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今日最後の講義が終わった頃には、空はどんよりとしていて、少し暗くなっていた。
秋が来た。明るい時間が短くなってる。
「では、次回からは・・・」
その言葉を合図に生徒たちは荷物をまとめはじめたり、携帯をチェックしだした。
中には次の講義の内容を聞かずに帰っていく人たちも居る。
のっちは頬杖をついて、動かなかった。筆記用具も片付けないし、携帯のチェックもしない。
「では、終わりです」
先生はマイクを通してそれだけぼそっと言うと、乱雑に黒板を消して広い講義室から姿を消した。
その時点で既に半分の生徒が講義室から居なくなっていた。
「じゃあのっち、また明日」
隣に座ってた大学での友達は結構真面目な子で、他の人たちのように先生が話してる途中で帰るような子ではなかった。
今日はこれから彼氏とデートだそうな。
のっちは彼女が講義室から出ていくのを横目で見送って、筆記用具を筆箱に、ノートをバッグに突っ込み、立ち上がった。

外へ出ると、薄暗かった。
廊下では、家路を急いだり飲み会へ向かう奴らの声がでかくて参ったけど、外もあんま変わらないな。
耳が痛くなった気がして、音楽を聴くことにする。ぱっと空を見上げると、首のまわりを冷たい風が通った。
空気のにおいは、冬に近いかもしれない。懐かしい焦燥感が身をじりじりと焦がす。これは、高校生の時の思い出だなあ。
秋になるとすぐに外が暗くなってさ。放課後に話してる時間がどんどん短くなって。
少しでも多く二人と会話してたいのに、そのうち警備員さんがもう帰りなさい、って。
三人で残念がりながら、それでもゲラゲラ笑って玄関に向かう。
そうすると急に現実に引き戻そうとするかのように冷たい風が三人の間に吹いて、靴を履こうとする瞬間不安がピークになるんだ。
二人はすでに外に出ていて、のっち早くせんと置いていくよ、と急かす。
そんなことないってわかってんだけど、あの時ほど二人がどこかに行くんじゃないの、って思ったことなかった。
だから、放課後の教室や、どこまでも暗く、黒くのびていくような廊下とか、閉じ込められそうな重たい玄関の扉が苦手だった。秋冬は特にさ。

思わず高校の時の焦燥感に飲み込まれて、ネガティブなことを考えそうになってしまう。
選曲が椿屋っつーのもね。なんか渇いた音が冬を連想させんだよなこれが。




大学の裏門を出て、坂を登る。長い坂だ。高校のときも似たような坂があったっけ。
のっちはあ〜ちゃんの歩幅に合わせるのが苦手で、いつも先に坂のてっぺんについてしまったんだ。
登り終わって後ろを振り向くとそこにふて腐れた顔のあ〜ちゃんと、
やれやれって顔のかっしーが居て、のっちは謝りながらもう一度坂を下って、三人で登り直した。
もう、三人で制服着てあの坂を登ることはない。
高校っていう中途半端な将来が渦巻く場所で、いつまで三人で居られるんだろう、って焦ることもなくなった。
のっちはきっと大人になって、あ〜ちゃん以外にも大切なものがたくさん出来たし、考え方も変わった。例えば、冬のにおい、なんて詩みたいな表現前はあんまり好きじゃなかったんだけど、
今なら季節ににおいがあること、なんとなく理解できる。

坂を登り終えて、気まぐれに振り返る。もちろんふて腐れた顔のあ〜ちゃんは居ない。
それどころか、他人すら一切居なかった。
まわりは家に囲まれて、アパートもあって、きっとこの中には人が住んでいる筈なのに、それもあんま信じられないくらいに静かで。あたりはもう暗い。

こんなとき、昔ののっちなら心配で心配で堪らなかっただろうね。
珍しく自分からメールを送ってしまったかも。
それでも今は、踵を返して一人きりのまま家に帰るって選択肢を選べる自分が居る。

心配しなくたって離れないって、ばかなのっちももう学んだんだよ。
もし離れたらそのときはそのときだって、そう思えんだよ。
ただ今は、のっちの身体を貫いて、あ〜ちゃんとかっしーに繋がる三角形の一辺を確かに感じられるから。




end







最終更新:2009年10月22日 19:32