助じゃないんだよ」
「さすがじゃ。のっちはやればできる子だもんね」
「うんっ。今日は水族館行く約束だもんね」
「わ、憶えとった。嬉しい」
なんだか調子が良いぞ。あ〜ちゃんもなんかいつもより機嫌が良さそう。
あたしはササッと着替えとメイクを済ませて部屋を出る。
「わ、のっち今日ちょ〜カッコイイ!」
「……そう?」
いつもと変わんないんだけど……
「うん! ホンマに!」
「……ありがと」
「上から下まで全部真っ黒なんて似合う人ようおらんよ!」
……機嫌良いな。さては今日はご機嫌な日だな。きっとあたしが早く起きたからだな。そうに違いない。
「行こっ」
あ〜ちゃんは満面の笑み。促されるまま外に出ると、自然とあ〜ちゃんはあたしの腕に絡まった。柔らかい身体がこれでもかと言わんばかりに押し付けられる。
調子乗っちゃうよ? そんなんあたし調子乗っちゃうよ?


並んで歩き街に出ると、辺りはざわついている。視線はあたし達に向けられている。
あたし達にっていうより、あたしに?
なんだろうと思い耳を傾けてみると「あの人綺麗」「めっちゃ可愛い」「隣の女の子羨ましい」「友達になりたい」様々と聞こえてくる。なんて良い気分。
しかしあたしは表情は崩さない。だらしなくニヤケてると、隣のお姫様が御冠になるからだ。
そんな事考えていると、いよいよあたしは声を掛けられてしまった。
しまった。これではせっかくの姫の機嫌を損ねてしまう……
そう思い即座に断りを告げ隣にある顔を覗き込むと、意外な言葉が投げ掛けられた。



「うれしいねっ」
「えっ?」
「のっちモテモテじゃ。一緒にいてあ〜ちゃんも鼻が高いわ」
……調子が良いのか?
むしろ、あ〜ちゃんの調子がおかしいのか?
普段からは想像もつかないあ〜ちゃん。あたしがそんな事を考えていると、空模様までおかしくなった。
「最悪じゃあ……雨降ってきおった……」
つまらなそうに空を見上げるあ〜ちゃん。
仕方がないね。どこかで雨宿りを……ん?
自分の右手に握られているものに気付く。傘だ……二人で入れる様にと、二人で選んだネイビーブルーの大きめの傘。
「のっち傘持ってきたん!?」
「え……」
そうなのかな?
「さすがのっちじゃ! ホンマに用意が良いね、好き」
いつもは真逆のことばっか言われるのに……
なんだか今日は全てがあたしの都合の良い様に世界が回ってるぞ。
二人で一緒に傘に入りながら水族館に入る。今の時代意外なビルの中に普通にあるよね、水族館。あ〜ちゃんはそういうスポットを探すのが上手い。
入場口で財布を出す。一人1500円か……幾ら持ってきたっけな……って、おい!
どうしたんだ、あたしの財布。札束ごっそり入ってるよ……よし。
「あ〜ちゃん。今日はあたしが全部出すから!」
「ホンマに?」
「うんっ!」
「もぉ〜、どんだけ紳士なんよ。好き」
ヤバいぞ今日の自分! あ〜ちゃんのハート刺激しまくりだよ!


水族館の中へ進む。はしゃぐ可愛いあ〜ちゃんを見つめる。朝早く起きて良かった。早起きは三文の得って本当だったんだ。これからはちゃんと先人を敬おう。
順路に従って進んで行くと、深海体験コーナーなるものへ辿り着く。
暗い室内。青く光る水槽とピンクや黄色の綺麗な魚。
やたらと雰囲気が良い。なんか、言っちゃえばラブホみたい。
「綺麗だね」
「……ん」
横にいるあ〜ちゃんの横顔も綺麗な青に反射して美しい。少し室内が暑いせいか、ほんのり色付いた頬が色っぽい。
「のっち」
「ん?」
「キスして」
「うん」
部屋は暗いけど人気は感じる。あたしはあ〜ちゃんに軽く口付けた。
「もっと……」
「え?」
「もっとして。お願い」
「人がいるよ」
「そんなんええから、して」
薄く開いた口。濡れた瞳が揺れている。物凄くセクシーだ。
「はよぉ〜……してぇ」
「う、うん」
あたしはまた口付ける。すぐにあ〜ちゃんの腕があたしに回り、キスは深いものになった。
「はぁ……あつい……」
「うん……」



「あつい……」
「大丈夫?」
「あついんよ……はぁ」
あついあつい。そう言ってあ〜ちゃんはワンピースの胸元を開けた。
「ちょ、ちょっとあ〜ちゃん?」
ピンクのブラが見える。福與かな胸も見えてしまっている。
「どうしようのっち……したい」
「したいって……なにを?」
「わかるじゃろ? ……はぁ……ダメじゃ我慢できん」
焦れた様子でどんどん自らはだけていくあ〜ちゃん。
「のっちぃ……お願い抱いて」
「ここで!?」
「我慢できんのよ……身体があつくてあつくて……」
いよいよあ〜ちゃんはワンピースを脱ぎ捨てた。
ええい、仕方ない! 恋人が欲している。据え膳食わぬは云々って言うし。
「あ〜ちゃん!」
あたしはあ〜ちゃんを力強く抱き寄せた。凄い熱い。既に吐息も乱れている。


「あぁ……のっちぃ」
「うん……」
「好きぃ」
「うん……」
抱き締めただけで、あ〜ちゃんの声は更に甘くなり、吐く息は乱れる。
「ぐちゃぐちゃにして……」
ゆっくりとあ〜ちゃんの両腕が背中に回る。
すると……
「痛っ」
あ〜ちゃんが背中を叩く。何度も叩く。
「いてっ……痛い痛い」
なんで? あ、そういうプレイ? 今の流れでいきなり?
「このっ! このっ!」
「痛っ、どしたんあ〜ちゃん?」
「このっ! これでもかっ、これでもかっ!」
あ〜ちゃんはあたしを執拗に叩く。
止めて……
痛いよ……
流石に叩き過ぎだよ……
最後にあ〜ちゃんはあたしの頭をグウで殴った。









「痛いなぁっ! もう!」
「ほぉ〜……随分偉そうな態度じゃね」
あれ? 誰だろうこの閻魔様は……
「一体いつまで寝るつもりだったんかねぇ……」
寝る? なに言ってるの?
「あ〜ちゃん?」
「なんよ」
「あれ? ……水族館?」
「お、それは覚えとるんじゃ」
腰に手を当て仁王立ちするあ〜ちゃん。さっきまでの奇跡のあ〜ちゃんはどこ行った?
「今何時だと思っとるん」
「え……げ、もうお昼じゃん」
「ずっとニヤニヤしとってからに。どんな夢見とったんかね」
「……夢?」
「もう知らん。あ〜ちゃんは一人でお昼を食べに行きます」
「わ、ちょっと待って! すぐ用意するから!」


〜end〜






最終更新:2009年10月22日 18:53