その人は、目を閉じていた方が分かることが多いと言った。
それじゃ景色も色でさえも分からないじゃない、とあたし。
その人は、そんなものは必要ないと言った。
それじゃつまらない、とあたし。
「なんで目瞑ってんの?」
無遠慮にあたしの中に侵入してきた彼女が言う。
「その方が感じる」
「……色っぽい」
あたしは知ってる。
例えば、部屋にある窓ガラスが有り得ない程分厚いものになっていても。
音は聞こえなくても目で見れば雨が降っていることは分かる。
降っていることが分かれば、音は分かる。あたしは今まで何度も聞いた事があるから。
それなら、目を閉じていても音だけ聞けば、雨が降っている景色を見る事ができる。
あたしは知ってるから。
「今、うそついたでしょ」
「……なんで?」
「分かるの。声で」
あたしは自然と目を閉じてみる事が多くなった。
視界を閉ざす代わりに研ぎ澄まされる感覚。
音もそう。
香りもそう。
空気もそう。
温度もそう。
彼女に触れる時も、彼女が触れる時も、それはより良く感じ取れる。
世界が変わった。
ものの感じ方が変わった。
ものの見方が変わった。
あたしは知っていたから。
あたしは、元々知っていたから。
その人は、世界は自分だけのものだと言った。
人は一人では生きていけない、とあたし。
その人は、空が青くて、海が青くて、雲が白いのは、誰かが決めたことだと言った。
でも実際そうだ、とあたし。
その人は、色は言葉で説明できないと言った。
できるよ、とあたし。
その人は、青というのは、どんな色なんだい、とあたしに尋ねた。
〜終〜
最終更新:2009年10月22日 19:45