(N)
あ〜ちゃんの腕の中で散々泣いたあと、グダグダぐすぐす鼻をすすり続けるあたし達を仕切直してくれたのも、
言ってくれたお礼にって、形のいいタコ焼きを片っ端からあたしにくれたのも、
何も変わらずに笑ってくれたのも全部
あ〜ちゃんだった。
「じゃあのっちはこっちで寝るから、2人はベッド使ってね」
お風呂も入ってフルーツパーティーもして、いい時間になったからそろそろおやすみ。
今日はたくさん笑ってたくさん泣いてたくさん緊張したから…もうすぐにでも寝れちゃいそうだ。
「いつもごめんね、のっち。ベッド使わせてもらっちゃって」
ベッドに腰かけたあ〜ちゃんが申し訳なさそうに見上げてくる。
あたしは視線を合わしつつ最終的にはそれより一段低い布団に寝そべった。
「ん?だって2人はお客さんでしょ?気にしないでいーよ。それより電気消してね、」
「…ごめんね、ゆかちゃんも取っちゃって」
「へ?」
「あ〜ちゃん何を、」
「ふふふ〜。てことでゆかちゃん借りまーっす」
「きゃー、あ〜ちゃんったらー」
「あー!!」
布団に沈めた体が思わずはね上がる。
からかう声色でそう言うと、あ〜ちゃんはベッドの中でゆかちゃんに抱きついてた。
ゆかちゃんもなんかまんざらでもないような顔して…。
あ〜ちゃん、それ酷い仕打ちだよ…。
「ふはは。冗談じゃけえ、そんな顔せんでよのっち」
「…え?」
「のっち…もう、あほっ」
「なんもせんから、安心して寝んさい」
「……絶対だよ?」
「のっち!」
「だってゆかちゃん、」
「あははは!」
(K)
あ〜ちゃんが笑ってる。
こんな会話で、あ〜ちゃんが笑ってくれてる。
「も〜。んじゃ電気消すねー」
のっちの声のあとすぐ真っ暗になった部屋。
ベッドの下ではのっちがあの薄いお布団に入る音がモゾモゾと聞こえてきた。…のっち、ごめんね。
そんな些細な音を掻き消すように、隣から声がした。
「ねーそう言えば、いつからなん?」
「ん?」
「2人が付き合いだしたの」
あ、そう言えばいつだろ…ちゃんと恋人同士になったのって。
そうなる前からその…色々とあったけぇ。どの時を始まりにしたらいいんだろ…
返答に迷いに迷ってたら、下からのっちの渋った声がした。
「ん〜…冬の始まり…辺りかな?」
「なんそれ、曖昧じゃない?」
「うん、けっこう曖昧な感じで始まった。ね、ゆかちゃん」
「あ、…うん。そうなの。うん。」
冬の始まりで、秋の終わり。
季節の変わり目にゆか達の関係も…変わったんだね。
「で、どっちから?どっちから告ったん?」
「あ〜ちゃん攻めるな〜」
「当たり前じゃろ!これは聞いとかんと!」
「どっちからって言ってもな〜…ねぇ?」
「はは、うん。ね?」
「うわっ何その、言葉にしなくても分かりあえてます…みたいな空気!こそばい!」
掛け布団をパンパン叩いて、あ〜ちゃんはこそばがった。
そんなつもりなかったのにそんな風にするから、なんだか恥ずかしくなっちゃって。
「そ、そんなことない…!」
「とか言ってゆかちゃん、焦っちゃって〜。このこのっ」
「もぉ、あ〜ちゃん…ゆかだよ」
「えっ!ゆかちゃんなん!」
「いや!ゆかちゃんちょっとタンマ!…のっちじゃね?」
「でも始まりはゆかだよ?」
「きっかけはそうだけど、結果的にはのっちが、」
「でもゆかが、」
「いや、のっちが、」
「あーはいはい分かった!どっちもなのね!」
一向に終わらないゆか達のどうでもいいようで重要な討論に嫌気がさしたのか、あ〜ちゃんが無理矢理まとめてくれた。
「まー、そんな感じでいっか。お互い歩みよったみたいな感じで。ね、ゆかちゃん!」
「…ん、そう、だね」
「のっち、ゆかちゃんお布団に隠れちゃった」
「えー?何〜?照れてんの?」
「そのようです」
「うっうるさぃ…」
「きゃはは、ゆかちゃんかわいい〜」
「かわいいー」
もぉ、2人してなんよ。ばか。
「ゆかちゃん出てきんさい」
「やだ」
「もー、のっちーゆかちゃん出てこんのじゃけど
「…」
「のっちー?」
「…」
「あれ?のっち寝た?」
「……グー」
「寝とるわ。ゆかちゃん、のっち寝よった」
「…もう寝ちゃったの?」
頭まで被ってた布団からいそいそとはい出る。
出ると、あ〜ちゃんがこちら側を向いてスタンバイしてた。
「それにしてもホンマいつの間に〜!って感じ。ほんと、びっくりした」
「だよね…」
「でもまぁ、うまくいってるんならよかった」
そう言って笑顔をくれるあ〜ちゃんに、胸がまた締め付けられる。
なんでちゃんと信じれなかったんだろう。
なんであんなに怖がったんだろう。
あ〜ちゃんはこんなに…こんなに…
「…ゆかね、本当言うと…怖かったんよ。すごく。あ〜ちゃんにバラすの…」
「…うん」
のっちの言葉に耳を傾けてくれた。
「もし…。もし否定されたらって思うと…」
「…うん」
ゆかの目を見て笑ってくれた。
「もうあ〜ちゃん、笑ってくれなくなるんじゃないかとか…考えちゃって、」
「そんなことなかったじゃろ?」
この人の何が怖かったんだろう。
「…うん。だからすごい恥ずかしい。自分が。」
「…」
「あ〜ちゃんを、信じてなかったから。」
「……」
「のっちはね、はっきり言ったんよ。…あ〜ちゃんだから大丈夫だって」
「そっか」
「それでも…ゆかは、」
「ゆかちゃん、それは仕方ないことよ?…誰でも怖いよ?」
お布団の下でゆかの冷たい手にあ〜ちゃんの暖かい手が重なる。
「ゆかちゃんだけじゃない。多分のっちも…怖かったと思う。」
「それは、」
「だからあんな泣いたんでしょ?不安から開放されて、安心して。…だからそんな、自分を責めんでいいよ」
優しい言葉に優しい目。
のっちもゆかもこの優しさに守られてるんだ。
許して、守ってくれてるんだ。
あ〜ちゃん、あ〜ちゃん、あ〜ちゃん、
「…あ〜ちゃん」
暖かい心地いい。あ〜ちゃんとこうして抱き合うのはいつぶりだろう。
「ふふ、のっちに怒られるよ?」
「…もう寝たから大丈夫だもん」
「ホンマ小悪魔じゃねぇ」
「…なんでもいいもん…。」
「ふふ。…よしよし」
そのまま目を閉じた。のっち以外の体温を感じながら眠るのになんの抵抗もなかった。
のっち以外の人に髪をとかれてるのに、すんなり受け入れることができた。
全部、全部、あ〜ちゃんだから。
(N)
「ふぁああ〜…」
相変わらず薄っぺらい布団から体を起こす。…ん、ちょっと節々が痛いなぁ…新しいの調達しよっ。
ふとベッドに目をやると、…なんと言うことでしょう。
そこには、あ〜ちゃんにしっかり抱き着いたまま眠るゆかちゃんの姿が…!
いや別にいいんだけどね。
いいんだけどね別に!
「ん……のっ、ち?」
「おはよ、ゆかちゃん」
終わり
最終更新:2009年10月22日 20:18