初めて好きを認めたのは、こんな雨の日だった。
「・・・好き、なの?」
「・・・そうゆうの、、面倒だな」
「・・・そっ、か、、」
[002:It’s rainy day]
201号室の住人は、いったいどんな人なんだろう?
あのセレブと噂の“あ〜ちゃん”の彼氏、なのかな?
でも、セレブの彼氏があんなとこ住んでる?
そもそも、深夜のあの声、あれ、あの子のなの?
いやー、ちょっと!それはまずいでしょー。ゆか何考えてんのよ。だめだめ!
変な思考回路出てきたーあせるなーやめやめ!
仕事を終えて、いつものように家に帰ると、カヨちゃんからメールがきた。
『明日一緒にクラブいこ!もう強制だからね!』
なかば強引なメール。
だけど、そうでもしてくれなきゃ一生クラブに出入りできなそう。
やっぱりカヨちゃんていい子だな。本当、仲良くなれてよかった。
『了解!着いたら鳴らすね!21時には行けるかな?』
明日のイベントは確か20時から。
仕事から帰ってきて、着替えてメイク直して、、、
うん。21時には行けるな。あぁ、やっぱりちょっと不安。
明日の服を考えながら、缶ビール片手にうとうとしてた私に、いきなりの騒音が襲い掛かった。
間違いない。201だ。今日はずいぶん帰りが早い。隣から爆音の音楽が漏れている。
本当これ困るんよね。ゆか、もう寝たいのに。明日も仕事なんだし、、。
あ、でも、今日はまだセレブちゃんが来てる様子ないな。彼氏ひとり、か。
いやいやいや、何考えてんのよ、ゆか!
そうゆんじゃなくて!ただ迷惑なんだよ、この音。
「もうっ!」
201号室側の壁を軽く叩いてみる。
—トン—
小さく音を鳴らした壁は、なんとも薄くて切ない。
こんな爆音じゃ、隣からの些細な抗議の訴えにも気付かないだろうな。
なんて考えてると、
—トン—
隣から抗議のお返事。
まじで?どうしよう、、。でも、悪いのはそっちでしょ?
試しに、
—トントン—
今度は小さく二回音を鳴らす。するとすぐさま、
—トントン—
これは、、
こいつ、楽しんでやがる、、。
ゆかは仲良くなる気はないの!
嫌な女ともかかわりたくないし、その彼氏とももちろんかかわりたくない。
—ドンッ—
最後に一発デカイのかましてやったよ。実際、今になって猛烈に後悔してるけど。
だけど隣から漏れる爆音が小さくなったのに気がついた。
そして聞こえてきた壁の音。
—トトトトン—
・・・なんのリズムよ、それ。
そんなこと返さないで謝ってよ。毎晩毎晩うるさいんだか、、
あ、、
“ご・め・ん・ね”かな?
まさか、ね。そんなお洒落な人じゃない、よね?
あ、でも、、嫌な女だったけどお洒落で可愛かった。
その彼氏かぁ、、お洒落、かもな。
隣から聞こえる小さな音がなんだか心地よく聞こえて、ゆかはすぐに眠りについた。
「カヨちゃーん、、出てよー、、」
何度鳴らしても電話に出ない。21時に行くって言ったじゃーん、、。
ひとりで入っていくには勇気がいるよ。てか無理だよ。
絶対テンション上がりまくっちゃって気付いてないな、、。
もうどうしようかな、諦めて帰ろうかな、、
「入らないの?」
入り口の前で顔を伏せてると、後ろから声が聞こえた。
あぁ、待ち合わせの人、ね?ごめんなさいね、ゆか邪魔だね。
そう思ってどこうとしたら、
「ねぇ?」
後ろから肩を叩かれた。
へっ?ゆか?ゆかに聞いたの?
声のする方、恐る恐る振り返ると、ショートボブにヘッドフォンをつけた文句なしに綺麗な東京女がいた。
「入るんでしょ?」
その東京女はゆかの手をひいて、グングン中に入っていった。
ちょ、ちょ、ちょ、ちょ、ちょっとまって!!
まだ入るって言ってないし!てか、あなた誰だし!?
いきなり手、つかむか?普通。
ここにくる人たちは皆そうなの?
ゆかにはまったくわからん!
それでも、この綺麗な東京女に手をひかれたのは、正直悪い気はしなかった。
「誰見にきたの?」
前を歩く東京女が話す。
誰?誰とか、わかんない。ゆか、何しに来たんだろ?
何も言えないでいると、立ち止まってゆかの顔を覗き込んだ。
ちょ、ちょっと、近いよ、あなた、、。
「まぁ、何でもいいけど」
それだけ言って、また歩きだす。
フロアに出るとなんとも賑やかで、軽く目眩を覚えた。
あたりはザワザワしてるし、周囲の視線が気になる。
そんな中でキョロキョロ見渡すと、少し先にカヨちゃんを見つけた。
手を振ると気付いてくれた。だけどちょっと驚いてた。
「あ、友達?」
東京女が聞く。横顔も美人だ。
「あ、はい」
そっか、って少し笑って、じゃぁね、ってゆかの顔も見ないで奥へと消えてった。
東京の人はわけわからん。親切なのか、冷たいんだか、いったいどっちなんよ。
東京女が消えるとすぐにカヨちゃんがやってきた。ものすごい剣幕で。
「カヨちゃー
「かしゆ!今の人、知り合い!?」
へっ?今の人って、、今の?
「全然。さっき入り口で会っただけ」
「えーっ!いーなー!」
なんでも、さっきの東京女はちょっと人気なクルーの中のひとりで、
たまにDJもやるんだけど、その容姿と佇まいで男女問わずの人気なんだとか。
「へぇー、じゃあ人気者なんだ?」
「人気者ってか、、超人気者?」
「なにそれーw」
実際芸能人でもあるまいし、クラブとはいえ、素人が集まってるだけのこの場所で人気者っていってもなぁ。
確かに超美人だったけど、ゆかは今いち興味ないなぁ。
東京の女ってだけで、すでに気がひけるもん、、。
「え?あの人すごい気さくらしいよ?知らないけど、、」
うっそ?本当?
でも、カヨちゃんがそうゆうなら、そうなんだろうな。
「めっちゃかっこいいんだって!」
ふーん。
でも、カヨちゃんがそうゆうなら、かっこいいのかもな。
その日は知らぬ間に、目がその人を追っかけた。
名前を彩乃というらしい。でも、そう呼ぶ人はいないらしい。
皆が“のっち”と呼ぶからカヨちゃんもそう呼ぶけど、実際本人に言ったことはないらしい。
へぇー。本当に人気者なんだ。
じゃぁ、ゆかちょっと羨ましい存在?手ひかれて、ちょっとだけど喋っちゃった。
だけど“のっち”は誰にでもそうなのが、すぐにわかった。それなら全然羨ましくない。
カヨちゃんはどこに惹かれたんだろ?ゆか、全然わかんない。
外に出ると雨だった。
生温くて気持ち悪いけど、
クラブに行ったゆかは、ちょっと強い女になった気がして、
傘もささずに帰った。
最終更新:2009年11月11日 03:43