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今日はいつもより少し早く目が覚めた。

枕元の携帯がメールを受信したことを知らせて光っている。

開くと珍しく11件もメールが来ていた。

受信BOXには
『ハッピーバースデー』
『お誕生日おめでとう』
という言葉がずらっと並ぶ。
誕生日メールだとタイトルだけで分かったし、内容も予想がついた。


ただ、一件を除いて。

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2009.9.20 6:45
FROM:あ〜ちゃん
TITLE:(NON TITLE)
本文:

海、見に行こ。



—END—
—————————





「お待たせ」

メールを読んだ後、他の10件のメールを開く間もなくあ〜ちゃんの元へ向かった。

集合場所すら書いてなかったけど何となく察しがついた。


「…遅いわ」


予想通りいつも2人で来る公園のブランコにいた。



「どこに行くの?」
とか
「ここから遠いの?」
とか聞きたいことはいっぱいあったけど何となく聞けなかった。


しばらくの沈黙の後あ〜ちゃんはゆっくり立ち上がり歩き出した。

あたしはただ黙って、揺れるワンピースの半歩後ろを着いていった。



しばらく歩くと駅に着いた。

どうやら電車に乗るみたいだ。

切符を買うために財布を出そうとしたら、あ〜ちゃんは何も言わずに二枚の切符のうちの一枚をあたしにくれた。


電車に乗った後も沈黙は続いた。



一週間前からあたしはあ〜ちゃんとまともに口をきけずにいる。

別にあたしたちの間に何かあったわけではない。

仕事の時はいつも通り太陽のような眩しい笑顔をあ〜ちゃんは見せてたし。

でも見てしまった。

あ〜ちゃんが一人で泣いてるのを。


臆病なあたしは近づいて抱き締めることなんて出来ず、ただ遠くから見つめることしか出来なかった。

あたしはあ〜ちゃんために何をしてあげればいいの。

あたしがもっと強かったらあ〜ちゃんを包むその不安や苦しみを取り去ってあげれるのに。

一つ歳を重ねても、あたしはやっぱり弱い。



電車を降りると見知らぬ景色が広がっていた。

どうやら知らない間に随分遠くまで来たみたいだ。



あ〜ちゃんはやっぱり無言で歩き出す。
あたしはやっぱり半歩後ろを着いていく。



少し歩くと海岸線に出た。
海の匂いを運ぶ風が心地よい。

あ〜ちゃんはひょいと防波堤の上に上がってバランスを取るみたい両手を広げて歩き出した。

ふらふらと頼りないその姿に思わず

「…危ない!…よ」

手を掴んだ。

あ〜ちゃんは立ち止まる。


「ねぇ…」

そっと口を開いた。

「あ〜ちゃんがもしここから落ちたら…どうする?」

独特の甘い声。
でも微かに震えていたのをあたしは聞き逃さなかった。
あたしを真っ直ぐ見つめる瞳の奥も揺れてる。


あ…そっか…弱いのはあたしだけじゃないんだ。

あ〜ちゃんは強い。
けど
弱くもある。

普段は太陽のような人だから影を隠すのが上手いだけ。

だったら

「のっちも一緒に落ちる」


あたしがその弱さも全て受け止めるよ。

「この手を絶対離したりしない。
あ〜ちゃんが生きるならのっちも生きる。
あ〜ちゃんが死ぬならのっちも…死ぬ。」


2人とも目をそらさない。




「……ふふっ」
先に目をそらしたのはあ〜ちゃんだった。


「大げさだな〜死なないよ。」



あ〜ちゃんはあたしの手をふりほどき、ふわっととんだ。

「…っ!!あ〜ちゃん!!」

慌てて、あたしは防波堤に上がり、身を乗り出す。


「…ほらね。」

防波堤の向こう側には


砂浜が広がっていた。


「…もう…びっくりするじゃん…」
「……バーカ。」


あ〜ちゃんは砂浜を駆け出していく。

「のっちのバーカ!バーカ!」

「ま、待ってよ」


追いかけても俊足のあ〜ちゃんにはかなわなくて全然追いつけない。


5メートル先であ〜ちゃんは立ち止まった

と思ったら

今度は海に向かって走り出した。

「キャッ!超冷たいよ〜!!」
「あ、あ〜ちゃん!?」

あーあ。ワンピース濡れちゃってるじゃん。
ちゃっかり靴は脱いでるけど。

「のっち!!」
「ん?」
「こっちきんしゃい」
「濡れちゃ「きて」
何その有無を言わさない笑顔。

靴を脱いであ〜ちゃんに近づく。

波打ち際で足が水に触れると予想以上に冷たかった。

たぶん体温が急上昇しているせい。


あ〜ちゃんはわたしの手首をそっと掴んだ。
俯いているから表情が分からない。


「…あ〜ちゃ」
思わず声をかけたその時…



「えい!!」
「うわぁ!!」

バシャーン


見事に全身ずぶ濡れ。
はめられた。


あ〜ちゃんはあたしの手首を引っ張って自分ごと水の中へ。

あたしたちは大爆笑した。
もう何がおかしいのか分からないくらい大声で笑った。
さっきまでの沈黙は嘘みたい。


「も〜お腹痛い」
「あ〜ちゃんも」


ひととおり笑いが収まったら、あ〜ちゃんは一転して静かに話し出した。


「あ〜ちゃんね、のっちの誕生日がくるんが…怖いんよ。」
「え?」

空気が変わるのを感じた。

「…おかしいでしょ?普通はおめでとうって祝う日なのにね。」

わたしはここからあ〜ちゃんが話すことを絶対に聞き漏らしちゃダメだと思った。
だってあ〜ちゃんはもう既に泣きそうだから。

「誕生日がくるたびに別れが近づいてる気がしてね…。今は幸せでも次の誕生日のころは一緒じゃないかもって思ったら…」

あ〜ちゃんの涙の理由はあたしの誕生日か。

「じゃあ、誕生日いらないや。」
「へ?」
「のっちの誕生日があ〜ちゃんを不安にさせるなら、誕生日なんていらない。だから…」

ずっと側に居させて。
来年も再来年もその先も。



「……その案却下」
「え?」
「誕生日は大事よ!いらんなんか言うたらのっちのママ泣く!!」

何それ。いきなりお説教モード?

「でも」

あ…また空気変わった。

あ〜ちゃんの濡れた髪が左頬に触れた。そして耳元でささやかれたのは

「ずっと側に居て」
最上級の甘い言葉。
もう夏の終わりなのに、今年一番の熱を体中に感じる。


「…うん」
あ〜ちゃんの腰に腕をまわし、ギュッて音がしそうなくらい抱き締めた。

鼻と鼻が触れるくらいの至近距離であ〜ちゃんは更に熱くさせる一言を。

「誕生日おめでとう」

今あたしの唇に触れているものはきっとあなたからの誕生日プレゼント。

END






最終更新:2009年10月22日 19:56