身体のラインを辿りながら息を吸い込むと、
ゆかちゃんから漂う甘い匂いがのっちの鼻を擽る。
彼女のお気に入りの入浴剤の香り。
家から持ってきたんじゃね…。
慣れ親しんだいつもの香りに、
ここが旅先だってことを一瞬忘れてしまいそうになった。
ただやっぱり何かがいつもと違うな…
ゆかちゃんもなんか…緊張しとる?
触れる度肌が返す反応から僅かに迷いや不安みたいなものが伝わる。
安心させたくて、緩く髪を撫でながら顔を見つめた。
綺麗な、深い、瞳。
ゆかちゃんの目、好き。
彼女の魅力というと、まず声をあげる人が多いけど、
のっちは目も彼女を小悪魔たらしめる、大きな魅力だと思う。
ゆかちゃんの目は、深い。
厚い前髪も手伝って
遠目にはあまり光を跳ね返さないように見えるその目には
例えばあ〜ちゃんのそれとは違って、
感情の機微が露骨には顕れない。
それでも知りたくて近づいていくと、
近づけた人間だけが見ることの出来る景色がある。
思いの外大きく色素の凝縮した黒目。
潤沢に潤う瞳。
その目を映り込んだ自分すら美しく思わせる
…溺れそうな絶対美。
夜のこういった場面では何故か伏し目がちになることがほとんどで
目が合ってもすぐ目蓋が閉じたり反らされたり。
だから今だって見つめ合えたのは
ほんの数十秒にも満たない短い時間。なのに
時間が止まったみたいに長く感じた。
なんて……綺麗な人なんだろう
のっち、今まで…さっきまで、
どうやってこの人に触れてたっけ
手を繋いで、キスをして、抱き締めて、
そんなことを当たり前のようにしていた自分に
当たり前のようにゆかちゃんに愛されていた自分に
気が狂いそうなほど嫉妬した
「…キス、…して…?」
キスを乞われて我に返るまで、息をしていたかどうかも分からない。
やっぱり今夜は来ちゃいけなかった。
もう多分どんなに拒まれても引き返せない。
確信した。
つづく
最終更新:2009年11月11日 03:44