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一ヶ月前。
あ〜ちゃんの将来が一変した。
正確に言うと西脇家の将来が一変した。

事の発端はお父さん。
お父さんは勤め先は誰もが知ってる電気メーカー。
役職も課長?部長?よくわからんけど、長が付く立場みたい。
結構優秀な技術者みたい。あ〜ちゃんそこら辺よくわからんけど。

新築の一軒家を閑静な住宅街に買っちゃうし。
お母さんのガーデニング用に結構広い庭なんか付いちゃってるし。
小さい頃から色んな習い事させてくれたし。
あ〜ちゃんも大学に通わせてもらってるし。
お父さんのお陰でお金持ちって訳じゃないけど、貧乏でもなかった。

それにお父さんは人がいい。
人に何か物事を頼まれると嫌と言えない性格の持ち主。
それが長所でもあり短所でもあった。
あ〜ちゃんもそんなお父さんが大好き。

今回はその人の良さが、裏目に出てしまった。
中学?高校?どっちか忘れたけどその同窓会に出席した時、そんな仲良くなかった人からあるお願いをされて断りきれずに帰ってきてしまったみたい。

そのお願いとは借金の保証人だった。
まさか、あ〜ちゃんもそこまでお父さんが他人のお願いを断れないからって・・・借金の保証人にサインしちゃうとは思ってもみなかった。

案の定、そのそんな仲良くなかった人はドロンと消息不明。
そんな訳だから借金の取り立て屋は、もちろんあ〜ちゃんちに来た。
ドラマや映画でみたような怖いお兄さんたちが入れ違いで毎日のように尋ねてきた。

お父さんは絵に描いたように頭をかかえていた。
怖いお兄さんたちが会社まで乗り込んできたらしい。
大好きなお父さんがすごくよわっちく頼りなく感じてしまった。
それでも嫌いになれない。だって、それでもやっぱりお父さんはあ〜ちゃんのお父さんだから。



さー、困ったぞ。
最終手段は一家心中か?って、かなり切羽詰った状態の中で救いの手を差し伸べてくれた人物が現れた。
その人は、お父さんの会社の社長さんだった。どうやら、社長さんはお父さんがお気に入りらしい。
そういえば、2年位前の社員旅行に家族も一緒に付いて行った時、社長さん家族と会ったのを思い出した。

今思えばその時、彼と初めて会ったんだ。

社長さんはお父さんが被った借金をすぐにチャラにしてくれる事にしてくれた。
すげー、さすが社長さん。やる事がでかすぎるけぇ。

でもチャラにするにはある条件が何点かあった。
ひとつ目は、お父さんのボーナスカット。
ふたつ目は、社長の次男とあ〜ちゃんが結婚すること。
みっつ目以降は・・・う〜ん覚えてないや。

とにかくこれらの条件をのめば、借金を帳消しにしてくれる。
って、おい!!ひとつ目はしょうがないけぇ。ふたつ目は・・・・なんじゃこりゃ!?

あ〜ちゃんはその事をお父さんから聞いて、最初何言ってるんだかわからなかった。
もう完全に頭の中がフリーズ状態。

「・・・どうやら、社長の息子さん・・・次男が、綾香の事をたいそう気にいってるみたいなんだよ」
お父さんが申し訳なさそうにあ〜ちゃんに説明してくれてる。
「気にいってるって・・・一度しか会った事ないじゃろ!?しかも2年前くらいだよね?」
「うん。そうだよね。それでも向こうは強烈に覚えててくれたみたいなんだ」
「うー・・・」
あ〜ちゃんは小さく唸るしかなかった。

目の前に座ってるお父さんはいつの間にか、こんなに小さくなったんだろう。
隣に座ってるお母さんもいつの間にか、こんなにやつれてしまったんだろう。

こんな両親あ〜ちゃんは見たくなかったよ。
いつまでもお父さんには元気で頼れる存在でいてほしかった。
いつまでもお母さんには元気で明るい存在でいてほしかった。



昔みたいなふたりに戻せるのは今のところ、あ〜ちゃんひとりしかいない。
早く、妹と弟も借金取りからの恐怖を取り除いてあげたい。

西脇家を救えるのは、あ〜ちゃんしかいない。
あ〜ちゃんはすぐさま、頭の中で自分の人生と家族の未来を天秤に掛けた。
結果は直ぐ出た。もちろん家族の未来の錘が勝った。

「・・・・わかったけぇ」
「本当か!?綾香!!ありがとう」
そう言って、お父さんとお母さんはあ〜ちゃんの前で惜し気もなくオイオイ泣いた。
あ〜ちゃんも泣きたかったけど、この二人の前ではもう絶対に泣けないと思ったから泣かなかった。泣けなかった。

あ〜ちゃんが返事をしてからが、早かった。すぐに借金の取立ての催促が止んだ。
お父さんと一緒に社長宅へ連れてかれた。あ〜ちゃんを嫁に欲しいといったバカ息子に会った。
金髪で背がでかかった。顔を見ると・・・一般的に言うイケメンだった。シュっとしてるもん。
ぶっちゃけ、2年前に会ってるけど、あ〜ちゃんはまったく記憶になかったから初対面って感じ。

「やっと、会えた〜。やっぱ、可愛いわ」
挨拶なしに、ニヤニヤと馴れ馴れしく話しかえる姿に正直良い印象はなかった。
「やっぱり、この男と結婚なんてありえん!!」って声を大にして言いたかった。でも言えない。
もう後戻りは出来ん。あ〜ちゃんは齢20でとても大きな責任を背負い込んでしまったのです。

まるで蟻地獄にハマった蟻のように、あとはズブズブと堕ちていくだけの人生。
これからカラフルな人生だったはずが、モノクロの人生になってしまった。ガビーン。

幼馴染のゆかちゃんにだけは、やんわりと事の出来事を説明した。
折角、タナカくんを紹介してくれたのに、酷い別れ方になっちゃった事を謝った。
ゆかちゃんはあ〜ちゃんの説明を聞きながら、シクシク泣いた。
あ〜ちゃんが泣けない代わりに、泣いてくれてるみたいだった。
そしてひたすら「ごめんね、あ〜ちゃん。ゆか、気付いてあげれなくて。力になれなくて」って自分を責めていた。
なんで、ゆかちゃんが謝るんよ。
「平気よ。ゆかちゃんは傍にいるだけで、あ〜ちゃんの力になってるんよ」って言いたかったけど、言うとあ〜ちゃんも泣いちゃうから言わなかった。
そのかわり、ギュって抱きしめた。その細い身体が折れてしまいそうなくらいの強さで。

家族の為にも、ゆかちゃんの為にも、あ〜ちゃんはもう人前で泣けなくなっちゃった。







最終更新:2009年10月22日 21:36