【A】
「はぁ・・・」
二日連続はさすがにダルいわ。あぁ、また新しい痕残っちゃったし。イテテ。
6時か・・・今から仕度すれば学校間に合うかな。その前に一度家に帰ってキレイにしてかなきゃ。
あ〜ちゃんは、モソモソとベッドから抜け出す。
そのベッドには彼が幸せそうに寝ている。彼は寝ている時だけはまともだ。
脱ぎ捨てられた下着と服を着直す。
手櫛で髪を梳かす。簡単に化粧を直す。
玄関の扉を開けると、ムワっと熱気が入ってきた。
曇ってるくせにジメっとしてて、一番嫌な気候。
9月に入ってもまだ暑い。セミも朝からミーミーうるさい。あ〜ちゃんは朝からダルい。
電車に乗るのは億劫だから、贅沢にタクシーに乗って帰った。
タクシー代は彼からもらった。
彼はかなり甘やかされて育ったらしく、親の金を湯水の様に使いまくってる。
機嫌のいい時はあ〜ちゃんにタクシー代やら食事代やら、福沢諭吉さんを何人もくれる。
昨日は機嫌のいい日だったみたいで、あ〜ちゃんは諭吉さんを3人ほど貰った。
その諭吉さんでタクシーに乗った。
タクシーの運転手さんは、あ〜ちゃんをミラー越しに見てニヤニヤしている。
ふん。どうせ『こいつ、朝帰りだろ〜』って思ってるんでしょ。はいはい、その通りですよーだ。
あー、ムカつく。クーラーが弱くて、車内が全然涼しくないものムカつく。
彼に会った後の朝は必ず無性にムカつくの。
早く、お風呂入ってスッキリしたいよ。
早く、ゆかちゃんとのっちに会いたいよ。
【N】
『今日の降水確率は80%です。傘を持って出かけましょう』
TVをつけたら、すんげー可愛いお天気お姉さんがそう教えてくれた。
この時間にTVなんて滅多に見ないから、こんな可愛い人が天気予報してるなんて知らなかった。
今度からチェックしなきゃ。うへへ。
今日ののっちは珍しく早起き。実は暑すぎて起きちゃっただけだけどね。
それに、昨日の電話の後のあ〜ちゃんも気になって、そんなに寝れなかったんだよね。
好きな人を思って眠れなくなるって、恋する乙女って感じでしょ?でへへ。
「傘か・・・。うちにねーよw」
たしかこの前、バイト先に置きっぱなしにしちゃったんだよな。
まー、降ったらコンビニでビニ傘買えばいっか。あはは。
さてと、早く学校行ってかしゆかと『あ〜ちゃん救出大作戦会議』でもやるか。
のっちは今日のどんよりした天気とは真逆のルンルン気分で学校に向かった。
学校に着いたけど、かしゆかの姿が見えない。
とりあえずどこにいるかメールで訊いてみよう。
カチカチと、決して早いとは言えない速度で打って送信。
ピロピロリン♪
まぬけな着信音。かしゆか返信早っ。
『いい加減覚えてよ。ゆか水曜は学校ないよ。』
あっそっか。今日は、水曜日だっけ。
いっつも忘れちゃうんだよな。そんでメールしてこうやって怒られちゃうんだよね。
あーあ、かしゆかいないのか〜。つまんないの。
作戦会議出来ないじゃないか。あ〜ちゃんの事どうすんだよ、まったく。
「なにぶつぶつ独り言言っとるん?」
「えっ?あっ!あ〜ちゃん!!」
気付いたら隣にあ〜ちゃんがいた。あら、無意識に独り言言ってたんだ。恥ずかし。
「おはよう」
のっちの天使は今日もとびっきりの笑顔で、朝の挨拶をしてくれる。
「おはよう」
のっちも負けじと爽やかな笑顔で答える。
「今日は嫌な天気じゃねー。ちゃんと傘持ってきた?」
「ううん。持ってきてない」
「なんでー?天気予報見なかったん?」
「みたよ」
「雨降るって言っとったじゃろ?」
「うん♪」
「じゃあ、なんで持ってこんの?」
「うちに傘ないんだよね・・・。だから雨降ったら一緒に入れて?」
「はぁ・・・のっちは手のかかる子じゃ」
「えへへ」
うん。良かった。いつものあ〜ちゃんだ。
昨日の電話は大丈夫だったみたい。
学校が終わる頃、天気予報通りに雨が降った。
のっちはあ〜ちゃんと一緒に帰る為、あ〜ちゃんの講義が終わるまで食堂で時間つぶし。
しかしよく降るな〜。ザーザー降りじゃん。これ傘なかったらズブ濡れだわ。
ピロピロリン♪
ボケーっとしてたら、またまぬけな着信音。かしゆかからのメールだ。
『やっほー。あ〜ちゃんの様子はどう?てか、雨だね(笑)』
なんで雨の後に(笑)を付けたんだ?外にいるこっちは、全然おもしろくないぞw
『あ〜ちゃんはいつも通りだよ。これから相合傘して帰るんだ(ハート)』
ピロピロリン♪相変わらず返信早っ。
『ふーん』
えー!?それだけ?なんだよ、かしゆか、反応悪っ。
「のっち、ごめんね。お待たせ」
講義を終えたあ〜ちゃんがやってきた。
「ううん。大丈夫だよ」
「じゃ、帰ろうか」
「うん」
のっちが傘を持ってあげた。
あ〜ちゃんが極力濡れないように、あ〜ちゃん側に傘がいくようにさした。
そうやってさしても、結局二人ともズブ濡れ。傘の恩恵はあまりなかった。
傘さしてるのにズブ濡れになるって、どんだけ降ってるんだよ!
学校からはあ〜ちゃんちよりのっちのアパートの方が近いから、雨が収まるまであ〜ちゃんを雨宿りさせてることになった。
「待ってね。今タオル持ってくるから」
のっちは散かった部屋を軽快に歩いてタオルが入ってるタンスへ向かう。
あ〜ちゃんは玄関でズブ濡れでタオルを待ってる。なんだか捨てられた子猫みたいだ。
てか、濡れてるあ〜ちゃんは妙に色っぽい。はっ!!ヤバイヤバイ、エロい発想はダメダメ。
「てか、洋服ビチョ濡れだね。着替え貸すからそれ着なよ」
「うん」
そう言ってあ〜ちゃんは着ていた長袖のブラウスを脱いだ。ブラウスは絞ったら水が出てくるじゃね?ってくらいビチョビチョ。
【A】
雨のせいで全身ビショビショ。
雨のおかげでのっちのアパートに初めて来た。散かってた。
のっちにタオルを渡されて身体を拭いたけど、それだけじゃ足りなかったから着替えを出してくれた。
あ〜ちゃんは雨のせいで濡れて肌にべたつくブラウスを脱いだ。
あっ!!
脱いだ後に気付いても遅かった。
のっちはブラウスに隠れていたあ〜ちゃんの腕を見てる。
ヤバイと思って咄嗟に反対側の手で隠す。
「どう、したの?その痣・・・」
のっちが質問してるよ。どうする、あ〜ちゃん。なんて答える?
「ちょっと、コケたんよ。そんときに出来たアザじゃけぇ」
うーん、こんな答えでのっちは納得する?
【N】
嘘だ。
どう転んだら、そんな所に痣が出来るのさ。その痣ちょっとやそっとじゃ付かない酷い痕だよ。
あいつでしょ。それ付けたのあいつなんでしょ?
なんで、あ〜ちゃんにそんなの付けるんだよ。意味変わらんよ。
なんで、あ〜ちゃんに嘘付かせるんだよ。あ〜ちゃん、なんであいつの事庇うんだよ。
のっちは人に暴力なんて絶対に振るわないよ。
ましてや好きな人に暴力なんて絶対に振るわないよ。
暴力で支配する奴なんて最低じゃん。
好きな人を殴る奴なんて最低じゃん。
あ〜ちゃん、我慢しないでよ。
辛いなら辛いって言えばいいじゃん。
のっちが助けてあげるから・・・。
て言っても、まだのっちにはその助けられる力がないよ・・・。
ごめんね、ごめんね・・・あ〜ちゃん。
【A】
「ごめんね」
って、のっちがハノ字眉になって謝った。
なんで、のっちが謝るん?
謝るんは、嘘付いたあ〜ちゃんの方でしょ?
なんで、謝るん?
もしかして、彼の事知ってるん?ゆかちゃんから訊いたん?
「・・・知ってるん?」
あ〜ちゃんはのっちの目は見れずに訊いた。
のっちは微かに顎を引いた。
そっか、知っちゃったか・・・。
昨日、キスマーク付けてたしね。のっち、あ〜ちゃんの事幻滅したでしょ?
好きでもない人とヤッちゃう尻軽女って思ったでしょ。
「・・・もう、帰るね。タオルありがとう」
のっちに湿ったタオルを付き返す。
突き出した手を掴まれて、抱き寄せられた。
その拍子に土足で部屋に上がっちゃった。
のっちの腕の中は柔らかかった。
人ってこんなに柔らかいんだ。
あ〜ちゃん、こんなに優しく抱きしめられた事なかった。
なんでのっちが抱きしめてくれてるのかは、わからなかった。あぁ、きっと同情心?
「のっち・・・濡れちゃうよ?」
「・・・いい」
今までに聞いた事のない低い声でのっちは答えた。
耳元で囁かれたから、ちょっとドキっとした。
「ごめんね」
また謝られた。
「なんで、のっちが謝るん?」
「何も出来ない自分が恥ずかしいから」
「・・・そんな事ないけぇ」
あ〜ちゃんはのっちの形のいい頭をヨシヨシしてあげた。
のっちの言葉に泣きそうになった。
あ〜ちゃんの弱りきった心に沁みた。
のっちの腕の中はあ〜ちゃんの弱りきった身体を癒してくれてるみたい。
すごく心地いいから今はこのまま、流れに身を任そう。
このまま、世界が終わったらいいのに。
最終更新:2009年10月22日 23:40