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2メートル先を軽い足取りで歩いていたあ〜ちゃんが、くるりとワンピースの裾を躍らせて振り返った。
「のっちなんだって?」
「今どこに居るの、だって。桜並木をあ〜ちゃんと歩いてるよって言ったら仲間はずれだー、って騒いでたよ」
のっちとの電話のやりとりをそのまま伝えると、あ〜ちゃんは面白そうに、そして嬉しそうに笑った。
「だって今日はかしゆかと二人きりでデートだもんね」
「ね」
あ〜ちゃんは自然にゆかの手を取った。それと同時に吹いた一陣の風が、二人の長い髪を空に舞わせた。
乱れる髪を押さえ顔をあげると、どこまでも続く桜の木の枝が二人の髪と一緒に揺れていた。
風は冷たく、空は高い。
あ〜ちゃんはゆかの世界だ。あ〜ちゃんの手の届く、声の聞こえる範囲がゆかの目一杯の世界。
彼女が手をのばして笑いかけると、ゆかはなんにでもなれそうな気になる。
ゆかには、そのうちまた訪れる春に歓喜して咲き乱れる桜だって、もう見えるんだよ。


「i love you」


手をつないだまま、二人で歩を進める。
あ〜ちゃんは口を休めることなく次から次へといろんな話題を持ち出してきて、ゆかを笑わせてくれる。
ゆかはそれに、笑いながら頷くだけでいい。
彼女の歩幅に合わせ、時には忙しく、時には緩やかに、折角つながれた手がなにかの拍子で外れてしまわないように。
いつから手をつなぐタイミングをはかるようになっただろう。そしてつながれた時には、いつ外れてしまうのか気にするようになっただろう。
ゆかは自分の、たったひとつの大切な想いにこうして振りまわされ続ける。
取り繕う術と理論武装をして、自分の本心と、あ〜ちゃんとの距離からだんだん遠ざかって行くのを確かに感じてる。
伝えたい気持ちはひとつだけなのに、ばかみたいに遠ざかっていくんだ。
「ねえ、あ〜ちゃん」
そして今もそれを呑み込む。
「春が来るとこの川辺は、桜がめいっぱい咲き乱れるんだ」
ちょっと気取りすぎたかな、そう思ったけどあ〜ちゃんは、あー!なんて大きな声を出した。
かしゆか、わかっとるねえ、と楽しそうに笑う。わかってるね、なんて当然だよ。
それにくらべてあ〜ちゃんは、いっつもなーんにもわかっとらんね。

あ〜ちゃんは大好きなあの歌を口ずさむ。
急にあがったテンションと早まる歩調に、つながれていた手も、離れた。
涙をこらえるのに慣れたことにうんざりしながら、この寒い季節には似合わない温かな声をただ聴いていた。
それは来年の春、またここに来て同じ歌を口ずさむ目の前の人を想像させるのに容易くて、ゆかは結局笑ってしまう。


何度も呑み込んだ言葉が、今更のどにつっかかる。
これから何度歌うかわからない、そのありふれた言葉は。





end





最終更新:2009年10月22日 23:35