初めてダンスに触れたのは、ジャズダンスを習い始めた9歳の時のこと。
きっかけはお母さんの趣味だった。
だけど、そこで初めて踊る楽しさを覚えた。
中学に上がった頃には、他のダンススクールにも通い始めた。
そこで、出会ったのが先生だった。
先生の作り出すダンスは、他のどんなものよりも魅力的に見えて。
そんなものを作り出してしまう先生はもっともっと魅力的だった。
それを踊っている自分が好きだった。
先生にフリをつけてもらえることが嬉しかった。
先生に指導してもらえるのは上位クラスだけ。
だから、頑張って上位のクラスをキープした。
高校に入学するころ、先生はNYへ行ってしまった。
寂しかったけれど、スクールには通い続けた。
学校が終わったら部活や遊びなんて目もくれず、制服のままスクールへ直行して。
ただただ、がむしゃらに踊っていた。
退屈な学校より、数少ない友達より、何よりも、最優先はいつだってダンスだったから。
そして、高校三年の夏。
先生が帰国したことを、スクールの他の先生づてに聞いた。
ここにはもう戻らない。
今は東京にいるらしい。
そんな話を聞いて、迷うことなくわたしは高校卒業と同時に上京した。
親は「好きにしなさい」とすんなり了承してくれた。
また先生のダンスを踊れる。
そう思うだけで、身体が喜びで震えた。
少しでも早く成長した自分を見てもらいたくて。
少しでも早く先生に会いたくて。
身一つで上京してきたわたしに驚きながらも、先生は快く迎え入れてくれた。
そして、そんな先生の苗字は、変わっていた。
心臓がドクドク熱くなって。
そして、一気に冷たくなった。
なんだか、うまく笑えなかった。
震えた声で告げた祝福の言葉に、先生は少し困ったように微笑んでくれた。
それからは、先生のもとでレッスンを受ける日々。
レッスン以外の時間は全部バイトで埋めた。
何かに追われてれば、余計なことは考えずに済んだから。
何かに追われてなきゃ、心の穴に呑み込まれそうだったから。
バイトはどれも長続きしなくて、すぐに辞めた。
だから、色んなバイトを経験した。
偶然見つけたクラブ内のバーテンダーのバイト。
それだけは長く続いた。
だって、
そこで君を見つけてしまったから。
初めて、君を見た瞬間。
心臓がドクドク熱くなって。
鼓動のリズムは加速するばかりで。
心がうまく冷えなかった。
ダンス以外に、こんなにも心を揺さぶられたのは、君が初めてだった。
先生以上に、一人の人間に興味を持ったのも、君が初めてだった。
名前だって知らない。
君はわたしのことなんて知らない。
それでも、よかった。
名前も知らない君のことを考えるだけで、胸がいっぱいになって。
そして、自然と笑える気がした。
気が付けば、心に穴なんて。
1mmだって空いてなかった。
遠くから見てただけの君に初めて触れた、あの夜。
「いいよ。もっと触ってよ」
このままでいれたら・・・。
君を抱きしめながら、初めてそんなことを想ったんだ。
8....
「のっち?」
先生に声をかけられ、ここが空港のロビーであることを思い出した。
隣で、キレイな長い脚を組んで座る先生が、ボケーっとしているであろうわたしの顔を怪訝そうに覗きこんでいる。
「時差ボケするには、ちょっと早いんじゃないかな?」
「あ、はい、、すみませんw大丈夫です」
ニッコリ笑う先生の顔に一瞬だけ、彼女の顔が重なって消えた。
そういえば、少し似てるかも。
先生とゆかちゃんって。
いや、だから好きになったわけじゃないけど。
だけど、わたしを振り回せるのは、この二人だけなんだ。
簡単に心に入ってきて、いつの間にかするりといなくなってる。
まるで気まぐれなネコみたいに。
7....
「ねぇ、最高を求めてみたいって思わない?」
「え?」
「向こうでね。お世話になった人に、呼ばれているの」
「え、じゃぁ、また・・・」
「ええ。あと、見込みのあるダンサーも一緒に、って」
「じゃぁ、うちらの中から・・?」
「私は、のっちがいいと思う」
芯の強い人だと思う。
いつだって、自分の信念と欲望だけに忠実に動く人だと、そう思ってた。
その人が、、先生が、、
わたしを選んだ。
認めてくれた?
「あなたならできると思う。・・・ううん、のっちとじゃなきゃ、できないと思うの」
心臓がドクドク熱くなって。
目頭まで熱くなった。
「ねぇ、先生のわがままに付き合ってくれる?」
やっぱり、うまくは笑えなかった。
だけど、わたしは涙でぐしゃぐしゃになったヘタクソな笑顔で大きく頷いたんだ。
6....
ねぇ、ゆかちゃん。
ホントはさ。
一緒にいたかったよ。
いつまでも、変わらない二人でいたかったね。
でも、
時間は流れていくものだから。
いつまでも、立ち止まったままじゃいられないから。
だから、このままじゃダメだって気づいたんだ。
そばにいてあげるだけじゃダメだって気づいたんだ。
そばにいるだけが愛じゃないんだって気づいたんだ。
だからさ、行くね?
走り続けることは、
変わりゆくことは、
生きている証拠だから。
「のっちはさ、辛い恋をするのには慣れてるんだ」
自分でもズルイとは思うよ。
「でも、ゆかちゃんの辛い顔は見たくないから。。」
何も告げずに、いなくなることを許して?
「ごめんね、ゆかちゃん」
ううん。
許さなくてもいいや。
「ごめん・・・・」
でも、絶対。
また出逢うから。
絶対、離さないって誓うから。
わたしが生きる証拠に、ゆかちゃんは不可欠なんだ。
だからさ、のっち、行くよ。
最終更新:2009年10月22日 20:25