苦手だと言ったこの甘い部屋で、いくら抱き合っても、鼻を掠めては消える匂いと同じくらい、あなたは儚いまま。のっちを呼ぶ声も零しまい、と息をひそめて。抱き締める腕も失しまい、と強く強く願った。
言葉じゃうまく言えないのもわかってるから、ゆかちゃんから発せられる言葉に、確かに愛情があるのもわかってる。わかってる、んだけど、、。皮肉にもそれは、物憂げな夜を運んできた。だけど期待は高まるばかりで、次第にそれは熱を帯びては収まりきれなくて行き場をなくしてしまう。
季節が移り行くみたいに、あまりに自然と、あなたの気持ちが何処か違うところにむいてしまう気がして。いつまでたっても届かない、と嘆きながらも、それでも終わりにできない理由、知ってるくせに、わざと知らないふりをして、あなたは小さく笑った。
「・・・どうやったら、、
ゆかちゃんが、手に入るんだろ、、」
呟いてみた独り言も、相手の耳に入ってしまったなら、意味がない。黒い長い髪がカーテンみたいに顔を隠すから、表情は見えないけど、見られること、も、ない。変な安心感は、ふっ、て特徴的な笑いにかき消された。
季節は当たり前に移り行くけど、どんな時だってのっちには、ゆかちゃんが欠かせないんだ。あぁ、儚い。儚いよ、ゆかちゃん。いなくならないでよ、ゆかちゃん。
「あんた、そんなこと考えよるん?」
うん。考えよる。黒いカーテンがどっから吹いたか、風に流された。なんだよ。ゆかちゃん、やっぱり笑ってる。
「簡単なことじゃん」
簡単なわけ、ないじゃん。じっ、としてないじゃん。移り変わってしまうから、綺麗で儚くて、それが、、ゆかちゃん。じゃん。全部好きなとこだよ、もちろん。だけど、もう気持ちが弾け飛んで消えてしまうのは嫌なんだよ。
「夢中に、させてよ」
黒い長い髪を風になびかせ佇んで、移り変わる日々に身を任せながら、しっかり気持ちを掠め取って。どんな技術よ、それ。一体いくつ身体があれば、もつ?
苦笑いで笑って、長いカーテンを耳にかけたゆかちゃんが、儚いんだ。
『夢中にさせて』なんて。無理だよ。だって、のっちが夢中になりすぎてるもん。そんなのって不確実で、頼みになんか、ならないよ。そんなのって、すっごい、儚いんだ。
Part8.END
最終更新:2009年10月22日 20:50