Side A
のっちとゆかちゃんが死んでしまう夢を見た、その日。
のっちと午後から、ゆかちゃんの誕生日プレゼントを買いに行って、その後、映画を見る約束をしていた。
のっちを待っている間、夢の光景が頭から離れなくて…。
だから、のっちの顔を見たとたん、安心して泣きそうになった。
側に居るのが嬉しい。
でも…怖い。
そんな小さな矛盾で、のっちと手を繋げずに、コートの袖を引っ張る。
その後も、あたしの感情はずっと不安定で、のっちが時々心配してくれる。
待ち合わせ場所に来た時、買い物してる時、映画を見終わった後も…。
のっちから繋いでくれた手も、あたしがお手洗いへ行く為に、すぐに離れてしまった。
折角のっちと居れるのに、こんな気持ちじゃ全然楽しくないよ。
しっかりしなきゃ。
メイクと一緒に気合を入れ直して、のっちが待っている通路へと足を進める。
でも、出た瞬間、あたしの足は凍りつく。
あれ?のっちは?
確かココで待ってるって…。
ロビーの方へ行って、何度も見渡すけど見つからない。
一気に心臓が音を上げる。
今朝の夢が、鋭利になってキズを抉る。
携帯を取り出して鳴らすけど、出てくれない。
え…な、んで?
その後から何度もリダイアルするけど、まったく繋がらない。
のっ、ち?どこ?
上手く呼吸できない。
脈打つたびに、目の前が暗くなりそう…。
のっち…のっち
あたしは何もいらないの
今あるものを失わなければ、それで…
のっちぃ…
やだ…やだよぅ
お願い…
一人に…しないでっ…
胸元を握り締めても、縋りつく物はそこにはなくて…
泣き崩れそうになって、目を閉じた瞬間、誰かに抱きしめられた。
もちろん、誰かなんてすぐに判った。
何度も抱きしめてくれたもん。ちゃんと憶えてる。
探してた人が見つかったのに、涙は止まらない。
「あ〜ちゃん、ごめん。ちょっと、飲み物買いに行ってた。」
いつものちょっとおちゃらけた口調じゃなくて、落ち着いた優しい口調。
「…っぃ。」
のっち。何度も呼びたいのに声が出ない。
だから変わりに、あたしはこれ以上ないくらい強く、のっちを抱きしめた。
「それから、携帯…電話、してくれたんだよね?」
のっちの肩に顔を乗せたまま頷く。
「家に、忘れちゃって…ごめん。」
まだ握り締めていた携帯を、のっちの背中にコツンと当てる。
「うん、ごめん。」
もう、良いよ。謝らないで?
良いから、今はのっちの温もりを感じさせて?
Side N
周りからやたらと視線を感じるけど、そんなこと知ったこっちゃない。
だって、あ〜ちゃんが泣いてる。
たぶん、何も言わずに一人にしちゃったせいだ。
おまけに携帯を忘れてきたときてる…。
まったくもって、自分が情けない。ホント最悪。
こんなことなら、家出て気付いた時、取りに行けば良かった。
痛いくらい抱きしめてくるあ〜ちゃんに、胸がギュッとなる。
「ごめん。」
今はそれしか言えなくて…。
ただ、落したら割れてしまう、ガラスの器のようなあ〜ちゃんを
落して割ってしまわないように、優しく、しっかり抱きしめた。
「家、来る?」
「…ぅん。」
今にも消えちゃいそうな声が、また胸を締め付ける。
帰り道、ほとんど会話は無かったけど、繋いだ手はずっと離れなかった。
部屋に入って、置きっ放しにしてあった携帯を手に、あ〜ちゃんと飲もうと思って買ったココアをカップに入れて温め直す。
その間に、携帯を開いてみると、あ〜ちゃんからの不在着信が…5、6、7回…。
あ〜ちゃんの不安が溢れてる。
それから、その前にメールが1件。
ゆかちゃんからだ。
—あ〜ちゃん怖い夢見たみたいだから、後はのっちお願い
あ〜ちゃん、怖い夢見たのか。どんな夢だったんだろう?
ゆかちゃんが折角教えてくれてたのに、こんな時にかぎって忘れるなんてアホだな。
はぁ…コレ見てれば、もうちょっと何とか出来たかもしんないな…
かといって、反省ばかりしてる場合じゃない。
これからだ。
今、あ〜ちゃんを覆ってる不安と恐怖。
なんとかしなきゃ。
大丈夫
あ〜ちゃんは一人じゃないよ?
—つづく—
最終更新:2009年10月22日 19:41