【N】
さてと・・・。
かしゆかにあ〜ちゃんの事情を聞いたとはいえ・・・。
正直、何をどうしたらいいかさっぱりわからん。
宝くじでも買ってみる?それともロト6?競馬?競輪?
あとは・・・えーと・・・。
いっその事銀行強盗とかやってみる?・・・ダメダメ、そんな度胸もないし、そもそもそれって犯罪じゃん!!
「うぅぅ〜〜〜ん・・・」
ポンポン。
「ぅわあぁっ」
急に肩を叩かれて思わず素っ頓狂な声が出ちゃった。
「わっ!ビックリした〜w」
のっちの肩を叩いたのはあ〜ちゃん。あー、驚かしちゃってゴメンね。うふ、驚いた顔も可愛い。
「のっち・・・どしたん?」
「な、なにが?」
「なんか、すごく唸ってたけど?お腹でも痛いん?」
「うそ!?マジで?唸ってた?いや、お腹は平気、だよ?」
「ふふ。やっぱのっちって、おもしろいねw」
「そ、そうw」
優しく笑うあ〜ちゃんからは、かしゆかから聞いた悲惨な状況って感じはしないんだよな・・・。
なんつーか、ほんとに幸せそうに見えるんだもんな・・・。
別にかしゆかを疑ってる訳じゃないけど、話がデカすぎて『その話ってホントなの?』って思っちゃうんだよな・・・。
「今日はちゃんと遅刻せんで来たんじゃね。偉い偉い」
「そらー、のっちだってもう大学生だから二日連続遅刻はしないってw」
「嘘言いんさい!先週三日連続で遅刻したじゃろ!!」
そういってあ〜ちゃんは、のっちのほっぺを親指と人さし指を使って、ムニュってつかんだ。
のっちは必然的にピヨピヨのひよこ口になっちゃった。
「ほ、ほうでひたっけ?」
あ〜ちゃんがほっぺをつかんでるから、上手く喋れん。
「あはは。のっち、変な顔〜」
「ひれ〜。あ〜しゃんのへいじゃん・・・」
ほら、やっぱり上手く喋れん。
かわりにあ〜ちゃんはケラケラ笑っとる。ヤベー、やっぱ笑顔のあ〜ちゃんは無敵だな。
ほんとに、あ〜ちゃんは悲惨な状況なの?うーん・・・。
「のっち・・・眉毛がめっちゃ下がっとるけぇ」
「うそ!?」
いつの間にかあ〜ちゃんはのっちのほっぺを放してくれてた。
そのかわり今度は眉間をプニプニと、人さし指で触ってきた。
あ〜ちゃんのスキンシップ・・・正直言って嬉しいっスwもっと、やって。とは、言えないから、心の中で念じてます。
「そういえば、またあ〜ちゃん長袖だね」
のっちはあ〜ちゃんの来ている白いブラウスの袖を何気なく触った。
「えっ・・・あっ、うん」
あ〜ちゃんは急にたどたどしくなって、のっちが触ってた手をパッと払いのけた。
その行為がちょっと・・・・てか、かなりショックだったし、少し気になった。
「・・・もう、早く行こ!」
あ〜ちゃんは、はぐらかす様に明るく耳に髪をかけながら言った。
のっちはその行動を見逃さなかった。ほんとは、見逃したかった。
な、なんと!!あ〜ちゃんの白い首筋に・・・キスマーク!!
ガーーーーン・・・・。
のっちの中の何かが崩れ落ちた。ガラガラガラと。
キスマークを見て思い出すのは・・・。
高二の時の隣の席の直ちゃんだ。
そういえば暑い夏の日だったな。
授業中、直ちゃんとお喋りしてて、彼女の首筋に赤い痣があったのをのっちは見たのさ。
のっちはその頃、またウブでピュアな女子高生だったから、それがキスマークだなんて知らなかったのさ。
だからね、何気なく直ちゃんに訊いたんだよ。
「直ちゃん。首、蚊にさされたん?赤くなってるよ」って。
そしたら、直ちゃんの顔がみるみるうちにトマトみたいに真っ赤になっちゃってさ。
のっちはもちろん、きょとんですよ。
したら、反対の隣の席の西岡さんにノートで頭をパコンって叩かれたんだ。
急に、訳もなく頭叩かれたらいくら温厚なのっちでも「はぁぁ!?」ってなるわけですよ。
「なにすんの!?」って、西岡さんに文句いったんですよ。ちょっと強めに。
西岡さんはのっちの耳をグイって引っ張って「あれはキスマーク。そっとしときな!」って逆に怒られちゃった。
「きすまーく?キスマークって、、、てことは・・・」
さすがのウブでピュアな女子高生ののっちもそこまで教えてくれたら、察しはつきますって。
直ちゃんはたしか隣のクラスの宮川くんと付き合ってるんだっけ・・・。
うわー・・・・。て、ことは昨日・・・直ちゃんと宮川くんは・・・。
今度はのっちがトマトみたいに真っ赤かになった。
ショック・・・すげー、ショック。なんか、直ちゃんに裏切られた気分だ。うわー、うわー、うわー。
なんでのっち、こんなすごい衝撃を受けてるんだ?あー、やばい・・・哀しくなってきた。泣けてきた。
あぁ・・・そうか。
のっち、直ちゃんの事好きだったんだ。だから、こんなにも哀しいんだ。
なんだそれ?直ちゃんのキスマークを見て、彼女の事を好きだったって気付いたのか!?
のっちの青春時代は、初めて好きになった人は女の子で、好きだと気付いたら失恋してたってマヌケなオチでした。
これって・・・高校の時とまるっきり一緒のパターンじゃん!!
なんだよ!!またかよ!!神様意地悪してるっしょ!!空からのっち見てニヤニヤ楽しんでるんでしょ?
高校の記憶が鮮明と甦ってきて、急に哀しくなって思わず、あ〜ちゃんから逃げたしちゃった。
後ろからあ〜ちゃんがのっちを呼んでるけど、振り向かず走った。
「コレ〜!なんであ〜ちゃんから逃げたん?」
のっちが食堂のテーブルで突っ伏して戦意喪失してる所に、かしゆかが声を掛けてきてくれた。
「のっちは今HPゼロになってしまったので、戦闘不能になってしまいました。レイズをかけてください」
「はぁ!?なに?エイチピーゼロ?レイズ?なにそれ?この、ゲームオタクが!!しゃんとしなさいよ!!」
っんだよ、かしゆか。もっと優しくしてよ。のっちが弱ってる時くらい、優しくしたってバチは当たらないっしょ。
「うぅぅぅ・・・」
あぁぁ、、、マジで泣きそうだよ。のっちは基本人前で泣かない子なのに〜。
「なにがあったの?話してよ・・・のっち」
かしゆかは、隣に座ってテーブルに乗ってるのっちの頭をヨシヨシと撫でてくれた。
「・・・あ〜ちゃん、、、キスマークつけとった」
「それ、見たから逃げたん?」
「・・・はい」
すいません。こんなヘタレで。
「そっか・・・やっぱりね」
「・・・はい。はい?」
ん?やっぱりって、かしゆかもあ〜ちゃんのキスマーク見たの?
「辛かった、ね」
「・・・はい。それはそれは辛かったれす」
めっちゃ優しい接し方をしてきたかしゆか。
いっつも思うけど、かしゆかってアメとムチの使い方が上手すぎるんだよ!のっちそれでいっつも絆されちゃうんだ。
「ねぇ、ゆかちゃん・・・」
「ん?」
「のっちはこんなんでホントに、あ〜ちゃんの事助けてあげれるんかな?」
のっちはやっとこさ、頭をテーブルから上げてちゃんと座った。
「んー、わからん」
「えー!?」
ちょっと、そこはウソでも『大丈夫!!のっちはやれば出来る子じゃけぇ!!』とか、励ましてよ。
バカ!!かしゆかのドS。
「わからんけど、とりあえず今は、あ〜ちゃんの誤解を解く事から始めんと、ね?」
「ごかい?」
「うん。のっちが何も言わず逃げたから、あ〜ちゃんすんごく不安がってたよ?のっちに何かしちゃったんじゃないかって」
「あっ!そっか!!ヤバイ!!ど、どうしよ・・・。なんて言えばいいかな?」
「『あ〜ちゃんがキスマークなんて付けてくるからだ!!』って言えばw?」
くっそー!明らかにこの人はのっちがオロオロするのを見て楽しんでる。
そんな事言えるかってんだ!!この小悪魔が!!
「そんな事言えないでしょ!!真面目に考えてよ!!ゆかちゃん!!」
「てか、のっちに『ゆかちゃん』って言われると、むずがゆいw」
「えー!?そこ、今関係なくない?てか、むずがゆいってなんだよ。コラ!」
「きゃはは」
「もういいよ。自分で考える!!かしゆかにはもう頼まん」
「えー、のっち、一人でやれるの〜?」
「ふん!のっちはやれば出来る子じゃけぇ。一人で出来るもん!」
「知っとるよ・・・」
またあの困ったような悲しいような、なんとも言えない顔になっちゃったかしゆか。
ヤバイよ、のっちその顔されると弱いんだよな・・・。また絆されちゃうじゃん。
「うちらがいる時だけでも、あ〜ちゃんには不安な想いはさせないであげて」
「・・・う、ん」
「のっちが、あ〜ちゃんの不安を取り除いてあげて。安心させてあげて」
「・・・うん」
かしゆかは、本当にあ〜ちゃんの事大切なんだね。かしゆかの想いヒシヒシと伝わってきたよ。
よし!とにかく今はあ〜ちゃんの不安を消してあげる事だね。てか、原因作ったのは自分なんですけどね。トホホ。
講義を終えたあ〜ちゃんを待ち伏せして、のっちは適当な理由を付けて逃げ去った事を謝った。
そしたら、あ〜ちゃんはまたニコって笑ってくれた。のっちはあ〜ちゃんのその笑顔だけで幸せになれる。
ピリリリリリ〜。
無機質な機械音が鳴り響いた。
着メロでも着うたでもなく初期設定の着信音だった。
「ごめん。あ〜ちゃんのだ。ちょっと出ていい?」
「うん。いいよ」
あ〜ちゃんはのっちから少し離れて電話に出る。
あ〜ちゃんの携帯はピンクでキラキラして可愛かった。その可愛い携帯に初期設定の着信音は似合わなかった。
誰と何を話してるのはわからないけど、あ〜ちゃんの表情が見る見ると曇っていくのはわかった。
あ〜ちゃんにそんな表情をさせるのは、きっと相手は金髪王子だ。てか、そいつしかいない!!
くっそーー!!キラキラのあ〜ちゃんの笑顔を消しやがって!!
やっぱり・・・かしゆかの教えてくれた話はホントだったんだ。
あ〜ちゃん、待っててよ。
のっちがあ〜ちゃんの不安を全部取り除いてあげるからね!!
【A】
のっちが逃げた。
突然、あ〜ちゃんの前から逃げた。それはそれは華麗に逃げた。
「のっち!?」
あ〜ちゃんは叫んだけど、のっちは振り向きもせずに走り去った。
意味がわからなすぎる。なぜ?
もしかして、さっきのっちの手を振り払ったから?
のっちの事傷つけちゃったかな?傷つけちゃったよね?
どうしよう・・・。謝らなきゃ・・・。
困ってると「おはよう」って、あ〜ちゃんの背中をポンと叩いてきたのはかしゆかだった。
「あ・・・ゆかちゃん。おはよう・・・」
「どしたん?あ〜ちゃん、なんか顔色悪いよ?」
「のっちが逃げた・・・」
「はいぃ?」
「あ〜ちゃん、きっとのっちの事傷つけてしまったんよ・・・。どうしよう、ゆかちゃん」
「ま、待って。全然話が見えてこないよ。最初から順に話して」
ゆかちゃんに言われた通りに、あ〜ちゃんはさっきの出来事を擬音交じりで説明した。
「・・・あ〜ちゃん。とりあえずトイレ行こうか?」
ゆかちゃんはあ〜ちゃんを見て、何かに気付いたようにそう言った。
トイレ?別に今行かなくてもいいんだけどなって思いながら、ゆかちゃんと一緒に行った。
「あ〜ちゃん。ファンデーション貸して?」
「ん?ええけど。ゆかちゃん自分の忘れたん?」
あ〜ちゃんがそう言ったら、ゆかちゃんは少しだけ笑って自分の首筋を指で指した。
「首?」
それでもあ〜ちゃんはよくわからなくて、洗面台の大きな鏡を覗き込んだ。
「あっ!!!」って、思わず大きな声が出てしまった。
鏡を見なくても自分の顔が赤くなっていくのがわかる。
恥ずかしい。なんで朝、起きた時に気付かなかったんだろ。最低だ。
ほんと、最低だ。昨日の彼との行為を思い出してしまった。思い出したくもないのに。忘れたいのに。
彼が忘れさせないために、わざと付けたに違いない。最悪だ。
ヤバイ、泣きそう。あ〜ちゃん、ここで泣いちゃダメ!!ゆかちゃんの前では泣かないって決めたじゃろ!!
「貸して。ゆかがやってあげるけぇ」
ゆかちゃんは、あ〜ちゃんのファンデーションを手に取り、キスマークを隠してくれた。
「あでぃがとう」
泣く事を我慢してるから、自分でも声が震えてるのがわかった。
「ん。ええよ」
ゆかちゃんは顔を上げずに、あ〜ちゃんの首筋から最悪なマークを丁寧に消してくれてる。
「のっちって、何考えてるんだか、たまにわからん時ない?」
「えっ?」
急にのっちの話題を振ってきたゆかちゃん。
そういえば、さっきまで隣にいたと思ったら、次の瞬間には全然違う所にいるって事はあったけど・・・。
「だから、平気じゃと思う」
「え?」
「あ〜ちゃん、さっきのっちが何も言わず走って逃げたって言ったじゃろ?」
「うん」
「きっとそれはのっちの気まぐれだよ。あ〜ちゃんが気にすることないよ。大丈夫!」
「ほんまに?」
「うん!!」
よかった。ゆかちゃんに大丈夫って言われると、心底ホッとする。
ゆかちゃんって、のっちの事何でもお見通しなんだね。
それは、ちょっと寂しいというか、あ〜ちゃんはなんだか複雑な気持ちになる。
講義が終わって教室を出たら、廊下でのっちが申し訳なさそうに立っていた。
ものすごい勢いで謝られた。ペコペコ何度も頭を下げて、眉毛も下げて、謝ってくれた。
「のっち、もういいよ。大丈夫だよ」
「うへ〜。あ〜ちゃん、ほんとゴメンね。もう二度と走ってどっかにいかないから」
素直に謝るのっちが子犬みたいで可愛いなって、ほのぼのした気分だったのに、彼からの電話がそれをぶち壊した。
『学校何時に終わんの?』
「今日は、、、夕方に、なっちゃいます」
『んじゃ、外で車止めてまってから、終わったら電話しろよ』
「・・・はい」
昨日もしたのに・・・。もう、嫌だな。苦痛でしかないよ。
あぁ、向こうにいる何も知らないのっちが心配そうにこっちを見てるよ。
悟られないように、いつもの元気で明るいあ〜ちゃんを演じなきゃ。
みんなに心配かけないように上手く演じなきゃ。
でもね・・・正直、元気で明るいあ〜ちゃんを演じるの疲れちゃったんだ。
あ〜ちゃんは本当は泣き虫で弱いダメダメ人間なのに。本当は人前でビービー泣いちゃう子なのに。
少しでいいんだけどな。
どこかに素の自分でいられる場所はないのかな?
最終更新:2009年10月22日 22:54