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「のっち、ゆかと付き合ってよ」

数分の沈黙に耐え切れなくなって、ゆかはそう呟いた。さっきから二人で一つのベッドに入って、のっちの手はゆかの頬を行ったり来たり。のっちの目の色はいつもと違ってた。キスしたいんだろうな、ってすぐに分かった。
のっちはうん、って頷いてすぐにゆかにキスをした。前とは違う潤ったのっちの唇は、薄くて、柔らかくて、凄く気持ち良かった。


案外あっけないね、恋人同士になる事なんて。あれだけ恋焦がれていたのっちと、こんなにも簡単に結ばれる事が出来た。出会ってからかなり時間は経ったけど、「あぁ、やっとか」でもなく今はまだ実感が湧かない。
きっとこれから、嫌でも実感は湧いてくんだ。女の子と恋愛なんてすんの初めてだし、不安が無い訳じゃないけど、きっとのっちだったら大丈夫。


「女とヤるの、初めてだよね?」
「うん…」
「じゃあ、結構物足りなさ感じるかもしんないよ」

のっちは男よりは器用な手でゆかの服を脱がしていった。裸になったゆかを見下ろしながら、あの零れ落ちそうなくらい大きな目を細めてのっちは微笑んだ。
その瞬間、ゆかは察した。不安なのはのっちも同じなんだって事。そんな事も分からないでゆかはのっちに身を委ねてた。そんなのっちの、前より少し痩せた頬を撫でてゆかも微笑む。

のっちはまた笑った。
今度は眉をハの字にして笑った。
テレビの灯りがチカチカとのっちの肌の色を変える。明るいのは嫌だ。のっちの体が綺麗だから、ゆかの体が貧相に見える。それをのっちに見られるのが嫌だ。恥ずかしい。同じ女だから、男とは違うから、もちろん同じ体同士、形は比較出来る訳だし。

「…のっち、テレビ」
「うん」
「テレビ…消して」
「ん」

のっちはテーブルにあるリモコンに手を伸ばすと、ボリュームを下げただけで電源を落としはしなかった。
深夜の下品なバラエティーの音声はほんの僅かになったけど、それでも白い肌はチカチカ色を変えた。

「テレビ消してよ」
「どうして?あ、明るいとダメな人?昼間にエッチとか出来ない人か」
「のっち出来んの?」
「出来るよ、恥ずかしい所なんてお互い見慣れてるでしょ、同じなんだから」

……正論かもしんない。
だけどそれは男の意見っぽいなとも思った。性器は顔と同じで、作りは一人一人違うって話を聞いた事がある。他人のと見比べた事はなかったけど、形が云々という話を高校の修学旅行の夜に少しだけした事はある。皆何かと悩んでるっぽかった。
だから同じと言えば同じなんだろうけど個人差は確かにある訳で。だからのっちの言う「同じなんだから」ってのは、半分正解で半分間違いなんだと感じたけど特に何も言わず小さく頷いといた。
のっちは小さい事を気にしない子なんだ。それは救いでもあり、ゆかを悩ませる。由里ちゃんのは、どうだったの?その前の彼女は?のっちのこの目は、ゆか以外の顔を知ってるんだ。触れて、舐めて、違いを把握出来るんだと思うと、なんだか悔しくて嫉妬した。





さらに悔しい事に、今まで男とヤってイった事はなかったのに、ゆかは呆気なくイかされてしまった。男が下手でのっちが上手かったとかじゃなく、初めてセックスがこんなにも気持ちが良い物だと知ったんだ。ちょっと素直に、感動してしまった。

「かしゆか、声めっちゃ可愛いね」
「……」
「何、怒ってんの?」
「…怒っとらん」
「じゃあ何?」
「…のっち優しくない」
「えー優しくしたじゃん、優しくしたつもりだよ?」
「テレビ消してって言っても消してくれんし、待ってって言っても待ってくれんし」

格好悪いなぁ。
あれだけ余裕ぶっといて、ゆかはこんなにも簡単に弄ばれてるのかと思うと。甘えん坊で、寂しがり屋、それでもってエロい。ムカつく、末っ子体質のゆかですらも母性本能をえぐられていくこの感じ。まじでムカつく。

のっちはゆかの腰を優しく抱き締めて、ゆかの肩に顔を埋めた。


「ごめんね、」

その甘い声はズルいと思う。
ゆかはもう、これからもこの子に弄ばれてくしかないのかな。いや、エッチの時くらいは許そう。それくらいの器がないときっとこれから付き合って行けないぞ。

「ゆかも、のっちにしてあげる」
「えーいらんわぁ」
「なんでよ」
「かしゆか爪長ぇもん、痛いわ」

あ、しまった。
そりゃそうか、こんな爪じゃ傷付けちゃうか。ゆかはガッカリ肩を落とすと、のっちは優しく頭を撫でてくれた。

「落ち込んでんの?」
「違うもん」
「違うもん、だってー超可愛いんですけどー」
「おちょくっとんのかコラ」
「また今度してよ、爪切ったら、ね?」
「……うん」


それでゆかは次の日の朝、爪を切った。
裸のまんまベッドで丸くなって眠るのっちは赤ん坊みたいで可愛い。昨夜、ヤっちゃったんだなぁゆか達。てか昨夜、恋人同士になったんじゃん。あーどうしよう、今更ほっぺが緩んじゃう。
すやすや眠るのっちの柔らかい頬をつつくと、低く唸って眉間に皺を寄せた。のっちの短い爪にはのっちらしいネイル。これ、ネイルサロンとか行ってんのかな、そうじゃないとこんな綺麗に塗ったり出来ないよね。少しだけ、この手に触れる事の出来るその人に妬いたけど、これっぽっちの事でいちいち妬いてたらこれから先どうなんのって馬鹿らしく感じたりなんかもして。
のっちの指って、短くて可愛い。細くて長くて綺麗な指とかじゃないけど、なんか癖がある。ウィンナーっぽいかも。面白い形してる。

のっちの手を見つめてるだけで、かれこれ数分経った事に気が付いて、ゆかは昨夜の残りのスープを温めて、もう一つホットサンドを作る事にした。のっちが起きたら食べさせてあげよう。そうしよう。

「ん〜……」
「あ、起きた?」

キッチンから覗くと、のっちは大きな欠伸をしながら長い腕をぐっと伸ばしてた。やっぱりその肌は白くって、黒い髪が映える。だけど大きな目はショボショボでなんか情けない。だけど可愛い。

「…んー」

バタッ、とまたのっちは寝る体制に。

「二度寝かよ」

ゆかはそう呟いて笑った。のっちはどこまでもだらしなくて自由だ。そんな恋人も良いじゃんかね。
少なくともゆかは、この朝に幸せを感じるよ。
まだ短い爪には慣れないけどね。



◇0H:終◇






最終更新:2009年11月01日 03:45