【K】
『どどど、どうしよう』
電話越しにいつも以上に噛み噛みののっちの声。
『なにがー?』
『ほほほっっっっんと、どうしよう』
おもしろいくらい噛みすぎじゃろ。
『だから、何がどうしたんよ?』
『とりあえず電話で上手く話せないから、かしゆか今からうちに来て』
はぁ?自分から掛けといて、なんでゆかが出向かなきゃならないんよ。
『やだ。この雨の中外出たくない。のっちが来んさいよ』
『のっちも濡れるの嫌だよ』
ゆかだって嫌に決まってるよ。
『じゃあ、電話でいいじゃん』
『だから電話じゃ話せないんだよ!!』
なに?逆ギレ?のっちのくせに?
ちょっとムカついたから少しキツめに言ってやった。
『だからのっちが来ればいいでしょ!!』
『うー・・・わかったよ。そっち行くから待ってて』
のっちはゆかの言い方にすんなり負けた。
まったく、なんなん?
まー、のっちが動揺している原因はきっとあ〜ちゃんだろうけど。
そう言えば、今日一緒に帰るってメールで言ってたな。
なんかあったんじゃろか?
なんかあったから、こうやってゆかに電話してきたんだろうけど。
それから20分くらい経って、雨に湿ったのっちがうちにやってきた。
「はいどうぞ」
「ありがと」
ゆかはのっちにタオルと温かい紅茶を差し出した。
「で・・・あ〜ちゃんと、なんかあったん?」
ゆかは早くのっちが動揺してる訳を知りたかったから、さっさと本題に切り出した。
「あ〜ちゃんが暑いのに長袖着てる理由がわかった」
「そう・・・」
「あ〜ちゃん、あの金髪ヤローに傷つけられてる」
「あ〜ちゃんが自分でそう言ったん?」
「ううん。言ってない。転んだって言ってたけど、転んで出来る痣じゃないよ。あれは・・・」
実はゆかも、もしかしたらそうじゃないかと思ってたんよ。
やっぱりだったか・・・。
「でさ、のっちね、そのあ〜ちゃんの痣見て、なんかカーってきちゃって・・・」
怒りに満ちてたのっちの表情が見る見る、赤くなってきた。
「気付いたら・・・あ〜ちゃんの事ギュってしてた」
そう言い切ったのっちはものすごく真っ赤な顔で照れてる。
「ギュって・・・抱きしめたって事?」
のっちはゆかの言葉に首を縦にコクコク振る。
「で、ヤったん?」
「えっ?ヤッたって?何を?」
「 」
ゆかは声を出さず口パクでそれを伝える。
「バッ、バカ!!かしゆか何言ってんの!?そんなんしてないよ」
のっち慌てすぎ。そんなに慌てると紅茶溢すよ。ほら、溢した。そんで慌てすぎて、逆に怪しいぞ。
【N】
「のっちって意外と行動力あるんじゃね」
そう言うかしゆかは、笑ってるような悲しんでるような複雑な顔をしていた。
ほんと、自分でもビックリですよ。
マジで気付いたらあ〜ちゃんが、自分の腕の中にスッポリ入っているんですもの。
しまいには励まさなきゃいけないのはこっちなのに、逆にあ〜ちゃんに気を使わせちゃったし。
頭撫でられちゃったりしちゃったし?ほんと、悲しいくらいヘタレで困っちゃうよ。たはは。
ヤベっ。思い出したら顔から火が出そうなくらい恥ずかしい。
明日、どの面下げてあ〜ちゃんと会えばいいのさ。
だからなんで、かしゆかそんな切ない顔してんのさ。
『のっち!よくやった。偉い!』って褒めてくれたっていいじゃんよ。
【A】
のっちの腕から解かれると、変に照れくさくなってあ〜ちゃんはさっさと出て行ってしまった。
折角のっちが着替えのTシャツ出してくれたのにごめんね。
外はまだ雨が降ってたけど、あれ以上あそこにいたら、のっちに絆されそうになっちゃうと思ったから。
あ〜ちゃんは濡れながら考える。
ゆかちゃんはなぜのっちにあ〜ちゃんの事を話したのか?
別に口止めはしなかったけど、そんな他人にベラベラ話す内容じゃないのに。
のっちに彼の事訊かれたんかな?
のっちはなんでさっき「何も出来ない自分が恥ずかしいから」って言ったのか?
のっちはゆかちゃんにどんな風に話を聞いたんだろう。
のっちにはまったく関係のない事なのに、どうして自分を責めていたんだろう。
「ハックション!!」
家の前まで来たらくしゃみが出た。
風邪引く前にお風呂に入って身体を温めよう。
湯船に浸かったら、急に睡魔が襲ってきた。
ちょっと早いけどもう寝ようかなって思った23時。
携帯電話が鳴った。
着信はゆかちゃんだ。
『もしもし。ゆかちゃん?』
『あっ!あ〜ちゃん』
『どしたん?』
『ごめんね。あっ、もしかしてもう寝てたん?』
『ううん。まだ起きとったよ』
『そっか、よかった。あのさ・・・』
『うん?』
『これからあ〜ちゃんち行っていい?』
『これから!?もう11時だよ?』
『てか、実はもう家の前までいるんよね・・・』
あ〜ちゃんは二階にある自分の部屋の窓から外を覗く。
そこには携帯を耳に当てたゆかちゃんの姿がたしかにあった。
あ〜ちゃんはゆかちゃんを家に上げた。
ゆかちゃんは家族の皆を起さないように、静かにあ〜ちゃんの部屋へと向かった。
「ごめんね。急に押しかけちゃって。家族の人も迷惑だよね・・・」
「ううん。皆が寝るの早いだけじゃけぇ。ゆかちゃんはいつでもウエルカムよ」
ゆかちゃんは「ありがと」ってばつが悪そうに笑った。
そして「ごめんね」って言った。
あ〜ちゃん今日はなぜか知らないけど、謝られてばっかだ。
【K】
電話じゃなくて、あ〜ちゃんに直接伝えたかった。
「ごめんね」って。
「なにが?」って、あたりまえのように訊いてくるあ〜ちゃん。
「のっちに・・・勝手にあ〜ちゃんの事情話したこと」
「あー・・・そのことね。別に、いいよ。隠してる訳じゃないけぇ・・・」って、あ〜ちゃん言う。
けど、顔には「なんで喋ったの?」って書いてあるよ。
10年一緒にいるゆかはそれくらいの事はわかってるつもりだよ。
「のっちなら、なんとかしてくれると思ったから、喋ったんよ」
「なんとかって・・・なんよ?」
「ゆかに話づらい事があっても、のっちになら言えるって事もあるじゃろ?そういう事じゃけぇ」
「ゆかちゃんに話しづらい事なんてないよ・・・」
あーあ、ゆかダメだな・・・。あ〜ちゃんの事困らせちゃったよ。
ほら、今度は顔に困ってますって書いてある。
「ゆかちゃん・・・余計なお節介じゃ・・・」
あ〜ちゃんの目に涙が溜まっていく。
「あ〜ちゃんは、これ以上ゆかちゃんに迷惑かけたくなかったのに、今度はのっちまで迷惑かかっちゃうけぇ・・・」
「そんな事言わんでよ。うちら親友じゃろ?ピンチの時には助け合うもんじゃろ」
今度はゆかの目に涙が溜まっていく。
「じゃあ・・・この件はもうほっといて・・・」
あ〜ちゃんは涙を溜めた目でゆかを刺す様に見つめる。
「ほっとけないよ!」
ゆかも負けじとあ〜ちゃんを捉える。
「もう、どうしようもない事なんじゃけぇ。うちらがどうこう出来る次元じゃないんよ。わかって、ゆかちゃん・・・」
そう言ってあ〜ちゃんは天使のような笑顔でゆかをなだめた。
いつの間にか、あ〜ちゃんの目からは涙がなくなっていた。
代わりに、ゆかが泣いた。あ〜ちゃんの分まで泣いた。
泣いたら疲れて眠ってしまった。
携帯の待ち受けをみると夜中の1時。
ゆかが起きたのを気付いて、あ〜ちゃんは「電車ないから泊まってきんさい」って言ってくれた。
あ〜ちゃんのベッドで二人で寝る。
二人で同じベッドで寝るのは、中学生以来だ。
あ〜ちゃんから寝息が聞こえてきた。ふと寝顔を見る。
その寝顔を見て、心底自分が嫌んなった。
助けようと思って、した事が逆に苦しめてしまった事。
助けてくれると思ってる人に抱きしめられたって訊いて、ほんの少し嫉妬してしまった事。
ほんと、自分が嫌んなった。そしたらまた、涙が出てきた。
隣には、あ〜ちゃんが寝てるからゆかは声を殺しながら泣いた。
涙と一緒に嫌な自分も流れればいいなって本気で思った。
【A】
ゆかちゃんが泣いてる。肩を震わせて声を殺して泣いてる。
きっとゆかちゃんはあ〜ちゃんのためと思って色々考えて行動してくれたんだと思う。
それはすごく嬉しい。泣きたいくらい嬉しいんよ。
でももうこれ以上ゆかちゃんには、あ〜ちゃんの事で悩まないでほしいんよ。
これ以上足を突っ込むと、ゆかちゃんも辛い目に会いそうで、それがあ〜ちゃんは嫌なんよ。
「ありがとう、ごめんね。ゆかちゃん。大好きだよ」
あ〜ちゃんはそう言って、震えてるゆかちゃんの肩をそっと抱きしめた。
ゆかちゃんの肩は細くて、触れただけでも折れちゃいそうな細さ。
あ〜ちゃんが抱きしめたらゆかちゃんの震えが止まった。
人は優しく抱きしめられると安心するんだね。
あ〜ちゃんは、ゆかちゃんを抱きしめつつ、今日のっちに抱きしめられた事を思い出しながら眠りについた。
最終更新:2009年11月01日 03:42