そう、言ってしまった時のあの子の一瞬の表情が、私の脳裏に今でも灼き付いて離れない。
あの子が言う存在がそのまま私に当てはまるのなら、それはきっと、私が放った数万度の熱であの子のあの表情を奪ってしまったからなんだろう。
太陽、だなんて。
私はそんな、光るものなんかじゃない。
蛍光灯の人工的な光を見つめながら、一人広い楽屋のソファに深く腰掛けていた。
ホントは番組用のアンケートとかメッセージを考えなきゃとか色々あったんだけど、今は何を考えてもうまい事なんて応えられないと思った。
誰もいない、静かな中で。
…こんな時、どんな歌を唄って紛らわせれば良いんだろう。
それも考えてみたけど、結局は何かを唄おうとして、ただ唇を小さく開いただけで終わった。
「もう、何でそんなに物なくすん?もっと大事にしんさいや」
そう、言った時。
あの子の顔が、一瞬歪んで見えた。
でもすぐにごめん、って。
へへ、って、笑うから。
それからも、物がなくなっていく事が続いていたある日。
「…あ〜ちゃん」
「?…どしたん、ゆかちゃん」
最近、よく散歩に出て行くあの子を追うように楽屋を出ていた彼女が、その日は珍しく私の隣にいた。
ものすごく真剣な顔、で。
彼女は私の前に右手を出してきた。
掌。
その上にあったものは、色んなところに亀裂の入ったシャーペンと、見覚えのある、傷だらけのペンケースだった。
「…どこで?」
何なんこれ、なんて質問は望んでないだろうから、直接そう聞いた。
どこで見つけたの?そう問いかけたら、彼女は静かに長く、息を吐いた。
「ここの、駐車場」
「…ぇ」
…何故?
でもそれは彼女の一言で解決した。
「のっちは、最近よく屋上に行くんよ」
最初は、接着剤だった。
それが今度はシャーペンで、次がペンケースだった。
「…でもね」
次の。
「次の、香水のビン、だけはさ」
…粉々になって。
そこを見てみたけど、あまりにも飛び散って、何を拾って良いのかわからなくなったんよ…。
「…こう、すい…?」
言葉に出した途端、急に心臓の鼓動が早さを増した。
同時にあの時、私の放った言葉にぶつかったあの子の表情が鮮明に浮かび上がった。
その視線の意味には、ずっと前から気付いていた。
それは色んな人達から何度も感じた事のある温度で、でもそこにはあの子の優しい気持ちが混ざっていて。他の誰からも感じたことのない心地良さだった。
私も同じ、だったから。
だから余計に、あの子の隣はすごく心地良くて。
…でも、それ以上を、求めては。
その先を求めてはいけないと思った。
私の中の熱を伝えれば、それはきっと、もっと温度が上がる。
熱は、火になって。
火は、炎になって。
…あの子の言う存在が、そのまま私に当てはまるのなら。
私はいつかきっと、あの子を灼き殺してしまうと、思った。
でも。なら、ねぇ。
どうしたら良かったの?
この気持ちに気付かずにいたら良かったの?
あの言葉をかけなければ良かったの?
最初から見ないフリをしていれば良かったの?
それとも。
この想いに、素直になれば。
…あなたは。
「…のっち」
歌を口ずさめなくて、代わりに出てきたのはあの子の名前。
それはとても震えていて、掠れていて。喉が錆びているような声になった。
太陽、でいるのに。あの子の言う通り太陽でいようとしてるのに、頬にはいくつもの水分が流れていく。
綺麗、じゃないよ。綺麗じゃ。
誰もいない、静かな中で。
私は、顔を覆って錆びた鳴き声で、叫んだ。
END
最終更新:2009年10月22日 20:28