この気持ちはドコへ向かうのだろう。
ビター・ビター(23)
あ〜ちゃんの前から消えるように立ち去ったのっちは当てもなく歩いていた。ココがドコなのかわからない、思考がシャットダウンしたのっちは途方に暮れていた。
空を見上げれば、どんよりした雲に覆われた星たち。その雲は、未来までも覆ってしまっていて何も見えなかった。それ以前に涙の溜まった瞳では歪んだ世界しか見えない。可笑しなくらいに、歪んだ世界。瞬きをすれば、雫が頬を伝い、少しだけ視界がはっきりした。
あ〜ちゃんの言葉を聞いていたら、今生きている世界自体がどうでもよくなった。あ〜ちゃんは、ちゃんと、のっちのことを想っててくれたんだ、そう感じる言葉ばかりが伝えられて。なのにのっちは今かしゆかと付き合っている。これはあ〜ちゃんに対する裏切り行為だ! のっちは自分を呪った。本当は、3人並んで歩くことがいちばんいいのかもしれない、そうすれば誰も傷を負うことはない。ないはずだ。
(…でも、それが無理だから今、こうやって誰かを好きになったんだ、)
悔しくて歩きながら地面を思い切り踏みつけた。砂利と砂利の擦れ合う音が虚しかった。
のっちは、ゆかちゃんの愛を知ってしまった。
それはとてもリセットボタンで消せるような現実ではないことは、のっちは充分に承知していた。それ以上に、のっちはかしゆかを愛して、た。
この気持ちは、どこへ向かうのだろう。
意思とは関係なく、身体というものは自然と普段何気なく行っている行動を覚えているものだ。歩いて歩いて歩いて、辿り着いた場所はのっちが住むマンションだった。ゆっくりとマンションを見上げると、自室には灯りがついていてそれはかしゆかがのっちの帰りを待っている証拠だった。
残酷なことに、のっちはその灯りを確認してほっとした。ちゃんと愛されてるって感じることの出来る、その灯りはとても都合のいい灯りに思える。
「…ただいま。」
明らかに落ち込んだ様子を漂わせる声色に、かしゆかがリビングからひょっこり顔を覗かせた。長い艶やかな髪の毛を揺らして、小走りで玄関で佇んでいるのっちの元へ寄ると、青白くなっていたのっちの頬にそっと右手を添えた。
「どしたん…?」
「……。」
「のっち?」
名前を呼ばれると心から錘が落ちた。
靴を履いたままかしゆかに抱きついてその胸に顔を埋めて泣いた。かしゆかの身体からはお風呂上りだろうか、シャンプーやボディーソープの甘い香りが鼻を擽った。何も言わず、かしゆかはそっとのっちの身体に腕を回す。
「ねえ…ゆかちゃん。」
「ん…?」
「ゆかちゃんが、好きだよ…っ。」
それは一種の確認のような、言葉で。
「ゆかも好き。」
呪文のように唱えれば、呪文を返される。そのやり取りが、のっちをとても安心させていた。愛されていると知れば、ヒトは強くなれるから、愛があってこそ、ヒトは成長出来るから。
かしゆかの愛があれば、のっちは突き進めると思っていた。中途半端な愛より、確実な何かが欲しいと願っていた。
この気持ちはどこに向かうのだろう。
最終更新:2009年10月22日 22:48