「あ〜ちゃぁぁぁん!!!」
のっちはあ〜ちゃんに向かっておもいっきり手を、もぎれるんじゃないかってくらい大きくブンブン振る。
「わかった。わかったから、そんな大きな声で呼ばんでよ。恥ずかしいけぇ」
あは、あ〜ちゃんが照れとる。可愛い。ぎゃは。
「ふたりでなに話とったん?」
「そうそう、聞いてよ。あ〜ちゃん。かしゆかが変な事言うんだよ。ぐへっ」
弁慶の泣き所に凄まじい痛みを感じた。
向かいに座ってるかしゆかが犯人だ。こんにゃろ〜、蹴ったな!
のっちが涙目になって彼女を見ると顔に『さっきの事あ〜ちゃんに言ったらどうなるかわかってんの?』って書いてある。ように見えた。
文句を言おうとしたけど、目の前の小悪魔さんが怖くて止めた。
「なになに?ゆかちゃんなに言ったん?」
あ〜ちゃんは興味津々の表情。
「ゆか、な〜んも言っとらんよ。のっちがアホなだけじゃ」
「ヒドっ、本人の前でアホって」
「でものっちって、黙ってれば美人さんなのに、喋るとちょっと残念な感じじゃけぇ」
きゃー、あ〜ちゃんに美人って言われちゃった。嬉しいよ。クソ、録音しとけば良かったぜ。
ん・・・?残念な感じって、、どんな感じよ。
「ほうじゃね〜。のっちって、喋ると大体噛むもんね」
「そ、そんら事ないよー」
「ほら、噛んだ〜」
「ひでー、これってイジメじゃん。イジメ、かっこわるぞ!」
「うっさい。ねぇ、あ〜ちゃん。のっちなんてほっといて行こ♪」
かしゆかがあ〜ちゃんの手を取って、食堂から出て行こうとするから、のっちも追いかける。
「待ってよぉ」
「おいで、のっち」
あー、やっぱあ〜ちゃん優しいな。隣の小悪魔とは大違いだぜ。
「そういや、あ〜ちゃん。長袖で暑くないの?」
「えっ・・・」
あれ?あ〜ちゃんの表情が険しくなっちゃった気がした。のは、気のせい?
「あー、紫外線防止対策ってヤツ?」
「そういう事か〜。あ〜ちゃん、色白いモンね。でも日焼け止め塗ればいいんじゃね?」
「・・・クリームって、ベタベタするし、肌に悪いんよ」
「ほぇ〜、そうなんだ。あ〜ちゃんは何でも知ってるね」
のっちなんて、半袖かタンクトップで、日焼け防止なんてしてないから、小学生みたいに無防備に焼けちゃってるよ。
腕なんてポッキー焼けしちゃってるって。
「のっちもきちんとスキンケアしないと、年取った時大変じゃけぇ」
「うん!!わかった!!」
あ〜ちゃんにだけは注意されても素直に「はい!!」って言っちゃう。
「西脇さん!!」
遠くからあ〜ちゃんを呼ぶ声。
あっ、先生だ。
「ごめん。ふたりで先行っとって。先生に呼ばれたけぇ」
「うん!!わかった!!」
のっちはあ〜ちゃんにヒラヒラと手を振ってお見送り。
「・・・で、あ〜ちゃんのどこが、どうしようもないの?いつもと変わらんし、元気じゃん?」
隣の小悪魔さんに問いかける。
何も言わずにじっとのっちを見つめる小悪魔さん。
えっ?なに?急に?もしかして、のっちに惚れたとか?でへ、モテる女は辛いねw
「・・・なにニヤニヤしてんのよ。きもちわりゅい」
えー、のっちそんなにニヤニヤしてた?
てか、きもちわりゅいって、、、あんた、可愛いじゃねーかw
「まずは相手を知らないとね」
「ん?相手って?」
「あんた今日ひま?」
「今日って、がっこ終わったらバイトじゃん?かしゆかも一緒に入る日でしょ?」
「んもー、その後!!」
「後って、バイト終わるの10時だけど、その後?」
「うん」
「えー。今日は11時から見たいテレビがあるんですけど・・・」
「あんた!!テレビとゆかどっちとんのよ!!」
かしゆかのすんごい剣幕に押されて即答で「ゆかちゃんれす・・・」噛み噛みで返事。
てか、相手って誰?なんの事?
バイト中、かしゆかに訊いてみても教えてくれないしさ〜。
喋ってたらちょっとキモイ店長にのっちだけ注意されるしさ。
店長絶対かしゆかに気があるでしょ。だって、店長かしゆかを呼ぶ時だけ下の名前で呼んでるもんね。
のっちの事はいっつもアウトオブ眼中だもんね。
だからのっちだけがいっつも注意されるんだよ。なんだんだ一体。ぷんぷん。
バイトが終わってかしゆかと一緒にお店を出た。
「さぁ、行くよ!!」
って、だからどこに行くのさって、言う前にかしゆかはスタスタ歩き出した。
のっちは手に持った夏用の薄手のパーカーを羽織ながら、後ろから急いで小走り。
のっちたちは上り電車に乗った。
この時間帯のこの電車は空いていた。
空いていたけど、かしゆかは空いている席に座らないで扉の横の手すりと壁の間に、スポッと体を収めて立った。
「ねぇ、ねぇ〜、どこ行くん?」
「クラブよ」
「倶楽部?」
「ク・ラ・ブ!!」
「なんだ〜クラブに行くなら最初からそう言えばいいじゃん」
「たしか今日あ〜ちゃんの彼氏がDJやる日なんよ・・・」
「えっ・・・あっ!相手って、あ〜ちゃんの彼氏のことなん?」
「そう、だよ」
そうだよって、かしゆか。
なんでそんな困ったような悲しいような、なんとも言えない顔で言うのさ。
なんなん?
あ〜ちゃんがどうしようもない状態の原因って彼氏なの?
「のっちはまだ会ったことないんだよね」
「あ〜ちゃんの彼氏と?うん。ない」
本当は会いたくないよ。
一応のっちのライバルじゃん?のっちが一方的にライバルって思ってるだけだけど。
それに勝敗は完璧に向こうの勝ちだし。
そもそもこっちは勝負の土俵にも上がってない状態だし。
「かしゆかは会ったことあんの?」
「んー、2、3回くらいかな」
「結構付き合って長いんでしょ?」
「んー、たしかそろそろ1年だった気がしたよ」
「1年か・・・」
長いね・・・。春夏秋冬一回りしちゃうのか。一通りのイベント網羅しちゃうのか。
いいな、羨ましいな。
のっちもあ〜ちゃんと色んなイベント一緒に過ごしたいよ。
「あっ、次の駅で降りるから」
「はーい・・・」
あ〜ちゃんの彼氏に完敗なのっちは重い足取りでクラブの敷地を踏んだ。
まるで無実の罪で裁かれる囚人の気持ちだ。って、ほんとは囚人の気持ちなんてわからないけど、のっちが言いたいのはとにかく気持ちがブルーってことよ。
中に入ると騒音、爆音でとにかく耳がやられるほどの大音量。
隣にいるかしゆかの声も耳元で大声で喋らないと聞こえない状態。
かしゆかにパーカーの袖を引っ張られた。
「〜・・・だよ」
「えっ!!なに?聞こえないよ!!」
「あそこにいるのが〜・・・だよ」
「えっ!!なに?」
「あそこにいるのが、あ〜ちゃんの彼氏だよ!!」
さすがに耳元で大声で叫ばれたら、嫌でも聞こえますってかしゆかさん。
かしゆかの指差す方向へ視線を持っていく。
二、三人の女の人の中にひとり金髪の男の人の姿を発見。
あ〜ちゃんの彼氏って金髪だったの?意外だ。もっと短髪で爽やか系だと思ってたから。
しかも奇抜なファッションだこと。ビビットカラー使いすぎだろ。
首にヘッドホンなんてぶら下げてさ。金髪のくせにのっちの真似すんなよ。
でも顔見ると・・・イケメンだな。シュってしてるもん。モテるのがわかるわ。背もでかいし。
てか、なんだあいつ!!
あ〜ちゃんって天使な彼女がいながら、モデル風なお姉さんたちと楽しそうにしゃべってんじゃねーよ!!
「あ〜ちゃんの彼氏見てどう思った?」
「んー、あ〜ちゃんには似合わん!!」
「ふふ」
甘いカクテルを片手に笑うかしゆか。
「なんで笑うんよ。のっち変な事言った?」
「ううん。のっちは絶対そう言うと思ったから」
「だって、あいつとあ〜ちゃんが一緒に並んで歩いてるの想像したら、変なんだもん。不釣合いなんだもん」
「それは、ゆかもそう思うけぇ」
「でしょ!!かしゆかもそう思うでしょ!!」
「のっち、必死すぎw」
「うー、だって〜・・・あ」
ポンポンとかしゆかの肩を叩く人物が現れた。
その人は今の今までのっちたちの会話の材料になってた人だった。
「ゆかちゃんじゃん!!」
「・・・どうも」
かしゆかはあ〜ちゃんの彼氏の名を呼んでペコリと会釈した。
のっちはこの時初めて彼氏の苗字を知った。どうでもいい情報がまたひとつ増えた。
「久しぶりじゃん。どうしたの?綾香も一緒?」
「いえ。今日はあ〜ちゃんとは来てなくて、この子と一緒に来たんです」
「あっ、大本・・・です」
かしゆかに紹介されてのっちは自分の苗字しか言わなかった。これでお相子だ。
「おおもと・・・なにちゃん?」
「えっ、彩乃です」
「俺は・・・」
えー、あんたのフルネームなんて知りたくもないよ。
しかも結構馴れ馴れしくないですか?なんでこんな奴とあ〜ちゃん付き合ってんだろ?
「ゆかちゃんも可愛いけど、彩乃ちゃんも可愛いね」
ニヤニヤしながら言うなよ。てか、いいかげんかしゆかの肩から手をどけろよ。
「まっ、綾香が一番可愛いけどね。類は友を呼ぶって言うからね。じゃ、そろそろ俺行くね。楽しんでって」
ビール片手に金髪ヤローはまた人ごみの中へ消えていった。
「のっち。顔!顔!」
「え?」
「すんごい怖い顔になっとるよ」
「うそぉ!?」
そう言われて思わず両手を頬に当てた。
「なんだぁ〜、あいつ!!」
「ふふ」
「もー、だからなんで笑うんよ!!」
「いやー、のっち見てるとおもしろいなって思って」
「だってあいつ!!ずっとかしゆかの肩触ってたんだよ」
「知っとるよ」
「だって、かしゆかノースリーブじゃん。直で触ってたじゃん」
「知っとるよ」
「なんで触るんよ!!フツー、自分の彼女の親友にベタベタ触るか?」
「そういう人なんよ」
「なんで?かしゆか嫌じゃなかったん?」
「うーん、嬉しくはなかったかな?」
「じゃー、止めて下さいって言えばよかったじゃん」
「そんな事言ったら雰囲気悪くなるじゃろ」
ふふってまた鼻で笑うかしゆか。
なんでそんなに大人な対応が出来るんだ?
すごいな、かしゆか。えらいな、かしゆか。
そういえば、キモ店長にエロイ目で見られても、普通に接してるもんな。
のっちはまだそんな大人の対応出来ないよ。
「あっ!!のっち!のっち!」
またかしゆかの指差す方向へ視線を持っていく。
金髪ヤローがDJブースに入っていった。
どうやら交代の時間みたい。
奴がブースに入った瞬間フロアの雰囲気がガラっと変わった。もちろんいい意味で変わった。
奴が音を出した瞬間フロアにいた人々がノリノリに踊りだした。
すげぇ。
ただ単純にすげぇって思った。
悔しいけどのっち鳥肌立っちゃったよ。
あんな馴れ馴れしいヤローだったのに、こんなの見せ付けられたらそんなのどうでもよくなっちゃうじゃん。
フロアを支配してる奴はまるでここの王子みたいだ。
金髪で背がでかいし、イケメンだし、王子キャラにぴったりじゃん。
のっちはただ傍観してる村人Aじゃん。
「のっち・・・。敵は強敵じゃけぇね」
そうだよ、かしゆか。
奴は王子で、のっちは村人Aだよ。
映画でもゲームでも王子より村人Aが目立って活躍する話なんてないでしょ。
村人Aなんてセリフがないただのエキストラだよ。
ん?てか、敵ってなんだよ?
どういう意味だよ?
最終更新:2009年10月22日 20:56