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実家に帰った時に久しぶりに再会した友人の話を聞いて動揺した。
昔、仲良くしてた子が結婚していた。今流行りの出来婚らしい。相手はガテン系のEXILEみたいな人だってさ。のっちは見た事もないからさっぱりだったけど、いかつい恐そうなタイプだそうで。

彼女とは小学校も中学校も一緒で、結構仲良しだったんだ。明るくてスポーツが出来て可愛くて、性格はキツい物があったけどあの年代の女子なんて皆あんなもんだし、彼女は人気があって男子からモテモテだった。
中二の時だかに先輩の彼氏を奪ったとかで真冬の放課後に三年生の集団に校舎裏に呼び出されてホースで冷水を浴びせられてたのを、のっちは美術の課題が終わってなくてお残りしてた時に準備室の窓から見てて。
圧倒的不利な立場で彼女は笑いながら「アンタじゃなくて私の方が可愛いからアイツは私に告ってきたんじゃん、そんな事も分かんないのブース」って言ってた。のっちはドン引いた。女って超怖い。男の為にここまでするか普通?

その後もちろん彼女はボコボコにされちゃった訳なんだけど、生憎その時のっちは彼女と隣の席で。次の日に体中に絆創膏を貼った彼女がのっちに向かって「彩乃なら助けてくれると思ったのに」って言ってきて。のっちはただ「ごめん」とだけ言って気まずくなって、もしかしてのっちクラスで虐められちゃうのかななんてビビってたけど結局何事もなく彼女とは普通に以前のまま仲良しだった。


三年生の修学旅行では同じ班だった。夜遅くまでガールズトークってやつで盛り上がってて、その時に彼女が「ねぇねぇ、二組の河口、彩乃のことが好きらしいよ」って。河口とは同じ委員会で、彼が委員長、のっちがじゃんけんで負けて副委員長になったってだけでその他にこれといった接点はなかったんだけど。明るいクラスのムードメーカーな彼は結構女子からも人気があったし、凄くそれを聞いてドキドキしてしまったんだ。
恋愛なんて全然知らないのっちにとって「好き」だなんて面と向かって言われたのはきっと幼稚園の時くらいだけだし。心も体も成長して異性を意識する様になってからはもちろん無くて。
それで修学旅行の最終日に河口に告白された訳だけど、のっちは雰囲気に呑まれてオッケーしちゃった。彼女も当時は年上の高校生と付き合っていて、ダブルデートとやらもした。彼女は恋愛に慣れているから当たり前みたいに彼氏と手を繋いだり腕を組んだりしていて。のっちは初心者だからさっぱりだったし、キス所か手を繋ぐ事すらしないまま三週間後には別れてた。彼女はその一週間前に別れてた。
彼女はいつも「医者と結婚してー子供は三人産んでー犬二匹飼ってー」なんて話してた。のっちは彼女なら本当にそうなる気がして頷いてた。だからとっかえひっかえ色んな男と付き合ってても「絶対にこの人と結婚する事はない」なんて安心してた。彼女にとって男なんて利用する為の道具に過ぎない訳だし。


だからそんな彼女が結婚したって聞いた時はショックだったな。もしかしたら、というかもしかしなくとも好きだったのかも、彼女の事。同窓会にあまり顔を出してなかったから噂でしか彼女の事は聞いてないけど、やっぱり良い噂は聞かなかった。

と、まぁこんな事でいつまでもクヨクヨしてちゃいけない。これから先、きっと周りの友達なんかも結婚していくだろうから慣れていかなくちゃダメなんだ。子供だった皆が大人になって親になって…そうやってこの世界は成り立っているんだって言うのに……。


のっちは?
てか、ゆかちゃんは?
彼女はどうなんだろう。前に聞いた話によると、のっちの家と違って親は教育熱心で厳しいらしい。特に父親が。あれだけ可愛くて器用な娘だから、もちろん立派な夫を捕まえて幸せな家庭を築くと自負してんだろうな。



ゆかちゃんだったらそれが出来るだけの力があるよね、女としての。もし結婚するんだったらそれなりに顔も良くって仕事も出来て、優しくて真面目な男なんだろうな。簡単に想像がついてしまう。しかもそれが初夢だった。


家に帰ればゆかちゃんがいる生活。当たり前みたいに、彼女といる日常。そんな日常が怖くなった。昔の友人の結婚が、こんなにも自分を追い込んで、今まで見て見ぬふりしてきた現実を鮮やかにしてしまうなんて。
そもそもゆかちゃんはバイだ。今まで付き合ってきた人はのっち以外はみんな男。女の子しか愛せないのっちと違って彼女はどこまでも器用で、なぜか羨ましく思えた。だからいつかのっちの元を離れていってしまうんじゃないか、って。今まで最低な事をたくさんしておいてこんな事を言うのもなんだけど。


はぁ、どうしよう…。
どうすれば良いんだろ…この環境が心地良すぎてずっとずっとこうしてたいよ…。周りの同級生が結婚しようが子供を産もうが、何事もなかったかの様に二人で今のまま…。だけどそんなの無理なんだろうな。そもそもゆかちゃんの親にばれたらどうすんのさ。女と付き合ってるなんてばれたら怒ったりすんじゃないの?
ゆかちゃんは家族を大切にしてるから、親が悲しむ事はしたくないだろうな。のっちより家族を選ぶでしょ。それで絶対別れるでしょ。当たり前っちゃ当たり前だけど、そんな別れ方は嫌だなぁ。


馬鹿みたいに一人で悩んで落ち込んで、馬鹿みたいに彼女に当たってしまった。それで喧嘩して速攻仲直り。仲直りのエッチは、なんていうか、温くて不完全燃焼な感じ。ただのっちは右手が疲れちゃって、ゆかちゃんも太ももが痛くなっただけ、みたいな。

だけど体温を感じていたかった。恋人ってただの甘えるだけの存在みたいなゆかちゃんの。この子を幸せにしてやりたいとか、そんな大それた事は言える訳がない。ただ甘えて、孤独を解消できて、のっちの存在を裏付けてくれる唯一の居場所。それを失う事がこんなにも怖いなんて、二年前ののっちには想像できなかった。
ゆかちゃんは「ゆかは、いつだってのっちには自分の味方でいて欲しいし、のっちがいるから仕事だって頑張れるし」とかなんとか言ってた。つまりは、のっちもそういう事なんだ。いつだって味方でいて欲しいんだよ、仕事云々は別として。独りが嫌だから、求め合ってるだけなんだ。


のっち達の恋愛にゴールなんてあるのかな?
こんな平凡だけど悲しい日常を繰り返すだけなのかな。ゆかちゃんはそれで満足なのかな。のっちにとってはこれ以上ない幸せだけど。あれ、幸せなのかな?幸せ…で、合ってるよね。

なんだか久しぶりにギターが触りたくなった。のっちが一番笑ってたのって、多分きっとあの瞬間だった訳で。人前で演奏する以前に、ケースを背負って毎週足を運ぶ古びたスタジオの空気とか、やりたい曲があるその目標だとか。何かしら目標がないと、昔からのっちは何をすれば良いか分かんなくってただ途方に暮れていた。だからバンドは、そんなのっちに目標を与えてくれたから、ただひたすらそれだけに突っ走る事が出来て。


今ののっちの目標は何なんだろ。
ずっと彼女と一緒にいる事じゃない。周りの友達が結婚していく環境に慣れる事でもない。一生懸命働いて社会に貢献する事でもない。だとしたら、それは、






「なんなんだろ…」


その日の深夜、後輩に奪われたギターの奪還に成功した。てか普通にあげたのを「返せ」つって怒鳴り込んだだけなんだけど。
一度は手放したソイツは、少し改造されてて若干腹が立ったけど、ちゃんと手入れされていたから音も出たし手に馴染んだ。

「先輩、またバンドやるんすか?」
って欠伸しながらアホみたいな顔して言うから、のっちは「うるせ」ってデコピンしてさっさと恋人の眠る我が家に帰宅した。



◇10:終◇







最終更新:2009年10月22日 20:04