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Side K
秋空の下

私が歩くのは初めての町
少なくとも私は初めて

だけど、私の中ではどれも懐かしく感じるものばかり
コンビニがあって、公園があって、ファミレスがあって…

歩みを進める度に、心臓は高鳴る

もうすぐだ…

でも、いったい何がもうすぐなんだろう?

私の向かう目的地は、私も知らない
だって、それは私の目的地じゃないから

私じゃなくて…

角を曲がると見えたアパート
そこで、足が止まる

あ〜、あそこに行くのね?

さっきまであんなに進んでいたのに、今度は動かないみたい

迷ってるの?

行きたいんでしょ?
「行こうよ」

自分の胸に手を当てて呟くと
また歩みを進める



私は、一つの玄関の前に立ち止まる
誰が住んでるんだろう?
家族?

んー…
ま、いいか
とにかく逢いたいんでしょ?

呼び鈴を鳴らす

「はーぃ」

聞こえてきた声に、また心臓が高鳴る
やば…めっちゃ緊張してる

ガチャ…

「どちら様ですか?」
少しだけ開いたドアから覗いた顔をみると、心臓が喜んでる

それで解った
この人のこと、好きだったんだて…

『…のっち』
私の口が小さく呟いて、そこから急に意識が飛んだ



……

意識が戻ったら、ベットの中だった



知らないはずなのに、懐かしい天井
知らないはずなのに、懐かしい部屋
知らないはずなのに、愛しい…彼女

「あ、目、覚めた?」
そっとおでこを撫でる掌、凄く優しい
「ビックリしたよ。いきなり意識失っちゃうんだもん…」

「ごめん、なさい」
自分でもビックリした
嬉しすぎて気を失うなんて、初めてだから

のっち…
きっと、彼女の呼び名
さっきの私の声は聞こえてなかったみたいだね

「えっと、会うの初めて…だよね?」
「はい。私は、初めてです」
そう、私は…
でも、実は夢で会ったことはあった

「あの、名前聞いても良いかな?」
「あ、ごめんなさい。私は有香、樫野有香、です」
「樫野さん…て、心臓悪いの?」
「え?」

「ごめん。寝かせるのにストール外したら、痕…見えちゃって…」
申し訳なさそうに苦笑い
あぁ、ストールで隠してたからな…
寝てる状態から体を起こしてみると、確かに見える痕

胸元から彼女へ視線を移すと
また心臓が喜んでる
今、話すから待って?



掛け布団を足元に畳んで、ベットの端に座り話し出す

「ずっと、入退院、してたんですけど。今は、大丈夫。一年前に適合者が見つかって、移植の手術したから…」
高校を卒業して、19歳になる前の秋
「一年前…?」
彼女が反応する

「ココに来たのは、私の意志じゃないんです」
「え…それって、どういう…」
「この心臓…たぶん、あなたの恋人、だと思います。ずっと、逢いたがってたんです」
「ぃ、いやぁ〜、まさかwそんなこと…」
信じられない…だろうな〜

でも、本当のことなんだよ?
だって、ほら

『のっち…』
声にしただけで、こんなに愛しい

そして、彼女が呼ぶ
「あ〜、ちゃん?」

その呼びかけに
『そうよ?やっと気付いた?』
“あ〜ちゃん”が答える

「あ〜ちゃん…」
目を潤ませるのっちの頭をそっと抱きしめる
「あ〜ちゃんの、音…」

トクン、トクン…

私の中の心地よいリズム

…て、あれ?あ〜ちゃんて女の人?


—つづく—






最終更新:2009年10月22日 22:32