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大学2年の夏の終わり頃。
あ〜ちゃんは当時付き合っていた男の子と大学の食堂で別れ話を切り出した。

「ごめん」
「ん?なにが?」

「別れてください」
「えっ?な、なんで?」

「・・・別に、好きな人が出来たんよ」
「マジで?嘘だろ・・・」

「ごめんなさい。別れて下さい」
「え、、、急、だよ・・・」

ほんま、急だよね。
ごめんね、タナカくん。
紹介してくれたゆかちゃんにも謝らんと。

「なんで急に別れるだなんて言うんだよ」
「ごめんなさい・・・」
あ〜ちゃんだって別れたくないんよ。
でも別れなくちゃいけなくなったんよ。

「ごめんだけじゃわからないよ。あ〜ちゃん」
「ほんまにごめんなさい」
あ〜ちゃんは謝るしか出来んよ。

「僕ら全然普通だったじゃん。普通にデートしてたじゃん」
「・・・うん。そうじゃね」
それはだって一ヶ月前までは、あ〜ちゃんの人生設計はまだ未定だったからよ。

「僕の事嫌になったの?」
「・・・違う。他に、好きな人が出来たんよ」
嫌な訳ないじゃろ。
タナカくんの事大好きだよ。
だってあ〜ちゃんの理想の男の人だもん。
Vネックとスキニージーンズと黒縁メガネがとってもよく似合って、それでいてすごく優しい人だもん。



「誰?僕の知ってる奴なの?」
「タナカくんの知らない人じゃけぇ・・・」
もうこれ以上詮索せんで。
彼が痺れを切らして、こっちにきちゃうけぇ。

「あ〜ちゃん。僕、納得いかないよ。ちゃんと話合おうよ」
「ごめん。もう、話合ってもどうしようもないんよ」
早く、ここから出ないと。
タナカくんをこれ以上傷つけたくない。

ガタン。
あ〜ちゃんの背後から椅子を引きずる音がした。
ヤバイ、彼の我慢がピークを達してしまった。
「あ・・・」
あ〜ちゃんが止めようとしたけど一歩遅かった。

「キミー。しつこいよ。そんなんだから、綾香に捨てられるんだろww」
彼はあ〜ちゃんたちのテーブルに手を置いて、タナカくんの顔を覗き込みながら嫌味ったらしく喋る。
タナカくんは急に来た男にビックリして、口が開いたまま。

「なーんで、納得いかないんだよ。綾香はこれから俺の物になるの。だからもうキミは用済みなの。捨てられたのw」
もうこれ以上タナカくんを傷つけないでよ。
あ〜ちゃんの目の前にある彼の金髪が勘にさわる。その180はある身長も勘にさわる。
出来る事ならおもいっきりその金髪をグーで殴りたい。
殴って、タナカくんと手を取り合って逃走したい。
でもそんな事は出来ないよ。あ〜ちゃんはそんな事できる身分じゃないけぇ。
あ〜ちゃんにはもう自由がないんよ。

「・・・もう、止めて下さい」
あ〜ちゃんは彼の名前を呼んで、これ以上タナカくんを侮辱するのを止めてほしいとお願いした。
「そう?綾香がそう言うなら止めてあげるよw」
彼はニコってあ〜ちゃんに向かって笑って、やっとテーブルにのっけていた手をどけた。
その憎たらしい笑顔にビンタを食らわしたかった。



彼がどいたから、向かいに座ってるタナカくんの顔が見えるようになった。
タナカくんは、なんとも言えない表情だ。
目が合った。おもいっきり逸らされた。気まずかった。

「で、もういいだろ?ナカタくん?だっけ?」
彼はタナカくんの名前を間違えた。
「・・・タナカです」
タナカくんの声は震えていた。彼の威勢にビビっているのか、怒りで震えているのかはわからなかった。

「んー、どっちでもいいや。タナカでもナカタでもwどうせならメガネくんって呼ぼうか?w」
彼はまたタナカくんを侮辱する。
あ〜ちゃんはムカついたけど、彼の事を怒れなかった。怒れない理由があった。
彼の機嫌を損ねたら大変な事になるから。
あ〜ちゃんは膝の上にある手のひらを、ギュっと握り締め怒りを静めた。

「もういいだろ。別れ話したんだし。こんなトコ出て早く俺んち行こうぜ」
あんた、タナカくんの気持ち、なんも考えてないじゃろ。別れ話って、あ〜ちゃんが一方的に伝えただけじゃろ。
そうしろって指示したの、あんたじゃろ!
『こんなトコ』って、言うな!あ〜ちゃんが通う大学までも侮辱するな!

彼は強引にあ〜ちゃんの手を取って大学を出ようとした。
連れ去られる時タナカくんを見た。
タナカくんは俯いたままだった。
タナカくんとはそれっきりになってしまった。最低最悪の別れ方だ。

それからあ〜ちゃんたちが歩いて行く方向にゆかちゃんが見えた。
「あ〜ちゃん?」
ゆかちゃんは不思議そうにあ〜ちゃんを呼ぶ。
そりゃそうじゃ。
小学校からの幼馴染のゆかちゃんにも彼の事はまだ言えてなかったんだもん。
いきなり、大学の敷地内で金髪の大男と一緒に、手を繋いで歩いてる姿目撃したら驚くよね。
こんな姿ゆかちゃんに見られたくなかったよ。



「ゆかちゃん・・・」
あたしは足を止めた。
斜め上から小さい舌打ちが聞こえたけど、聞こえないフリをした。

「あ〜ちゃん?・・・」
ゆかちゃんはあ〜ちゃんの隣にいる彼とあ〜ちゃんを交互に見て、顔に『?』を出てる。

「ゆかちゃん。彼は〜・・・」
「この子はあ〜ちゃんの幼馴染のゆかちゃん」
あたしは軽く動揺しながら早口でお互いを紹介した。

「どーも。これからよろしくね。ゆかちゃん」
「どうも・・・」
彼はゆかちゃんにタナカくんとの180度違う、めっちゃ優しい対応をした。

「じゃ、これから俺たち急ぐからまた今度ゆっくり会おうね」
彼の引っ張る腕の力が強くなった。

「あ〜ちゃん!!後で電話するけぇ!!」
遠くでゆかちゃんが叫んでる。
あ〜ちゃんは振り返って手を振るのが精一杯。

路肩に止めてあった彼の車に強引に乗せられた。
ピカピカに磨きあがった外車がまた勘にさわった。
車は15分ほどで目的地にたどり着いた。

彼の家に着いたらやる事はひとつ。
あ〜ちゃんはこの日、大好きな人と処女をこの男に奪われた。

ここから逃げ出せるなら逃げ出したいよ。
それが出来るならどんなに楽だろう。
でも、あ〜ちゃんはそんな事出来ないよ。
そんな事したら大好きな家族がバラバラになってしまうから。

これはもう・・・どうしようもない事なんよ。
急に降りかかったこの運命を、あ〜ちゃんは受け止めなきゃいけんのよ。







最終更新:2009年10月22日 21:26